表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【7章連載中】ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する【アニメ化しました!】  作者: 雨川 透子◆ルプななアニメ化
〜5章〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

219/318

198 儀式の練習













 アルノルトの、こんなに素直に驚いた顔を、リーシェは初めて見たかもしれない。

 そのあとでアルノルトは、僅かに眉根を寄せる。


「……リーシェ」

「……っ」


 アルノルトに何か言われる前に、慌てて彼の言葉を遮った。


「はしたないお願いで、申し訳ありません……!」


 アルノルトの服の袖を掴み、きゅうっと握り締める。


「どうしても、上手に出来る自信がなくて。ご迷惑なのは、分かっているのですが……」

「…………そういう、ことではない」


 少しだけ掠れた声だ。

 アルノルトはますます渋面を作り、リーシェを労わるように肩へと触れた。


「こんなに震えているくせに、何を言う」

「……これは」


 緊張し、体が強張っている自覚はある。けれど、アルノルトが慮るような理由ではないのだ。


「嫌なのでも、怖いのでもなくて……」


 そう告げてから、自分でも不思議に思った。


 求婚された直後のころは、アルノルトのことを警戒し、指一本でも触れないようにと約束してもらったくらいなのだ。

 それがやがて、手袋越しならば問題ないと告げ、いつしかそのまま触れられることも嫌ではなくなった。


 アルノルトにやさしく触れられると、ひどく緊張して頬が火照る。

 だが、それを嫌だと感じたことは一度もない。礼拝堂で初めて口付けをされたときも、嫌悪感や恐怖心はどこにもなかった。


 ただただ、左胸が苦しくなっただけだ。


「……ごめんなさい」


 リーシェは反省し、そっと俯いた。


「いくらなんでも、お嫌でしたよね。わ、わがままを……!」


 あのときはきっとアルノルトだって、何か思惑があっての行動だったのだ。それなのに口付けをねだるのは、許されたことではない。


「……」


 けれどもアルノルトは、はあ、と重苦しい溜め息をついてから口を開いた。


「……迷惑なわけではないと、そう言った」

「……え……」


 顔を上げると、アルノルトはやっぱり眉間に皺を寄せている。


 その渋面は、嫌なのではないだろうか。

 けれどもアルノルトは、諦めたように目を閉じたあと、顔を上げてからリーシェの髪に触れる。


 アルノルトの指がリーシェの横髪を梳き、やさしく耳に掛けてくれた。


(あ……)


 その触れ方で、これから何をされるのかすぐに分かり、心臓が跳ねる。


「……っ」

  

 赤い顔を見られるのが恥ずかしい。

 だというのに、アルノルトはリーシェの(おとがい)をすくい、リーシェを上向かせた。


(世界で一番の芸術品みたいに、綺麗なお顔……)


 青い瞳も長い睫毛も、見る者のまなざしを奪って離さない。

 そんな魔力を持っているのに、リーシェを真っ直ぐに見つめるのだから困る。


 挙句にアルノルトは、その親指でリーシェのくちびるをなぞるのだ。


 口付けの練習の、さらに練習であるかのような触れ方だった。

 くすぐったくてたまらずに、小さな吐息を吐き出す。


「……目は瞑れ」

「で、でも……」


 何かを話そうとすると、それだけで心臓が早鐘を打った。


「見ていたいのは、駄目ですか……?」

「……」


 青色をしたアルノルトの瞳は、満月前夜の月明かりに透き通っている。

 海のようで美しい双眸に、リーシェの姿が映り込んでいた。


 アルノルトはその目を緩やかに細め、リーシェをあやす。


「したいのは、婚姻の儀の練習なんだろう?」

「う……」


 仕方のない子供に向けて、やさしく言い聞かせるような紡ぎ方だ。


 婚儀では確かに目を瞑る。

 儀式としての口付けは、そういったしきたりが細やかに決められているのだ。


 とはいえ、せっかくするのであればすべてを知りたいという好奇心も、リーシェの中に存在していた。


 アルノルトは、それを見透かしたのだろう。


「ほら。閉じろ」

「ん……っ」


 そう言って、リーシェの瞼に柔らかなキスを落としてくる。

 睫毛の傍にくちびるで触れられて、反射的にぎゅうっと目を閉じた。


「……それでいい」


 瞑目するだけで褒めてくれるだなんて、アルノルトは世界一リーシェに甘い。


 とはいえ、アルノルトが我が儘をすべて聞いてくれるのかは、どことなく不安でもあった。


(瞼にキスで終わりと言われてしまったら、どうしよう……)


 そんな風に心の中で考えたあと、恐る恐る目を開ける。

 そして、理解した。


「……!」


 注がれていたのは、とても真摯なまなざしだ。


(アルノルト殿下は、いつも私の願いを叶えてくださる。……絶対に……)


 実感して、くらくらと眩暈すらしそうだった。

 リーシェはアルノルトのシャツを握り込む。自分から口付けをねだっておいて、我ながらひどい有り様だ。


「無理をする必要は無いんだぞ」

「……」


 ふるっと首を横に振る。


「……やめないで」


 リーシェはどうしても、アルノルトにキスをして欲しい。

 アルノルトを見上げながら、小さな声でねだった。


「おねがい、殿下……」

「…………」


 すると、もう少しだけ上を向かされた。


(……あ)


 今度は自然に目を閉じる。

 反対の手で腰を抱き寄せられ、アルノルトがゆっくりと近付いた。


「――――……」



 そして、互いのくちびるが確かに重なる。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ねぇ、もう、、、ほんと、すごい。うん、すごいよ殿下。 リーシェ様の天然タラシ攻撃を直で受けて正気を保ってるよこの人
[一言] きゃー!きゃー!
[一言] (*/ω\*)キャー!! 次回予告でオーバーキルです
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ