表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルフィーナの探偵事務所  作者: 胡桃リリス
第二章 迷子のハーフエルフ
8/28

迷子のハーフエルフ④

 それから、道行く人々にソレイユやハーフエルフの女性冒険者について尋ねてみたが、誰も見ていないと答えた。

 ギルドで話を聞いてから、すでに十分が過ぎた。共同体の場所がどこにあるかは知らないが、ソレイユが建物の中に入っている可能性は高い。

 フィーナさんの言う通り、共和派の人が迎えに来てくれていれば問題ない。攻撃派が迎えに来ていたとしても、共和派の人が見かければ安心できる。

 けれど、奴は言ったんだ。ソレイユの血で犠牲が出ると。


 この世界のエルフ種の年齢と見た目が合致するかどうかはわからないが、ソレイユは見た目も感情の表し方も、十代前半から半ばになっているかどうかだった。そんな子が、突然故郷から遠く離れた場所に飛ばされてきて不安な中で、やっと仲間に会えたと思ったら裏切られるなんて、あんまり過ぎる。


 心臓ががなり立てるように激しく跳ね、全身を怖気が走る感覚に頭を抱えていると、事務所以来黙っていた奴がまた話しかけてきた。


『何故そこまでお前が気に病む必要がある』

「あ゛ん゛?」


 苛立った声で思わず振り仰いだが、奴は一切気にすることなく言葉を続けた。


『お前の恋人ではないし、そうするつもりもない。それであるのに、どうして助ける必要がある?』


 フィーナさんと同じような事を言いやがる。

 それは正論なんだろう。

 そして俺はその正論を、身を以て体験している。


『お前は、また自らと他を危険に晒すつもりか?』


 言われて、あの時の光景が浮かんできた。

 怖い。人が傷つくのが、自分の命が失われるのが、圧倒的な存在に打ちひしがれるしかないあの瞬間が俺の心臓を鷲掴みにして痛みを与えてくる。

 けれど、何もしなければもっと大変なことになる。

 そして、彼女を守る術が、今の俺にはある。


「酷い目に遭うってのを知って、助けられる力があるのに、それを見過ごすことはできねぇ」

『お前はその無鉄砲な正義感で、死にかけたのだぞ?』


 またも奴は正論を言ったが、


『まぁだから、こうして共にここに来ている、か』


 そんなことをつぶやいた。

 確かに、あの一件がなかったら、こいつと出会う事も、死にかけることも、この街に来ることもなかった。


「つまり、ここに俺たちがいなきゃ、ソレイユがもっとひどい目に遭うかもしれなかった、ということだ」

『そうとも言える。全ては結果論だ』

「っつーかな、お前が俺に教えてくれたんだぜ? ソレイユが危ないってな」

『我はただ、娘とこの街の命について語っただけだ』

「語った、ねぇ」


 淡々と言ってはいるが、こいつは魔法石事件の時もこんな風にフィーナさんたちの命がうんぬんみたいなことを口走っていた。こいつはそう言う奴だ。決して警鐘を鳴らしている訳じゃない。

 それでも、あの時、それを聞いたから俺は出来ることをしようと思ったんだ。

 だから今回も、俺は俺にできることをしよう。


 気持ちを前向きにして、また手身近な通行人に話しを聞こうと考えていると奴が、


『ならば、契約を交わすか?』


 なんてほざいてきたので、断ると一蹴してやったが、奴は特に落ち込むことも機嫌を悪くすることもなかった。

 奴は『そうか』と頷くと、そのまま続けた。


『おそらく、迎えに来たというハーフエルフは、姿を隠しているのだろう』

「何?」


 思わぬ台詞だったが、どうしてだろう、光明が見えた気がした。


『共同体の所在も、普段はそうとは悟られないようにしてあるのかもしれん。ならば、ハーフエルフという目立つ存在がそこに帰還する時には、姿を隠すのが道理』

「マントを頭から被って店に入りましたって、感じなら、この街全体を探し回らないといけなくなるぞ」

『エルフという人種は、エルフもハーフも関係なく魔法の使い手なのであろう。なら、冒険者として活動している者であれば、魔法で隠遁の一つや二つ、使えるであろう』

「な、なるほどな」

『そして、魔法を使った、という事はその痕跡がある。ふむ、例えばあの冒険者のエルフは、魔法で傷を癒したのだろう。腕に魔力というエネルギーが残っている』

「マジかよ」


 俺は驚きが隠せなかった。

 そして、不本意だが、この時ばかりは奴の言葉に感謝していた。

 なら、俺がやることは一つだ。


 早速、脳裏にハーフエルフたちの魔力痕跡を辿るイメージを浮かべる。やり方は知らない。以前もこうやって空を飛ぶことができた。今回もそれでできるだろう。

 結果はすぐに出た。

 視界に、淡く輝く糸のようなものが二つ、見え始めた。周囲のエルフや、他の人たちが使っている魔法には反応していないようだった。


「これが、魔力の痕跡って奴か」

『お前に見えているそれが、探している隠遁魔法の残り香であろう』


 頷き、光る糸を辿っていくと、街の一画にある商館へとたどり着いた。

 一見するとごく普通の大きく立派な建物だが、人の出入りはおろか、そこにチラッとでも目を向ける人が誰もいないことを、少しの間観察していてわかった。

 奴の言う通り、魔法で何かしらの細工をしているんだろう。


「ここが共同体の施設か」


 早速突撃しようと気を張ったところで、襟首を後ろから引っ張られた。一瞬首が締まってえづいてしまい、すぐに解放されたので振り返ると、


「思っていたよりは早い到着だね」


 フィーナさんが立っていた。


お読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ