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【7章連載中】ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する【アニメ化しました!】  作者: 雨川 透子◆ルプななアニメ化
〜5章〜

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200 たしかに知るのは(5章・終わり)










 そして、もう一度耳に口付けられる。


「ひゃ……!」


 呼吸をしろなどと言っておいて、アルノルトはリーシェのあちこちにキスを落としてくるのだ。前髪に口付けられたあと、今度は左手が捕まった。


 アルノルトのシャツを握り締めて、力が入りすぎていたのが気取られたのだろう。それを窘めるかのように、アルノルトが指を絡めてくる。


 彼はリーシェの薬指、指輪を嵌めている付け根にも、甘やかな口付けを落とした。


(こんなにあちこちにキスをされたら、まるで自分がお砂糖菓子になったみたい……)


 落ち着かせるように穏やかな触れ方であろうとも、この状況で上手に息が出来るはずもない。


 額にキスをするためにか、上を向かされた。睫毛がぐずぐずと濡れているのに気が付かれ、慌てて拭おうとする。


「ご、ごめんなさい。自分からねだっておきながら、お見苦しいところを……」

「……」


 目元を擦ろうとした手を掴まれる。両手が囚われ、間近に囁かれた。


「可愛いから、隠さなくていい」

「……っ」


 あんまりな言葉に驚いて、目を丸くする。

 リーシェの頬は火照り、耳まで熱くなったのに、アルノルトの方はいつも通りの表情だ。


「……もっとも」


 けれどもまなざしとその声音は、普段より少しだけ穏やかだった。


「お前が可愛くなかったことなど、一度も無いが」

「~~~~……っ!?」


 そんな言葉を向けられたら、どうすればいいか分からなくなってしまう。


 本格的に顔を隠したくなって、それでも両手が塞がっているから、こうしてアルノルトの首筋に顔を埋めてしまうしかない。アルノルトはリーシェの右手を離し、空いた手でリーシェの髪を撫でた。


「リーシェ」

「……っ、もう、また意地悪……!」

「……仕方がないだろう」


 いま名前を呼ばれたら困ると告げたのに、アルノルトは悪びれる様子もない。それどころか、こんな追い打ちまで掛けて来る。


「顔が見たい」

「ひう……!」


 耳元で言われたら降参だ。アルノルトに珍しく何かを願われたなら、それを聞かない訳にはいかない。


 体の力が抜けた所、少し身を離したアルノルトに上を向かされる。気遣わしげな指の背が、火照ってしまっているリーシェの頬を、ゆるゆると撫でた。


「……苦しいか?」

(苦しいけれど、それは口付けの所為ではなくて……)


 そう告げたいのに出来なくて、リーシェは小さく吐息を零す。


(……アルノルト殿下に名前を呼ばれると、どうしてか無性に泣きたくなる)


 双眸のふちが、じわじわとした熱を帯びていた。


(それなのに、何度でもこのお方に呼んでほしい……)


 そんな風に揺らいだ心のことを、リーシェはシルヴィアから聞いている。

 グートハイルに出会ったシルヴィアは、矛盾した想いを吐露しながら、これが生まれて初めての感情だと口にしたのだ。


「……っ」


 深く呼吸を継いだリーシェは、やっとの思いでおずおずと力を抜く。


 背中を撫でてくれていたアルノルトが、柔らかく目を細めてリーシェを見下ろした。リーシェのまだ濡れている睫毛を指でなぞり、涙を拭うような仕草を見せる。


「……俺は、お前を泣かせてばかりだな」


 そんな風に紡がれて、きゅうっと心臓の辺りが疼いた。

 けれどもリーシェにとって、それに該当する場面といえば、思い出せる限りで一度だけだ。


「いまは、泣いていないです……」


 駄々を捏ねるように否定すると、アルノルトは呆れたようなまなざしを送ってきた。


「……嘘をつけ」

「んむ……っ」


 強がりを咎めるように、アルノルトの親指がリーシェのくちびるに触れる。

 真ん中の辺りをふにっと押された。これも、少し意地悪な触れ方だ。


「リーシェ」

「……!」


 やさしく名前を呼ばれ、やっぱり胸が痛い。


「お前にとって恐ろしいことなら、婚儀での口付けなどしなくてもいい。……そのために、どんな無理でも通してやる」


 ここまで言わせてしまうだなんて、我ながら怖がりな幼子のようだ。だからこそ、リーシェはアルノルトに告げた。


「……あなたの妻になるための誓いを、なにひとつ欠けさせたくありません」


 その上で、懇願する。


「どうか、口付けをして下さい。……旦那さま……」

「――――……」


 僅かに眉根を寄せたアルノルトの手が、リーシェの頬に添えられた。


「わかった」

「……っ」


 左胸はずきずきと苦しいままだ。

 それなのに、アルノルトにもっと近付きたいと、そんな衝動が湧き上がる。


(名前を呼ばれると泣きたくなるくせに、もっと殿下に呼んでいただきたい。……お傍にいるのが苦しく感じられるのに、離れたくない……)


 誕生日を祝われるということは、生まれて来たことを祝福されるということだ。


 何度も死を経験し、命を散らしてきたリーシェの心臓に、新しい鼓動が宿ったような心地がした。


(……私は、このお方に)


 生まれて初めての感情を、今はっきりと自覚したリーシェは、睫毛の濡れた双眸を閉じる。




(……アルノルト殿下に、恋をしている…………)




 リーシェがそれを理解した瞬間に、また柔らかな口付けが交わされたのだった。









----------

五章・終(六章に続く)

ここまでの内容を収録+書き下ろし小説の入った5巻が発売となります!(※発売日が変更となりました)


【書き下ろし】

戦闘後、このあとキスをねだるつもりでそわそわしているリーシェが、

「アルノルトにあちこち触られて、無事を何度も確かめられ、検分された」時の、いちゃいちゃベタベタに甘やかされるお話です。


*:..。o○★ *:..。o○★ *:..。o○★ *:..。o○★


6章の更新日は、Twitterで予告するまでお待ちください。

また、作品小ネタについてもお知らせしています。

https://twitter.com/ameame_honey


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― 新着の感想 ―
もう、もう、もう、めちゃくちゃ最っ高です……!!! なんなんですか!やばすぎます!尊いの度が過ぎている!! 殿下の「可愛い」発言に、思わず足をジタバタさせてしまいました! リーシェがようやく恋心を自覚…
本編にも大満足ですが 毎度書き下ろしのあらすじが天才的な煽り文句すぎて!!!!
最高に決まっってて大好きです❤️
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