迷子のハーフエルフ③
唐突な新キャラ登場です。
「まさか、攻撃派がソレイユの力を利用して、ハーフエルフを害する人たちを皆殺しにして、この国を乗っ取るつもりですか?」
「国を乗っ取るかどうかはさておき、自分たちを苦しめた人たちを虐殺しようと思っている輩はいるだろうし、君の考えは概ね正しい。けれど、そんな単純な連中ばかりじゃない」
「他に何かあるんですか?」
「言っただろう、大森林のエルフやハーフエルフは魔力が高くて、魔法も凄いって。共同体に保護されても、攻撃派の構成員が彼女を迎えに行った場合、その途方もない力を秘めた彼女自身だけでなく、その血も利用されることになる」
「血……?!」
まさか、ソレイユの血を使って、魔法の威力を上げるつもりか。
「従順になるように洗脳してから、とは思うけれどね……」
『操り人形になる』
は?
しばらく黙っていたと思っていたら、アイツがいきなりそんなことを口にしたので、思わずそっちへ振り返りそうになった。
洗脳で攻撃派の言いなりになれば、そりゃ操り人形だろうよ。
『それだけではない』
「ん……?」
フィーナさんのいる手前、迂闊に口に出して返事はできない。考えるふりをしながら指の動きで、どういうことだ、と尋ねてみると、奴はいつものように淡々と答えた。
『精神が壊れ、やがて彼女自身も闇に陥って死に至り、それまでにも数多の命が散るだろう。そして、新たな命が生まれ、その者たちがまたさらに多くの命を奪うだろう』
最初、奴の回りくどい台詞回しに何だよそれと思っていたが、血……次の命と頭の中で反芻して――――。
ようやく、俺はフィーナさんの言った、血の意味を理解した。
もったいぶった言い方に少し苛立っていたが、彼女が俺に気を遣ってくれていたことがわかった。
心臓が大きく跳ね、耳元でノイズ音に似た血流の激しい音がする。
居ても経ってもいられなくなって立ち上がった。
「ダメだよ、サエ」
フィーナさんの鋭い言葉と圧に、足が止まった。俺を見つめる目は普段よりも力が強い。
「行ってはダメだ」
「ギルドへ行って、共和派の人に連絡するように伝えるだけですっ!」
「それならもう手遅れだ。恐らく、すでに電話を受けた共同体の誰かがソレイユを迎えに行っている。確立は二分の一。上手くいけば、私の友人から私の下へ連絡があるかもしれない」
「でももし攻撃派の方に捕まったりしたら! それなら、共同体の方へ行って、何とかソレイユを共和派の人たちの方へ誘導しないと!」
「ダメだ」
フィーナさんはずっと静かに、でも決して俺が行くことを許そうとしない。
「危険すぎる。第一君に何ができる? それに、助ける義理がないだろう」
「ありますよ!」
「ないね。君はただ、道に迷って、困っていたところを助けただけの、通りすがりの善い人だ。ギルドに彼女を案内して、保護してもらった時点で、関係は終了している」
「僕は共同体へ行って、もしソレイユがいたら注意をするだけです」
「余計なお節介だ。そんなことをすれば君が攻撃派から狙われる。そのついでに、連中がソレイユにあることないこと吹き込んで、逆に従順になるよう洗脳するかもしれない」
「それは……」
「共同体に着いた時点で、共和派の誰かがソレイユを見かけて、攻撃派が彼女を隠さないように手を打つ。それに、さっき言ったのは私の見解だ。私の友人が助けてくれる」
言う通りだとも思ったが、奴は確かにソレイユ個人と大多数の人命が危機にさらされると言った。
フィーナさんには申し訳ないが、今回だけはこいつの言葉を信用することにして席を立つと、彼女は強い力で腕を掴んできた。女性にしては高身長だし、運動神経も抜群だったから驚きはしないが、目力は先ほどよりも強くなっていた。
「私が信用できないかい?」
「貴女の事は信用しています。でも、万が一の事があった時、ソレイユも、この街の人も、皆の命が危ないんです!」
「何?」
一瞬、フィーナさんの掴む力が弱まったところで、腕を捻って束縛を解くと、一目散に事務所を飛び出した。後ろから聞こえてきたフィーナさんの声にごめんなさいと心の中で謝っておいた。後でしこたま、ぶたれるだろうなとも思った。
早速、冒険者ギルドに飛び込むと、中に居た人たちが何事かとこっちを見てきた。その時の俺は特に気にせず、丁度よく駆け寄ってきたアガットさんに、ソレイユの事を尋ねた。
「ソレイユさんなら、共同体から来た女性のハーフエルフの冒険者に引き取られましたよ」
「えっ?」
「共同体所属のハーフエルフの冒険者もウチで登録していますから。サエさんも安心してください」
「あの、共同体の人はいつごろソレイユを引き取りに?」
「えぇと、五分ほど前ですね」
「五分……あの、共同体ってどこにあるんですか?」
「申し訳ありません。共同体への連絡窓口は紹介できるんですけれど、本部の場所は公表できないんです」
「ありがとうございますっ」
俺は礼だけ言って、ギルドを飛び出した。
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