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【7章連載中】ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する【アニメ化しました!】  作者: 雨川 透子◆ルプななアニメ化
〜6章〜

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242 約束


 アルノルトは、リーシェの頭にその手を添える。


「もう二度と、か」


 ただ触れるだけというよりも、抱き寄せるようなやり方だ。

 僅かに苦笑するような吐息を交え、口元をリーシェの髪にうずめる。


「――すまなかった」

「……っ」


 我が儘をやさしく甘やかし、リーシェにそうやって詫びながらも、決して頷いてはくれなかった。


(……アルノルト殿下の瞳に映る、ご自身の未来は……)


 果たせない誓いを立てる人ではないと、リーシェが誰よりも知っている。


 多くの隠し事を持とうとも、アルノルトはリーシェとの約束を破らない。

 その誠実さを信じているからこそ、かなしかった。


(このお方の望んでいることは、遥か遠い戦争の果てにあって)


 ゆっくりと目を閉じると、滲んだ涙が溢れそうになる。

 リーシェはそれを堪え、アルノルトに額を擦り寄せた。


(いまの私には、決して届かない。……七度の人生を重ねても、まだ遠い……)


 それでも、ひとつの覚悟をする。


(私のこれまで得てきたすべてを、アルノルト殿下の未来のために)

「…………」


 リーシェが心の中で結んだ決意を、アルノルトが知るはずもない。

 それなのにアルノルトは、リーシェが縋るのを厭うことなく、何度も頭を撫でてくれる。


「……もう少しだけ」


 リーシェはアルノルトの首筋に額を押し付け、懇願する。


「殿下のお傍にいても、いいですか」


 怪我をしているときに他人が傍に居るのは、アルノルトの望むところではないかもしれない。

 救出した女性をリーシェが手当てしている間、アルノルトの治療は彼自身が行ったのも、恐らくはそれが理由だろう。


 けれどもアルノルトは、リーシェの左手に自身の右手を絡めながら、許してくれる。


「ああ」

「……」


 ほっとして、更に彼へと甘えたくなった。


「……ずっとでも?」

「構わない」


 強張っていた体から、ほんの少しだけ力が抜ける。小さな子供がするように、ぐりぐりとアルノルトに頭を押し付けた。


 アルノルトは少しだけ笑ったのかもしれない。その表情を見ることは出来なかったが、代わりに指同士を繋いであやされる。

 リーシェは、自身の感情がぐずぐずと溶けて双眸に滲むのを感じながら、涙声になるのを誤魔化して呟く。


「こうしてぎゅうっとしていたら、いつもより少し、殿下のお身体が熱いです」

「……そうか」


 アルノルトの体温がリーシェより低いことを、何度も触れて知っている。

 その肌が僅かな熱を帯びていることは、負傷と無関係ではないだろう。


「お熱が、あるのかも……」

「…………」


 そう告げると、リーシェを膝に乗せていたアルノルトが、リーシェを抱き込んだまま後ろに倒れ込む。


「あ……!」


 ぽすんという柔らかな音と共に、アルノルトは仰向けになった。その上にうつ伏せに乗る体勢になったリーシェは、彼の状況を思って慌てる。


「いけません、お怪我に障ります……!」

「――もう、血は完全に止まっている」

「!」


 そう言われて息を呑み、体を起こして側腹部の傷口を見遣る。


(……本当に、女神の……?)

「…………」


 アルノルトがリーシェの後ろ頭に手を添えて、視線を傷口から外させられた。

 リーシェは再び抱き寄せられ、アルノルトの上にうつ伏せになって、頭を撫でられる。


 上半身を晒したアルノルトの体に触れていることは、冷静になればとても恥ずかしいはずだ。

 けれどもいまのリーシェには、温かさと共に安心を感じられた。


(心臓の、音)


 ゆっくりと目を眇めながら、リーシェは安堵を口にする。


「……殿下の引いていらっしゃるその血が、命を守って下さったのですね……」

「――――……」


 リーシェの言葉に、アルノルトは少しだけ驚いたようだった。


「アルノルト、殿下?」

「……お前の考えは、いつも思わぬ見方を持っている」


 アルノルトの指が、リーシェの薬指にある指輪をなぞる。


「女神の血が及ぼす影響については、伝承と事実が入り混じったものばかりだ。クルシェード語で書かれた聖典を読み漁ったこともあったが、断定は出来ない」

「……」


 以前にアルノルトが話してくれたことだ。幼い頃のアルノルトは、女神の言語であるとされるクルシェード語を、独学で身につけたのだという。


 どれほど難解な言語であっても、アルノルトにとっては母に纏わるものだ。

 大人ですら投げ出すような本を、小さなアルノルトはひとりぼっちで、ずっと静かに読んでいたのだろう。


「――あの男」


 アルノルトが呟いた言葉に、リーシェは船上で対峙したフード姿の人物を思い浮かべる。


(あの人物は、殿下のお母君のことを知っていた……)


 リーシェは少しだけ身を起こし、仰向けにこちらを見上げるアルノルトの首筋に指を伸ばす。

 先ほど秘密で口付けた傷に触れ、少し掠れた声で尋ねた。


「この傷は、お母君に……?」


 出会ったばかりのころ、初めての夜会でこの傷を見て、仔細を尋ねたことがある。


 あのときのアルノルトは、何も答えてくれなかった。

 けれどもいま、リーシェの目の前にいる彼は、泣きたくなるほどに穏やかな声音で紡ぐ。


「――そうだ」

「…………っ」


 以前から推測していた想像を肯定されたことが、かなしかった。


【アニメ情報】

ルプななアニメ、2024年1月放送スタート!


挿絵(By みてみん)


最新情報が解禁されています!

・ルプなな新規PV公開

・新規キービジュアル解禁

・リーシェ/アルノルトの立ち絵公開

・テオドールの声優さま・立ち絵

・オリヴァーの声優さま・立ち絵

・アニメOP曲/ED曲情報解禁


詳細はこちら

https://note.com/ameame_honey/n/n59a401ece322

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― 新着の感想 ―
[良い点] るぷなな更新ありがとうございます! コミカライズからこの作品を知り、なろうの原作を読み、漫画も小説も購入させていただき、二人のいちゃいちゃシーンは何度も読み返すぐらい大好きです 他の作品の…
[良い点] アルノルトの体温上がってるの、照れているとかだったりしたら、ちょっと嬉しいです。
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