表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アニメ化】ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜3章〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
110/356

100 暖かい目覚め

 ***




「んん……」


 ふわふわと、温かな気持ちの目覚めだった。


 眠っているあいだ、ガルクハインに来てからの夢を見たような気がする。

 アルノルトと離宮のバルコニーで話したり、アルノルトと一緒に夜会に出たりと、つい先日あった出来事の夢だ。


 リーシェにとって、『過去の人生ではない夢』を見るというのは久しぶりのことだった。


 起きなくてはいけないのが名残惜しくて、手近にあるものへ額をすり寄せる。なんだかよく分からないが、この場所はとっても収まりがよかった。


 体を包まれていて暖かい。とくとくと、鼓動の音がして安心する。

 瞼がとろけて眠り込みそうだが、少しだけ体が重い。


「……?」


 昨晩のだるさは消えている。


 毒の後遺症ではなさそうだ。不思議に思いながら身じろいで、ゆっくりと目を開けながら上を見る。

 そして、すべての状況を把握した。


「………………」



 寝台の中で、眠ったアルノルトに抱き締められている。



「――!?」


 その瞬間、絶叫しそうになったのを辛うじて抑えた。


(なっ、な、な……っ)


 どうやらお互いに向き合う恰好で、同じ上掛けにくるまっていたらしい。アルノルトは、リーシェの頭を抱き込むような形で寝息を立てている。

 アルノルトの口元は、リーシェの前髪あたりに埋められているようだ。


(ど、どうして殿下と同じ寝台に!?)


 枕を使っているのはアルノルトだけで、リーシェは彼の腕を枕にしてしまっている。それに気付いて慌てるも、混乱しすぎて動けない。


 そして、事の発端を思い出す。


(…………私が駄々を捏ねた所為だわ!!)


 夕べのことを思い出し、リーシェはさあっと青褪めた。


(お部屋に戻って寝てくださいって言ったのに、『ひとりで置いておけない、一晩傍にいる』と仰るから。……『どうしてもこの部屋に居てくださるなら、寝ずの番じゃなく、せめてここで寝てください』って我が儘を……)


 昨夜はぐしゅぐしゅに泣いてしまい、頭もぼんやりしていた所為で、そのままとんでもないことを言ってしまった。


 あのときのアルノルトは絶句していたが、リーシェがまた泣きそうになった所為で、渋々「分かった」と頷いてくれたのだ。


 だが、とんでもないことをしてしまった。


(薬師だったくせに、私はなんということを……!! なんとしてもお部屋に戻っていただいて、おひとりでゆっくり寝てもらわないといけなかったのに……)


 結局リーシェに付き合わせてしまったのだから、あまりにも申し訳なさすぎる。

 そうっと身を離し、アルノルトを見上げて眉を下げた。


(……私が抱き枕で、寝心地が悪くなかったかしら……)


 きっと普段のアルノルトなら、リーシェが動いた時点で目を覚ましていたはずである。


 けれど、彼は目を閉じたままだ。


 リーシェの介抱をさせた所為か、やはり毒薬による影響があったのかは分からないが、この眠りによって少しでも回復できているといい。


 そんなことを祈りながら、アルノルトの寝顔を見つめる。


(眠っていると、ちょっとだけ幼く見えるんだわ)


 アルノルトは、白いシャツのボタンを上からふたつほど外している。


 寛げられた襟元から、普段は隠されている鎖骨と喉仏、それから首筋が覗いていた。

 リーシェがどうしても気に掛かるのは、首筋に残っている無数の傷跡だ。


(……誰よりも、お母さまに憎まれていたと仰っていた)


 この傷は、彼の母によるものなのだろうか。


 触れたいような気もするが、許可なく不躾なことは出来ない。

 だからぼんやりと見つめていると、アルノルトの手が何かを探すように動いた。


「……」


 そのあとで、緩やかに目を開ける。


 覚醒しきっていない青色の瞳が、窓からの朝陽に透き通った。普段なら見惚れているところだが、いまは状況が状況だ。


「……お、おはようございます……」

「…………」


 アルノルトは、緩慢な瞬きをひとつする。


 そのあとでリーシェに手を伸ばし、珊瑚色の前髪を梳くようにした。

 リーシェの頬をくるみ、目を閉じると、ふたりの額をこつりと重ねる。


 これは恐らく、熱の有無を確かめられているのだ。


 分かっているにもかかわらず、アルノルトが寝起き特有の気怠さを纏っている所為で、必要以上に緊張してしまう。


「殿下、あの」

「……体の具合は」


 まだちょっとだけ眠そうな、掠れた声で尋ねられる。


 額を重ねたまま、お互いの睫毛が触れ合うほどの距離で、リーシェは慌てて返事をした。


「だっ、大丈夫です。お陰さまですっかり元気です、元気……!!」

「……」


 目を開いたアルノルトが眉根を寄せたので、『元気』は言い過ぎたかと反省する。

 気まずくなり、急いで体を起こそうとしたら、アルノルトに腕を掴まれた。


「ひゃ」

「いいから、まだ寝ていろ」


 再び寝台の海に沈み、アルノルトの隣へと引き戻される。そういうわけにもいかないような気がしたが、有無を言わせない雰囲気だ。


 リーシェは仕方なく、寝転んだまま問い掛ける。


「殿下こそ、お体に変調は?」

「……何も」


 アルノルトはそう答えながら、リーシェの首筋に手を触れさせた。


 恐らくは、包帯の結び目を解こうとしているのだろう。

 リーシェは大人しく身を任せながらも、質問を続ける。


「昨日はありがとうございました。……あの、ミリアさまは……」

「命を狙われている可能性があることは、オリヴァーを通して公爵に伝えてある」


 ほっとした。アルノルトならきっとそう動くと思っていたが、改めて聞かされると安心できる。


「あの子供本人にも、父親の傍を離れないようにと俺から告げた。深夜に一度オリヴァーから報告を聞いたが、大人しく公爵の元にいるようだ」

「ミリアさまが、私の居場所をアルノルト殿下に伝えてくださったのですか?」

「そうだ。レオから話を聞いて、森に向かう最中に鉢合わせた」


 しゅる、と衣擦れの音がした。


 アルノルトはリーシェの包帯を解きながら、聞いておきたかったことを的確に説明してくれる。

 ただし、お互いに寝転んだままだ。


「レオにも巫女の子供にも、お前たちが森に入ったことは伏せるよう言い含めてある。教団の人間に知れたところで、騒ぎになるだけで無意味だからな」

「何から何まで、ありがとうございま……、ふひゃ」


 肌の表面にアルノルトの指が触れ、ぞわぞわした。


「こら。暴れるな」

「だって、くすぐった……ふっ、ふふ! 殿下、待……っ!」

「だから、暴れるなと言っている」


 叱られて必死に堪えたのだが、ややあって包帯が取り除かれた。


 そうなってから気が付いたのだが、包帯くらいは自分で解ける。しかし、アルノルトが真剣な表情で傷口を観察しているようなので、いまさらそれには言及できなかった。


「傷は治り始めているようだな。これなら痕にもならないだろう」


 別段、そんなことを気にはしないのに。


 騎士の人生では、あちこち傷だらけになったものだ。

 けれどもそれを言わず、リーシェは自分でも傷口を探ってみる。


 すると、アルノルトはじっとリーシェの目を見つめてきた。


「瞼も腫れていないな」

「……アルノルト殿下が、丁寧に涙を拭ってくださったので……」


 気恥ずかしい心境で答えるが、アルノルトはそれに満足したらしい。


「巻き直すか。新しい包帯を用意させる」

「あ。大丈夫です、殿下」


 上半身を起こした彼に続き、リーシェも一緒に起き上がった。


「血が止まっているようなので、このままにしておこうかと。大した傷ではない以上、包帯をしていた方が大仰なので」

「……巻いておいた方がいいと思うが」

「え?」

「赤くなっている。包帯を巻いて、隠した方が無難だろう」


 そんな指摘に首を傾げる。


「この毒、傷口の炎症は引き起こしにくいはずなのですが……」

「……」


 なにせ、『見た目にまったく毒死の痕跡が残らない』からこそ選ばれる暗殺毒だ。


 それとも、リーシェが想定していた以外の毒まで混ざっていただろうか。しかし、そうであれば解毒剤がこんなに効いているはずもない。

 師匠仕込みの解毒剤と、それを飲ませてくれたアルノルトのおかげで、リーシェはほとんど復調しているのだ。


 だが、アルノルトは否定する。


「傷口の話ではなく」

「っ、んん?」


 指でなぞられ、それがくすぐったくて身を竦める。アルノルトが触れたのは、傷口ではなくてその周辺だ。


 そうして彼は、しれっとした調子でこう言い切る。



「俺が口付けて、肌を吸った跡が、赤く残っている」

「――――――……」



 ぽかんとした。


 ひょっとしていま、割ととんでもないことを言われなかっただろうか。


 恐らくは、毒を吸い出してもらったときの話だろう。しかし、そのためにアルノルトにされたことを改めて思い出して、リーシェは絶句する。


「お前の肌が白いせいで、余計に目立つな」

「……ひえっ!?」


 一拍置いて、ぶわっと頬に熱がのぼった。


 慌てて上掛けを手繰り寄せ、絶対に赤面しているであろう顔を隠す。アルノルトがどういう表情をしているかなんて、いまは絶対に知りたくない。


(そもそもが昨日、解毒剤を飲まされるときに口移しされなかった!?)


 本当に熱があった昨日より、遥かに体が熱い気がした。ぐるぐると頭が混乱する中、リーシェはかろうじて声を出す。


「あ、あの! 前から気になっていたのですけれど!!」

「なんだ」

(……『女性の扱いが、妙に手慣れていませんか』とは聞けない……!!)


 普通はこういうものなのだろうか。聞きたいけれども聞くのが怖くて、そう思う理由が我ながら分からない。


「リーシェ」


 渦巻く感情に戸惑っていると、アルノルトが口を開いた。


「何故、俺への伝令をレオに託した」

「……」


 ぴたりと混乱を押しとどめ、顔を隠していた上掛けを下にずらす。


「……私がすぐに向かわなければ、ミリアさまに万が一のことが起きてしまうと思ったからです」

「そうではない」


 目が合ったアルノルトには無表情だが、リーシェを逃がすつもりなどなさそうだった。

 夕べも色々と怒られたが、まだまだ手加減されていたのだと知る。


「あれが信頼に足る存在だと、本気で思っているわけではないだろう?」

「――……」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  前話といい、えっちですね!!いかがわしいことをしていないのにとてもえっちでいいと思います。とても好きです!!!
[良い点] この2人ほんとにいいなあ しあわせかよーー [気になる点] 後日談でいいので殿下にも解毒剤飲ませる場面をください、、 心配で心配で気になってしまう!!
[良い点] 良い!Σd(≧∀≦*)Σd(≧∀≦*)Σd(≧∀≦*)!!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ