愛情のカタチ
満足そうな微笑みを浮かべたアリシアは、レオから受け取った腕輪と、自分の手首に付けていたブレスレットを胸元に抱き寄せながら、目を閉じて呟く。
『そろそろ目を覚まして、アリシア』
呟きと共に、アリシアの胸元から虹色の光が溢れ出した。
その光の色は徐々に紺青色へと変化していき、体に力が入らなくなり膝をついた。しかし、胸元に抱き寄せた腕輪とブレスレットは離さない。その様子にヴァイゼがアリシアを抱き寄せたものの、アリシアはぐったりと動かなくなった。
慌てたヴァイゼが、アリシアの呼吸を確認し、穏やかに動く胸元を見て軽く息を吐く。
「ねぇ、ヴァイゼ」
「!!!」
気を失ったと思っていたアリシアから急に話し掛けられ、ヴァイゼはアリシアの顔を覗きこんだ。
「あれから8年。貴方が私を守ってくれていたことを知ってるわ。そして、貴方が異世界からやって来た彼女の存在に薄々気付いていたことも」
「そうか……」
今話している相手が、10年前に永遠の愛を誓ったアリシアだと知り、困惑しながらもヴァイゼが嬉しさを隠せないでいると、
「私たちね、二人とも貴方を愛してるの。彼女は貴方と父娘でも満足みたいだけれど、私は親子ごっこは嫌よ」
「……そうだな。俺もアリシアと──、出来れば彼女とも、同じ時を刻み続けたい」
「ふふっ、二人共を欲しがるなんて欲張りね」
「もう失う恐怖に怯えて過ごしたくないんだ」
アリシアの首もとに顔を寄せながら、苦しさを堪えた声で応える。
『そんな貴方に、私の秘密を教えるわ』
「私の魔力は少な過ぎて、何も出来なかったでしょう。でもね、本当は1つだけ出来ることがあったの」
「アリシア……?」
秘密を打ち明けるアリシアは、とても嬉しそうだった。
「私は何年も【予知夢】を見てたの。しかも、同じ内容ばかり。幼い頃は怖かった。でも、貴方に出会って、恐怖が希望に変わったの」
アリシアは胸元に抱いたままになっていた腕輪とブレスレットを、悲しそうな表情を見せるヴァイゼへ見せながら話を続ける。
「何度も繰り返し、14歳のあの日に殺される夢を見ていたの。毎回のように殺され方は違ったけれど。でも、貴方に出会ってから、夢の内容が少しずつ変わっていった。そして、ある日──」
私の運命が開ける夢を見た。
偶然、異世界から来た彼女の存在によって。
彼の魔力暴走で、異世界と繋がったことによって。
「私一人では、瀕死の状態から助からなかった。でも、意図せず魂が二つになった。だから、貴方の【時間】を借りることが出来た」
「あぁ……だから、親子ほどの年齢差になっている」
もう結婚どころか、恋人に戻ることすら出来ない。最愛の人を助けることが出来た、それだけで満足だと、諦めている。
「あら?私は、貴方の時間を【借りた】だけよ。戻すためには膨大な魔力が必要だから、普通は返せないのだけれど、私の手の中にあるものは何かしら?」
「……っ!そうか……だから、レオと俺の魔力を込めた魔石か!」
アリシアは、少しでも可能性が生まれればと、幼い頃に従者として出会ったレオ──身体能力だけでなく魔力も秀でた少年だった──に頼み、魔石へ魔力を込め続けてもらっていた。
そして、ヴァイゼにも。
「私がお願いした、貴方からの14歳の誕生日のプレゼント。レオが全魔力を貯め続けた腕輪。あの時から、高位魔術師二人の魔力が集められ、こうして私の手の中にある。お陰で、あの子も救われる」
再び虹色の光に包まれた。
ヴァイゼとアリシアを繋ぐように、キラキラと光が舞う。
アリシアは幼さの残る少女から大人の女性へと。
ヴァイゼの見た目は、少し若返った。
「ねぇ、ヴァイゼ。私、本来の年齢に戻ったわ」
「ああ……」
「あの子も、ここに残ったわ」
「そうだな」
アリシアは自分の胸元に手を添えた。
彼女の魂が、『アリシア』と『ヴァイゼの時間』を繋ぐ役割を果たしていたので、ヴァイゼへ時間を返した際には、彼女が消えてしまう可能性があった。
しかし、ヴァイゼが8年間に注いだ愛情という名の魔力は、彼女をアリシアの中に繋ぎ止めた。
「今は眠っているけど、時間が経てば私と混ざってしまうわ」
「そうか……」
「貴方は、アリシアから二人分の愛情を向けられるのと、妻と娘二人から愛されるの、どちらがいい?」
「……それは……早く、彼女にも会いたいな」
私達は、本当の家族になる。
今度は形だけでなく、本当の家族に。
もう隠し事はない。
これからも、転生令嬢は家族を愛していく。