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アルフィーナの探偵事務所  作者: 胡桃リリス
第二章 迷子のハーフエルフ
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迷子のハーフエルフ⑤


「やれやれ、君の運の強さと行動力には恐れ入るよ」

「フィーナさん、あの……どうしてここに?」

「決まっているだろう。そのソレイユって子が大丈夫かどうか確かめに来たのさ」


 言うと、フィーナさんは俺の手を引っ張って近くの路地裏に入ると、鞄を突き付けてきた。


「着替るんだ。即刻!」


 言われるがまま、中に入っていたスーツに着替えている最中、表の方を見ていたフィーナさんが苦笑した。


「君には、私が冷血女に見えるかもしれないね」

「そんな風には思っていませんよ」

「いやいや、君にはちゃんと説明してあげればよかった。私の友人が勤めているから、今から向かおうってね。私だって、見て見ぬふりができるほど人間、できちゃあいないさ」


 諭すように言われ、事務所での己の言動を思い出して、恥ずかしくなった。


「すみませんでした」

「構わないよ。着替え終わったのであれば早く行こう。もう時間がないかもしれない」


 フィーナさんの言葉を聞いて奴を振り仰ぐが、特に反応はなかった。まだ大丈夫っていうころだろう。


「いいかい、君は私の助手だ。そして執事でもある」

「どっちですか」

「どっちもだ。だから、中に入ったら、勝手な行動は慎んでくれよ?」


 商館の入口に、罠などは仕掛けられておらず、普通に入ることができた。魔力の糸は、扉を開けたところで消えていた。

 明るく広い、良く手入れされたエントランスの左手にあるカウンターへ向かい、驚いた顔の受付嬢らしきハーフエルフへフィーナさんが話しかけた。


「突然、押しかけてすまない。メイルへ、アルフィーナが来たと伝えてくれないかい?」

「その必要はないわ」


 大人びた若い女性の声がした方へ目を向けると、エントランスの奥の方から、ゆったりとした白いドレスを纏った、ハーフエルフが姿を見せた。


「こんにちは、フィーナ。魔法石強盗の逮捕に貢献したそうね」

「久しぶりだねメイル。それについてはまた後で話そう。それよりも、この三十分の間に、ハーフエルフの女性冒険者と女の子が来ていないだろうか」

「私は見ていないわ。貴女は?」


 メイルさんに尋ねられた受付嬢によると、ソレイユらしき人物は見ていないが、冒険者の方が戻ってきたのを確認したらしい。


「その冒険者は今どこに?」

「多分、オフィスの方だと思うわ。何があったの?」


 フィーナさんが手短にソレイユの事情と、冒険者ギルドがこちらに連絡をしていた旨を伝えると、メイルさんたちは難しい顔になった。


「そんな連絡は受けていないわ。……確認してみるわね」


 メイルさんがそう言ってオフィスのある方へ向かって行こうとした時、


『これから大量の命が消えるだろう』


 奴が、唐突に宣告してきやがった。


『この者が向かう先に、お前が探すハーフエルフはいない』

「何っ?!」

「サエ?」


 まずい、時間がない! けれど、魔力の糸は切れているため、探しようがない。獣人がいれば匂いを追跡できるのに。そう思った時、そうだ、ソレイユの魔力痕跡を辿ればいいんじゃないかと閃いた。

 この世界の魔法や魔力の仕組みについては全く知らないが、生物の体からオーラのように魔力が発せられているとすれば……。

 そう考えて、頭の中でソレイユの顔を思い浮かべ、彼女の発する魔力が見つかるように念じてみると、頭の中にソレイユらしき反応が浮かんできた。

 俺たちが立っている場所の、ほぼ真下。地下室にいるようだとわかった途端、彼女が複数名のハーフエルフの男に囲まれ、その中の一人に迫られている、そんな情報も入ってきた。


「テメェら、それでも人か!!」


 怒りのあまりに叫び、今すぐにでもソレイユの下へ向かい、外道どもをぶちのめしたいという衝動に駆られる。そうだ、空を飛んで強盗を追いかけたように、地下へ落ちればいいんだ。そう思った直後、俺の体はするりと床をすり抜けた。


「サエ!」


 フィーナさんの慌てた声が聞こえて、一瞬、彼女の手が俺の手を掴んだ気がしたが、すぐに消えた。


 床に沈んですぐに、薄暗い地下室へ着いた。

 真っ先に目に入ってきたのは、壁際に追い詰められたソレイユが障壁のようなものを張り、その周囲で男どもが怒声を上げながら破ろうとしている場面だった。


 丁度いい、このままぶっ飛ばしてやる。

 体の奥からあふれ出た熱くも冷たくもある不可思議な衝動と共に、一番近くにいた男へとドロップキックを浴びせた。男は悲鳴と鼻血をまき散らしながらぶっ飛んで行き、壁にぶつかって動かなくなった。

 奴が何も言っていないので、まだ生きているのだろうがどうでもいい。


 着地して、ソレイユを囲んでいた他の奴らが体勢を整える前に殴り、蹴り飛ばしていく。この際だ、徹底的にやろう、と思ったがソレイユの目の前でそれはダメだと、冷静な自分が抑えた。

 さて、周りの奴らも程よく気絶してくれたところで、部屋にいた残りの連中が怒りと驚きの声を上げて取り囲んできた。

 怒りたいのはこっちなんだがな。


「……サエ……?」


 ソレイユの怯えた声に、胸がぎゅぅと苦しくなった。


「助けに来ました。あなたはそこで、自分の身を守ることだけに集中してください」



お読みいただき、ありがとうございます。

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