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【7章連載中】ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する【アニメ化しました!】  作者: 雨川 透子◆ルプななアニメ化
〜6章〜

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222 かつての頭首とかつての先輩

【6章3節】



 リーシェとアルノルトの乗った馬車は、奴隷商人の商船が停まる港から離れたあと、運河の街ベゼトリアの細い路地へと入り込んだ。


 尾行されていないことは確認済みだ。それでも路地をぐるぐると周り、途中でいくつかの馬車に乗り継いで、万が一追っ手がいたときの対策を打っておく。


 これについてはアルノルトが、全面的にリーシェに任せてくれた。

 アルノルトは普段、尾行をわざわざ撒くことはせずに別の手を打つそうだ。そのためか、リーシェが御者にルートを伝えるのを、隣で面白がるように聞いていた。


 そうしてやっと皇族用の屋敷に戻ったあと、リーシェはエントランスでアルノルトに念を押す。


「アルノルト殿下。先ほど私がおねだりしたこと、本当に叶えて下さいますか?」

「……」


 アルノルトは、脱いだ上着をオリヴァーに預けながら、僅かに苦い顔をして言った。


「叶えてやる。ただし」

「ひゃ」


 屈み込んだアルノルトが、そのくちびるをリーシェの耳元に寄せる。


「約束通り、『その件』は徹底して隠し通せ。……出来るな?」

「〜〜〜〜……っ」


 すぐ傍で紡がれる囁き声が、柔らかく耳に触れてくすぐったい。

 リーシェは自分の口元を手で押さえ、必死にこくこくと頷いた。顔が真っ赤になっている自覚はあるが、こんなものどうしたって避けられるはずもない。


 リーシェから離れたアルノルトは、依然として物言いたげな表情のままだ。そのやりとりを見ていたオリヴァーが、従者らしくアルノルトに進言する。


「我が君。婚約者さまに意地悪をしては駄目ですよ」

「していない。――このくらい分かりやすく言い聞かせておかなければ、こいつは平気で危険な真似をする」

(ううう、確信犯……!!)


 リーシェが恥ずかしくて大変なことになるのを、アルノルトは自覚して振る舞っているのだ。オリヴァーの言う通り、ある意味で意地悪なのである。


「お、お風呂に入って参ります! それでは!!」


 リーシェはなんとかそう告げて、エントランスの階段をぱたぱたと上がった。恐らくはアルノルトがオリヴァーに対し、リーシェのねだった『あること』の説明をしておいてくれるはずだ。


(それに明日は午前中、ドレスとは別の支度があるわ。オリヴァーさまが手配して下さっていた技術者の方、とっても楽しみ……あ!)


 浴室のある三階を目指していると、人の気配が近付いてくるのを感じる。階段の踊り場についてみれば、想像していた通りのふたりに出会った。


「ラウル。ヨエルさま」

「よお姫君。遅い時間のお帰りで」


 ヨエルの後ろを歩いていたラウルが、へらっとした軽やかな笑みを浮かべる。ヨエルは相変わらず眠そうな目で、ゆっくりとした瞬きを重ねていた。


「ヨエルさま、ご体調はいかがですか? 薬は少しずつ抜けていくはずですが、ご無理をなさらず」

「んむ……」

「この剣士殿はずっと眠っていて、いまようやくお目覚めなのさ。一応殿下に言われた通り、『お嬢さまと従者の潜入作戦』については説明しておいたが」

「そうだったのね。ありがとう、ラウル」

「滅相もございませんお嬢さま。いまはおふたりがご帰宅なさった気配を感じたので、お出迎えに参る途中でございました」


 わざとらしく一礼したラウルのことを、ヨエルが無感情に振り返る。ラウルがヨエルと行動を共にしているのは、アルノルトがそう命じたからだ。


『あの剣士はシャルガ国側の情報を持ち、奴隷商人の幹部の顔を見ているのだろう。利用した方が効率がいいのであれば、別行動を取る理由も無い。その代わり』


 アルノルトはラウルに対し、ヨエルと行動を共にするよう告げた。


(アルノルト殿下にとって、ヨエル先輩は味方かどうか断定できない存在。それを監視させるにあたって、ラウル以上の適任はいないわ)


 ラウルは『狩人』の頭首である。気配を辿ることも追うことも、隠れている人間を探し出すことも、諜報集団である『狩人』の得意とすることだ。リーシェだって、狩人人生にラウルから教わった。


(けれど)


 この状況を、もちろん怪しんでもいるのだった。


(アルノルト殿下は、随分とラウルを便利に使っていらっしゃるわ。こうも容易く信用なさっていることが、意外に感じられてしまうほどに……)


 ラウルがアルノルトに従うのは、ラウルが仕えるシグウェル国に、アルノルトが手を差し伸べたからだ。造幣事業による協力体制に恩義を感じており、そのために動くと言っていた。


(……利便性が感じられるものであれば、躊躇なくそれを使うのがアルノルト殿下。それはよく知っているし、人材にも適用されるというだけなのかもしれないけれど……)


 それにしても、あまりに重宝しすぎているのではないだろうか。


(こんなことを目の前で考えていたら、すぐにラウルに見抜かれてしまうわ)


 そんな内心は顔に出さないよう、リーシェはいたっていつも通りに振る舞う。もしもラウルに見抜かれていたとしても、彼だって顔には出さないだろう。


「それにしても相変わらず、こんなことまでやるとはな。皇太子殿を従者役にして囮作戦、それも皇太子妃殿下が囮なんざ」

「だ、だから! 私はまだ殿下の奥さんになれた訳じゃないんだってば……!」


 呆れ半分に揶揄ってくるラウルに対し、一応はちゃんと反論しておいた。

 するとそのとき、これまでぼんやりして眠そうに聞いていたヨエルが、突然リーシェの方に歩み出る。


「――ねえ」

「!」


 ヨエルはずいっと身を乗り出し、リーシェの顔を至近距離から覗き込んだ。


「……ヨエルさま?」

「不思議なんだ。『アルノルト殿下』は間違いなく、ひとりきりで戦った方が強い人なのに」


 茫洋とした光を宿すヨエルの瞳が、不意にしっかりとリーシェを捉える。


「……それなのに、どうして君なんかを必要とするのかな?」

「え……」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] おおっとおぉ、ヨエルさん、最後かなりの爆弾発言ぶっこんできましたねぇ。それ、もしアルノルトに聞かれたらちょっとまずくないですか。 [一言] ウェディングドレス着たリーシェを見てアルノル…
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