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【アニメ化】ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜5章〜

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183/356

162 思わぬ状況に驚きです

***




 その日の午後、リーシェにとっては非常に気がかりな出来事があった。

 リーシェ自身に起きたことではない。婚約者であるアルノルトと、元婚約者であるディートリヒに関することだ。


「アルノルト殿下。本日は、本当にありがとうございました」


 夜になり、夜会用の装いをしたリーシェは、ホールに向かう途中の回廊でアルノルトにお礼を言う。


「……まさかアルノルト殿下が、午後のご公務に、ディートリヒ殿下を同行させて下さるとは……」

「…………」


 従者オリヴァーからその伝言があったのは、シルヴィアたちを見送ったあと、リーシェが婚姻の儀の打ち合わせをしている最中だった。


 心底びっくりしたのだが、どうやらそれはオリヴァーの提案だったらしい。

 城下を何か所か回るため、そのついでにディートリヒを回収し、アルノルトの仕事を見せてはどうかと進言してくれたようだ。


『……それは、アルノルト殿下のお邪魔にならないのでしょうか?』

『邪魔にはなるでしょうね。ディートリヒ殿下について、お噂はかねがね』

『オリヴァーさま……!』

『ですが問題ないですよ。多少の邪魔が入ろうと、我が君の仕事ぶりに大した影響はありませんし。年頃の近い皇族の公務を見学いただくのは、ディートリヒ殿下にとって有意義なお時間になるでしょう』


 爽やかな笑顔で言い切るオリヴァーに、リーシェはちょっぴり気付いてしまった。


『あの。ひょっとして、楽しんでらっしゃいます?』

『ははは、滅相もない! ただ、立場の近い同世代と接するのは、我が君にとっても刺激になりますので』


 それは果たして、良い刺激と言えるのだろうか。

 気になったものの、なんとアルノルトが承諾したと聞き、任せることにしたのだった。


「だ、大丈夫でしたか? ディートリヒ殿下が何か、ご迷惑をお掛けしたのでは」

「別に。公務に誰が同行していようと、やることに変わりはない」

「ですが殿下……」


 そのとき、回廊の傍にある植え込みから、がさっと小さな物音がした。


「!」


 リーシェは少しだけ驚いてしまう。だが、物音そのものにではない。

 音が聞こえた瞬間、隣にいるアルノルトが、リーシェを庇う仕草を見せたからだ。


「アルノルト殿下」

「……」


 アルノルトの背に隠されたリーシェは、ひょこっと横から顔を覗かせる。

 そのあとに、ふたりで生垣の横に視線をやった。


「猫、みたいですね」

「――そうだな」


 陰からするりと現れたのは、ほとんど子猫とも呼べるような、まだ小柄な黒猫だ。

 リーシェはアルノルトの前に出ると、しゃがみこんで黒猫に手を伸ばす。身を低くする様子がないところを見ると、人に慣れている猫のようだ。


「おいで、おいで」

「……」

「あ。……行っちゃいました」


 きっと、あの猫にもこのあとの予定があるのだろう。

 少々残念に感じながらも、立ち上がって再びアルノルトの腕に掴まった。


「庇って下さってありがとうございます。……ですが、あれが動物の気配であることは、アルノルト殿下にもお分かりだったのでは?」

「動物だからといって、それがお前にとって安全なものである保証は無い。そもそも獣に入り込まれる時点で、警備を見直す余地があるということだ」

「けもの……。子猫が……」


 とはいえアルノルトの言う通り、侵入経路があるのは良くない。


 誰かが連れ込んだのであれば、持ち物の確認に漏れがあるということだ。

 そして、猫が自力で入ってきたのであれば、木などを伝えば侵入できる城壁があるという証明になってしまう。


(アルノルト殿下は、些細な情報でも判断の材料になさるんだわ)


 アルノルトの思考の仕方について、学ぶべき点は多い。そう思いながら、少し考えてみる。


(テオドール殿下に教えていただいた、グートハイルさまのこと。アルノルト殿下は当然、ご存知でいらっしゃるはず……)


 見上げたアルノルトの横顔は、いつもと変わらない無表情だった。

 それから他愛もない会話を交わしつつ、夜会のホールに辿り着く。


「アルノルト殿下と、ご婚約者のリーシェさまがお見えです」


 ホールへの扉が開いたその瞬間、わあ、と柔らかな歓声が沸いた。

 シャンデリアに照らされた広大なホールには、たくさんの要人たちが集い、ワインの入ったグラスを手にしている。男女それぞれに注がれる視線の中を歩きながら、リーシェは来客の顔ぶれをそれとなく確認した。


(――何人か、初めてお会いする方がいらっしゃるわね。薔薇をイメージした衣装をお召しの方、あちらがディークマイアー閣下かしら? ハンナヴァルト卿がお連れの方は、以前話していらっしゃったご夫人ね。夜会の主催は現皇帝陛下だけれど、今夜もいつも通りご欠席。アルノルト殿下は、父君の名代を務める形に……)


 そこまで考えたところで、視線を感じて顔を上げる。

 間近に目が合ったアルノルトが、リーシェを眺めてふっと表情を和らげた。その表情に息を呑むのと同時、周りからもざわめきの声がする。


「お、おい。アルノルト殿下が、あれほど穏やかな表情を……」

(……もしかして。アルノルト殿下はいつも、私が夜会でしていることを、こんな風に見守って下さっていたのかしら)


 昨日、アルノルトがディートリヒに話してくれたことを思い出す。

 気恥ずかしいが、心から嬉しくもあった。そこに近付いて来たのは、リーシェが初めて会う男性だ。


「こ……今宵もご機嫌麗しゅう、アルノルト殿下。お顔を拝見するのは久方振りですが、お元気そうで何よりです」

「……エーゲル卿」


 アルノルトの声が、不機嫌そうな響きを帯びる。


(エーゲル侯爵閣下。確かテオドール殿下いわく、現皇帝陛下に高く評価されているお方のはず)


 リーシェも挨拶をしておきたいが、アルノルトから紹介される前に口を開く訳にはいかない。それまで礼の姿勢を取り、会話を聞くのに徹する。


「まずは、この度のご婚約に対するお祝いを。……しかし驚きましたな。これまでいかな女性にも見向きもされなかった殿下が、ついに花嫁殿を選ばれたとは」

「……」

「私の娘も、贔屓目ながらなかなかの器量良しのはずなのですが。殿下のお目にかなわなかったこと、非常に残念に思っております。……しかし、驚くべき噂を耳にしましてな。なんでも『アルノルト殿下が、婚約者さまを溺愛なさっている』とか……」

(……!?)


 リーシェは頭を下げたまま、びくりと肩を跳ねさせた。


(エーゲル閣下は、西の地方を治めていらっしゃるはず……!! 一体何がどうなって、そんな地までそんな噂が!?)


 侯爵の視線が向けられた気配がしたので、挨拶のタイミングはここだろう。それは分かっているけれど、気まずくて顔が上げられない。


 けれども次の瞬間、アルノルトが、俯いたリーシェの(おとがい)に手を添えた。


「生憎だが」

「!」


 それによって、顔を上げるように促される。

 反射的に従ってしまった所為で、間近にアルノルトと目があった。輪郭に手を添えられたまま、微笑むように穏やかなまなざしを向けられる。


「っ、アルノルト殿下……」


 声にならず、ほとんどくちびるの動きだけで彼を呼んだ。

 アルノルトは次に、挑発するかのごとく不敵な笑みを浮かべ、リーシェの腰を抱き寄せて言うのだ。


「――妻を溺愛することに、何の問題が?」

(ひえ……っ)


 少し悪い顔での発言に、不思議な色香が滲んでいて困る。

 侯爵もたじろいでしまったようで、二の句が継げない様子だった。アルノルトはふんと鼻を鳴らし、リーシェの手を取る。


「行くぞ、リーシェ。挨拶は後ほど改めてすればいい」

「っ、は、はい。失礼します……」


 略式の礼を申し訳なく思うのだが、侯爵も慌てて立ち去ってしまった。リーシェは心臓を跳ねさせつつも、アルノルトを見上げる。


「あの、よろしいのですか?」

「何が」

(何がと仰られましても……!)


 色々と問題があったような気がするのだが、大丈夫なのだろうか。しかし、自分からこれ以上掘り下げる勇気はなく、口を噤んでしまう。


「挨拶のことなら、別にいまでなくとも構わないだろう。――それよりも」

「あ……」


 アルノルトの視線を追いかけて、リーシェは思い出す。


「そうでした……」


 ホールの隅の柱を見ると、午後はずっとアルノルトと一緒だったはずのディートリヒが、柱の影から顔を覗かせてぷるぷると震えていた。


(な、何故ディートリヒ殿下は、子犬のような涙目で顔を覗かせていらっしゃるのかしら……?)


 



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― 新着の感想 ―
[一言] 「溺愛して何が悪い?」そうだ!そうだ!夫が妻を溺愛して何が悪い!!むしろこの2人はもっと砂糖を生産してくれて構わないのです( *´艸`) てか最後、、、子犬wwお仕事見学で一体何が? あれ?…
[一言] あ…お仕事見学で何か有ったな…(笑)
[一言] そりゃ国土全域に噂くらいになるだろうというイチャイチャっぷりに自覚がないリーシェと事あるごとにアピールを繰り返す殿下いいですよね
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