表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルフィーナの探偵事務所  作者: 胡桃リリス
第二章 迷子のハーフエルフ
6/28

迷子のハーフエルフ②

しばらくはサエ視点です。

 ハーフエルフの少女は怯えた目で俺を見上げていた。

 俺は彼女を怖がらせないようにしながら、身振り手振りでその外套をはずなさいように伝えた。

 この街では、ハーフエルフは迫害されやすいとフィーナさんから聞いていたからだ。未だにハーフエルフを彼女以外に見ていないのは、そのためだろう。


 こうなると、警察でもどうかわからない。

 アルトさんはドワーフだが、そう言った差別はしない人だと思っているが、他の人はどうかわからない。エルフの職員が冷ややかな対応をする可能性は高い。


 ならばここは、冒険者ギルドに行こう。

 あそこなら、そう言ったいざこざは少ない。気にするようでは冒険なんてできない、とフィーナさんが言うくらいだ。ハーフエルフでも問題なく受け入れてくれるはずだ。少なくとも、アガットさんは安心だろう。

 そう思って、彼女を庇うようにして歩いていると、少女は興味津々といった様子で街や人を見ていた。都会は初めてなんだろう。

 さて、冒険者ギルドに着くと、顔なじみの奴らから声をかけられ、それに返しながらアガットさんがいる受付へ向かった。


「こんにちは、アガットさん」

「こんにちはサエさん。珍しいですね、ギルドに顔を出すなんて」

「えぇ、実は迷子を見つけまして」


 少女を紹介すると、アガットさんは個室へ案内してくれた。

 フードを脱いだ少女がハーフエルフだとわかっても、アガットさんは微笑みを崩さず、予想通り丁寧に対応してくれた。

 彼女の通訳によると、少女の名前はソレイユ。大陸の東部にある大森林のエルフの村から、突然、この街についぞ先ほど飛ばされて――転移させられたらしい。

 空間転移は、俺の知っているソレとなんら変わりない。何かしらの原因、この場合だと、ソレイユは、誰かが使った魔法によって遠く離れた場所に瞬間移動させられたという事だ。

 出かけようとしていたところだったため外套を羽織っていたが、それ以外の荷物は全て置いてきてしまっていて、行く宛てもない。

 なら故郷に帰るために手筈を整えようか、と言うアガットさんが提案したが、彼女は故郷でもあまりいい待遇はされていなかったようで、帰り辛そうにしていた。


 それなら、とアガットさんは、もうしばらく冒険者ギルドで保護すると提案してくれた。また、俺は見かけていないが、ハーフエルフの冒険者もいるそうで、もう少しすればその冒険者が来るそうだ。

 また、この街にはハーフエルフの共同体があり、その冒険者もそこに在籍しているので、ソレイユを預けられるか相談してくれるという。

 共同体は、ハーフエルフの地位向上を目指して社会貢献として福祉活動を主にしている団体なのだそうで、実際に彼らの行動で本当に少しずつではあるが、周囲の人々の評価も好意的なものに変わって行っているらしい。

 ソレイユも、同じハーフエルフたちと一緒に暮らせるのであれば、と少しほっとしていた。


 それから、彼女にお礼を言われ、俺もいずれ顔を見せると約束して、事務所に帰った。


 帰所すると、フィーナさんに遅いぞと怒られたので、お詫びも兼ねてハムチーズサンドを作ったら、とても喜んでくれた。


「それで、遅くなった理由を教えてもらおうかな?」


 コーヒーを出しながら、ソレイユと出会い、冒険者ギルドに彼女を預けてきたことを報告すると、フィーナさんは神妙な顔つきになった。


「それは……そいつは、少しまずかったもしれない。そのソレイユという娘が心配だな」

「どういうことですか?」


 フィーナさんが言うには、ハーフエルフの共同体も他の組織同様に、一枚岩ではなく、中には過激な思想を抱いている者も少なくないらしい。


 一般的に知られる福祉活動を行っている人たちを共和派、過激な思想を秘めて地位向上を目指す人たちを攻撃派と呼んでいるとのこと。

 攻撃派も共和派と一緒に福祉活動を行っているが、ハーフエルフを乏しめる発言や行動をした者には容赦ない攻撃を加えると密かに噂されている。


 実際に、そのような発言をした者が半殺しにされる事件が幾つかあったらしく、それで余計にハーフエルフへの偏見が一部で強くなったそうだ。なお、犯人は捕まっておらず、実際に被害者を襲ったのもハーフエルフかどうかも疑わしいと警察や冒険者でも議論がなされたようだが、フィーナさんは攻撃派に属する人物、ないし彼らから指示を受けた第三者による犯行だと考えていた。



 実は、フィーナさんには共和派の友人がいて、色々聞いた結果、攻撃派は共和派にも時に、ハーフエルフの地位向上のために強硬手段をとる必要性がある、とキツい言動を取ることもあると教えられたことがあるという。

 強硬手段と聞いて、攻撃魔法で市街地を蹂躙するハーフエルフたちの姿が脳裏に浮かんできて、背筋にうすら寒さを覚えた。


「強硬手段、って何ですか?」

「君が想像している通りのことさ。けれど、いくらエルフの魔法が使えると言っても、攻撃派たちが暴れようとすぐに鎮静化されるのがオチさ。普通なら、ね」


 意味深な様子のフィーナさんの説明によると、大陸東部に広がる大森林出身のエルフやハーフエルフは、他所のエルフ種と比べ、総じて魔力が多く、使用する魔法も効果が強いらしい。

 例えば他所のエルフたちが扱う風魔法の攻撃力を十とした場合、大森林のエルフが使うと千は下らないという。

 それを聞いて、俺は最悪の展開を想像した。


お読みいただき、ありがとうございます。

嫌な描写は基本的にするつもりはありませんので、安心してお読みください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ