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アルフィーナの探偵事務所  作者: 胡桃リリス
第一章 魔法石強盗事件
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魔法石強盗事件②


 我々の日常生活で使用する魔法石が、週に二、三回の割合で盗まれ続けた、こう言ってはなんだけれど、字面からして宝石強盗のようなありふれた事件だ。

 私も新聞で何度か目にして、近いうちに捕まるだろうと、特に気にはしていなかったよ。


 けれど、この犯人はまんまと警察や冒険者たちの捜査を掻い潜り、二週間も魔法石を盗み続けることに成功した。

 被害総量は約十キロ。優れた冒険者でも、こんな量の魔石とは滅多にめぐり合うことはできない。採掘場なら別だが。


 過去にも魔法石強盗が起きた例は枚挙に限りがないけれども、エルフやハーフエルフが魔力探知すればすぐに見つかるような代物さ。今ならどれだけ巧妙に隠しても、警察と観察眼に優れた冒険者が共闘戦線を張れば半日もしないうちに見つかるのがオチだ。エルフ系と五感の鋭い獣人系の人材がいればなおのこと。

 魔法石を盗るのは愚者、なんてことわざがあるけれど、現代はまさに魔法石泥棒なんて愚者しかしない所業になった。


 それでも、この犯人はそんな常識を覆してみせた。

 では、犯人はどうやって魔法石を探知されずに盗み続けることができたのか。これは前に話したね。


 普通に宝石強盗がするみたいに袋に詰めて、後は古式魔法の姿くらましを使って店から出ればそれで終わり。これなら十数グラム程度の魔法石から発せられる魔力程度ならカバーできるからね。

 もしも察知力に優れた警備に気配を気取られたとしても、風魔法で目くらましをしながら加速すれば、それで大概は撒けるからね。後は、身体能力を底上げして、風魔法と併用して屋根に飛びあがって逃げ切る、とか。

 一つ一つは単純で誰でも思いつくけれど、それらを組み合わせて実行する発想力と度胸と、使える魔法の強みを理解している強かさ、警察と冒険者の手から逃れる実力は大したものだ。


 でも、古式魔法なんて今時珍しく、高等な技術の使い手は、軍人かスパイ、もしくは一部研究職の人間になるから、絞込みがしやすかった。普通の泥棒は持っていないから、警察や冒険者でもパッと思いつかないだろうし、考えたとしてもそんな高等技術の希少な使い手が、特に研究者がすぐに足のつくような事をしでかす動悸がない、と思い込んでしまっただろう。

 後は隠し場所と探知されない方法だけれど、これも簡単だ。姿くらましの効果時間は一度につき、どれだけ長く使っても十分程度。だから、できるだけ加速して遠くへ運び、例えば事前に何軒か借りおいた貸家に、一般家庭で貯蔵されているだけの量に小分けした魔石を隠しておいた。

 これを新聞社に発表しなかったのは英断だよ。考え付く輩は少数出てくるだろうけれど、新聞で広めてしまえばもっと多くの模倣犯が出てくるだろうからね。


 おっと、ソレイユ、今のは誰にも話しちゃだめだよ? エル、君もお姉さんたちに話しちゃだめだよ。君たちは十分に凄いんだから、応用方法を生み出されたら色々と困るんだ。


 ともかく、本当に、犯罪者になってしまったのが惜しい人材だ。


 まぁ、そう言う訳で調査は比較的簡単だったし、邪魔してくる奴もいなくて楽だったから、正直なところ、よくある強盗事件だと考えていた。犯人の動悸は今一わからなかったから、直接聞こうと思っていたけれどね。


 さて、サエと出会った週の末日、調査を終えた私は彼を連れて君たちと合流した。助手として採用した訳でもない雑用をしている普通の少年であるサエを現場に連れて行った理由は、前にも話したね。

 彼がどうしても着いて行くと聞かなかったんだ。流石に鬱陶しくなって叱ろうと思ったけれど、あまりに必死な表情で、叱れなかったよ。これから死地へ向かおうとしている仲間を止めようとしている兵士さながらだった。


 その後は君も知っての通り、私は彼を連れて合流した、と言う訳だ。

 あの時の君の会話を今でも覚えているよ。


「フィーナ、そちらの……少年は?」

「この子はサエ。ほら、この前に話した件の少年さ」

「どうして素人をここに連れてきているのかしら」

「私もそう思ったけれど、この子がこの事件に何か思うところがあるようでね」

「なんですって?」


 この時、サエは私たちが何を言っているのかはわらかなかったけれど、怪しまれていることはわかっていたそうだよ。それで、頭を下げていたんだ。


「……それで、彼には何をしてもらうの?」

「突入後、家から飛び出してきた奴がいたら取り押さえるメンバーの一人にしよう。そうすれば危険度は少ないし、百八十に届こうって身長だ。相手を怯ませる要因になるんじゃないかな」


 今思い返しても、あの言い訳は凄く苦しいね。

 けれどそれで私たちは目標が潜んでいる家に移動した訳だ。

 青い屋根の二階建てだったね。私とサエを合わせて十人。私と君、それから四人が中へ入って、他の三人とサエは入口で待機と決まった。


お読みいただき、ありがとうございます。

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