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【7章連載中】ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する【アニメ化しました!】  作者: 雨川 透子◆ルプななアニメ化
〜5章〜

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184 歌姫の諦観

※昨日も更新しています。前話をお読みでない方は、ひとつ前のお話からご覧ください。


※1話の文字数が多かった回を分割し、予定より更新回数を増やすことにいたしました!土曜まで毎日更新します。


「……シルヴィア殿」

「だって、逃げられるはずがないわ」


 シルヴィアは、頼りない肩を震わせながら、それでも泣き出すのを堪えるような声で言う。


「小さい頃から、上手に出来ないと怒られた。……何かに失敗すれば、私なんて簡単に殺されるんだって、いつも思っていたの」

「シルヴィア……」


 リーシェは、彼女に告げられていた言葉を思い出す。

 幼い頃、風邪を引いたり怪我をすると、置いて行かれる恐怖に襲われたと話してくれた。それは、劇団のことを言っていたのではなくて、諜報組織の話だったのかもしれない。


「私なんかが、グートハイルさまと一緒にいては駄目」

(シルヴィア……)


 シルヴィアは俯いたまま、悲痛な声で呟いた。

 リーシェが思い出したのは、シルヴィアが泣きながら口にした言葉だ。


『私自身が一番分かってるの。私は身寄りもなくて、騎士さまにふさわしくない人間で、だから、結ばれなくて当たり前なのに』

『誰よりも私自身が、彼の傍にいる自分を認められない……!』


 リーシェの左胸がずきずきと痛む。


 けれどもそこで、これまで沈黙していた人物が口を開くのだ。


「――悲観なさる必要はありません、歌姫殿」

「!」


 微笑みながら言ったのは、騎士に扮したラウルだった。

 ぽかんとしたシルヴィアが、壁際へ控えるように立っていたラウルを見上げる。


「諜報活動で実際に動く人間は、組織にとっては商材です。配下がどれほど優秀な諜報員であろうと、その表の顔、『正体』をおいそれと他人に明かすことはない」

「あ、あの……?」


 ラウルはするすると言葉を紡ぐ。

 それは、事前にあの城壁の上で、リーシェとアルノルトと話していた内容だ。


「シルヴィアさまが諜報員だと知っているのは、シルヴィアさまを雇っていた組織のごく末端だけのはず。それは、諜報の品質を保つためには当然です。世界各国で活躍する歌姫の正体が、官僚に近付く諜報員だと知られれば、二度とそのような活躍は期待できなくなる」

「そ……それはそうかもしれませんが。あなたは、一体……?」


 シルヴィアの問いに答えないまま、ラウルはふっと笑んだ。

 そのあとでアルノルトに向き直り、さも進言するような形式を取って告げる。


「さて、アルノルト殿下。報告をさせていただいた通り、シルヴィア殿を『使って』いたのは、ある種の傭兵的な組織です」


 ラウルは口元に笑みを浮かべ、いま初めて報告する事柄のように言葉を紡いだ。


「特定の主に仕える組織ではなく、世界各国を渡り歩き、そのつど最も高額な報奨を払う雇い主に従う者たちです。そうした者たちは性質上、比較的小規模な人数の上、末端の諜報員をことさら隠す傾向にありますね」

「騎士さま。それはつまり、『表』の顔がどれだけ著名な人物であろうと、その『裏』が諜報だと知る存在は少ないということですよね?」


 リーシェが念を押せば、ラウルは頷く。

 アルノルトは、さほどラウルの相手をするような素振りは見せず、あくまで淡々と言った。


「末端を『処分』するにあたり、組織は持ちうる手をすべて投じてくるだろう。……それを全員潰してしまえば、諜報員の表の顔を知る者はいなくなる」

「つまりね、シルヴィア」


 リーシェは、アルノルトやラウルが話していたことを、端的にまとめて彼女に告げる。


「シルヴィアの命を狙う人たち。……その全員を捕まえれば、あなたはこれから命の危険もなく過ごしていけるという推測なの」

「……!?」


 シルヴィアは、ぽかんとしてリーシェのことを見た。


「……それは、どういう……」

「そこの騎士さまが仰ったように、諜報組織における諜報員の『表の顔』は、それこそ重大な機密だわ。『歌姫シルヴィア』が諜報員であることは、あなたを雇っていた組織の人たちしか知らないはず」


 ラウルには、他の諜報組織に対する豊富な知識がある。そんなラウルの出した結論であれば、信用に足るだろう。


「あなたを使っていた組織は、どちらかというと傭兵のような集団だという調査結果。つまりは組織内だけで完結していて、なおさら秘密を外に漏らさない。そんな性質について、シルヴィアにも心当たりがあるのではない?」

「それは、そうですが……」

「組織は面目のすべてを懸けて、あなたの口封じに来るはずなの。……組織全員が、意地でもあなたを殺しに来る」


 そうせざるを得なくなるように、ひとつ仕掛けも施してある。何故なら、シルヴィアにとっては恐ろしいであろうこの状況も、見方を変えれば好機だからだ。


「だからこそ、グートハイルさま。……あなたおひとりで、シルヴィアを守る必要はありません」

「リーシェさま……?」

「アルノルト殿下も、協力を約束して下さいました」


 リーシェは背筋を正し、真っ直ぐに告げる。


「――これより私たちは、シルヴィアを守り、未来を幸福に過ごしてもらうための計画を開始いたします」

「な……っ!?」


 リーシェは椅子から立ち上がると、密かに用意していた一枚の紙を手に取り、大きな円卓の中央に広げた。


「やりたいことの大枠は、至って単純です」


 そこに描かれているのは、夕刻にアルノルトやラウルと話し、その上で練った計画の概要だ。


「この先、シルヴィアを未来永劫守り続けることも、組織から逃げ続けることも出来ません。であれば敵を一網打尽にして、危険を排除するのが一番です」

「しかしリーシェさま! 一網打尽といえど、それほど容易い話では……」

「もちろんこれには、シルヴィアの協力が不可欠です。それから、劇団員の皆さまにもお助けいただきたく」


 リーシェはそう言って、用紙の中央に書かれた一文を指さした。


「なにせこの計画は、『囮計画』」


 そして、シルヴィアのことを見据える。


「舞台に立つ歌姫と、それを狙う武装した諜報部隊。――その構図があってこそ、初めて成り立つ大捕り物なのですから」

「……!」




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― 新着の感想 ―
[一言] 大捕物を題材に壮大なオペラが展開される!って感じですね!
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