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【7章連載中】ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する【アニメ化しました!】  作者: 雨川 透子◆ルプななアニメ化
〜6章〜

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212 なんだか妙に危ういです

「…………」


 ヨエルは胡乱げな顔をしたあと、アルノルトに抱えられたリーシェのことを指差す。


「……『妃殿下』?」

「まだ婚約者の身の上ですってば!」


 ヨエルに対しても説明しつつ、リーシェは内心で大慌てだった。

 何しろ、恋心を自覚した相手であるアルノルトが傍にいるばかりでなく、その腕に軽々と抱き上げられているのだ。


(殿下にこんなにくっついていたら、どきどきしすぎて息が出来なくなっちゃう……!)


 まだ声が出るうちに、リーシェは小声で訴えた。


「で、殿下……!」

「……」


 降ろして欲しい気持ちが伝わったのか、その右腕にリーシェを乗せていたアルノルトは、左手でリーシェの背中を支えながら片膝をつく。

 ただ手を離すだけでも良いはずなのに、リーシェを気遣った丁寧な降ろし方だ。


「怪我は無いな?」

「う……」


 離れ際、リーシェを労わるようなまなざしを向けながら、アルノルトが念を押した。


(ヨエル先輩が私に詰め寄っているのを見て、手早く引き離そうとして下さったんだわ。だから突然の抱っこだったのね……)


 急に抱き上げられて心臓に悪かったが、リーシェのためにそうしてくれたのだ。アルノルトを安心させるために、こくこくと頷いた。


「だ、大丈夫です! この方はこう見えて紳士的で、危ないことはありませんでした! 何も! 大丈夫です、やさしい人ですし安全です!」

「…………………………」


 アルノルトが僅かに目をすがめる。

 その海のような青色を持つ瞳が直視出来ず、リーシェは大急ぎで話を進めることにした。


「こ……こちらの方はヨエルさまと仰って、やはりシャルガ国の騎士さまのようです」

「……」

(興味がなさそうなお顔だわ……)


 一方のヨエルはといえば、アルノルトの全身を真剣に観察するように、じいっと一心に見詰めていた。


 かと思えば、いきなり視線の矛先をリーシェに切り替える。


「……ねえ君。さっきの『交渉』は?」

「交渉?」

「そ、その件は場を改めて……!!」


 アルノルトが目を眇めたので、リーシェは大慌てでヨエルに手振りを示した。アルノルトがここで即座に断れば、ヨエルの協力を得ることが難しくなる。


「それよりもヨエルさま、顔色が」

「……」


 元々が色の白いヨエルだが、いまは輪をかけて青白い。リーシェの言葉を聞いたヨエルは、思い出したように額を押さえた。


「……気を抜くとぐるぐるして、気持ち悪……」

「大丈夫ですか!?」


 蹲ったヨエルを見遣りもせず、アルノルトは淡々と口にした。


「目覚めても、使い物になるのはまだ先のようだな。リーシェ、一度上の部屋に戻るぞ」

「お、お待ちを。ヨエルさまを床から引き上げて、寝台に寝ていただきますので」

「……」


 アルノルトは溜め息をついたあと、ヨエルの傍に行こうとしたリーシェを手で制する。そのあとで、ヨエルの腕を雑に掴んだ。


「立て」

(アルノルト殿下が、他の方のお世話を……!)


 その振る舞いにびっくりする。アルノルトがやさしい人であるのは知っているが、敢えて露悪的な行動ばかり取るため、こんな光景は珍しい。


「う……」


 ヨエルはゆっくりと顔を上げて、アルノルトのことを間近に見詰める。

 その瞬間、金の瞳の瞳孔が、まるで猫のように開かれたような気がした。


「……あなたが一歩を踏み出す動きだけでも、全部に無駄がないって分かる」

「……」


 そう言ったヨエルこそ、これだけでアルノルトの力を見抜いたということだ。


 ヨエルはその上で、淡々と言った。


「あなたが俺たちの国に攻め込んできたら、きっと俺も含めてひとたまりもなく、全員殺されるんでしょうね」

「――――……」


 アルノルトは、その言葉にも興味を示さない。


 ヨエルの腕から手を離すと、寝台に向けてとんっと押す。ヨエルはふらつくように寝台に座り、大きく息をついた。


「……ね。リーシェ妃殿下」

(……ヨエル先輩……)


 彼のくちびるは、楽しそうに微笑んでいる。


(騎士人生のヨエル先輩は、後輩である私に目を掛けてくださっていた。けれど今回の人生では、あのときのような関わり方をすることは出来ないわ。……アルノルト殿下の婚約者として接するヨエル先輩が、こんなにも危うい存在だなんて)


 人間関係というものは、立場が変われば変化してしまう。

 繰り返す人生において、かつての顔見知りに再会して関わる度、リーシェはそのことを思い知らされるのだった。


 ここにいるヨエルは、リーシェのよく知る『先輩』でありながらも、いまは他国の騎士なのだ。


「『交渉』のこと、約束だからね。……絶対」

「……」


 そう言ってヨエルは、自らぽすんと寝台に倒れ込むと、あっというまに寝息を立て始めた。


「リーシェ」


 リーシェが僅かに緊張していたことを、鋭いアルノルトは察しただろうか。

 リーシェは小さく息をつき、彼のことを見上げる。

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