ワイバーン事件④
アーサーの名づけを終えた私たちは、牧場主にワイバーンの捕獲を伝え、街へと戻った。皆を驚かせてしまうから、徒歩でね。
道中、私たちは色々と話しあった。
「この子に乗って飛べれば移動が楽だし、あの炎があれば焼畑の手伝いもできるだろう?」
「それはそうですけれど、食費はどうするんですか?」
「この子、車よりもずっと大きいですから、いっぱい食べなくちゃいけないと思います」
「あぁ、そうだったね……君、一日に羊やヤギを何匹食べていたんだい?」
尋ねてみると、アーサーは立ち止まり、地面に顎をこすり付けた。少し深い溝が、二本できた。
数字も認識できるようだ。ますます、頭がいい。
「二匹かい?」
「ぐるっ」
「二匹か……」
「多いですね……」
「普段の依頼額だけだと、すぐに足らなくなっちゃいますね」
「その前に、近隣の牧場から羊とヤギが消えて、街からお肉がなくなりますよ」
これまた難題が降りかかってきたが、今ココで悩んでいても仕方がない。
「ワイバーンは肉食っていうのが基本ですけれど、雑食なら野菜も行けるかと」
「おやつのリンゴがあるんですけれど、食べますか?」
ソレイユが恐る恐る差し出したリンゴを、アーサーは匂いを嗅ぐと、彼女の手を傷つけない様、器用にリンゴを加えて咀嚼して、呑みこんだ。素晴らしい。
「美味しいですか?」
「ぐるぅ」
「みたいだね。よかった、雑食のようだ」
だからと言って食費は変わらない訳だけれどもね。と笑っていると、アーサーが再び足を止めた。
「どうしたんだい?」
「ぐるぅぅ!」
問題ない、と言っているようだった。
ふと、その時に思い出したのは、私の愛読している耀姫の伝承だ。
耀姫に使えていた騎士にはそれぞれ従魔がいたのだが、その食事の量は人間と大差がなかった、というものだ。
もしかしたら、アーサーの食事も私たちと同じ分量で済むのかもしれない。伝承が本当で、アーサーが小食に耐えられる体であるのなら、だが。
考えることは山積みだな、と考えていたら、今度はサエが足を止めた。明後日の方角を見て、難しい顔をしていた。
「どうしたんだい?」
「あの、フィーナさん、アーサーがどこから来たのか、多分ですがわかったと思います」
「何?」
どこかに、アーサーのような古代ドラゴンの生き残りの巣があるのだろうか。身構えていると、彼はさっきまで見ていた方角を指差した。
「あっちに、ずっとあっちにですけれど、何かの施設があります。そこから、アーサーは来たみたいです」
「何だって?」
またもサエの不思議な力が働いたようだ。
それにしても、施設と来たものだ!
つまり、アーサーはどこかで飼育されていたということになる。動物園、なら可愛いものだが、それならすぐにでも見世物になっているはずだ。なら、どこかの研究施設だろう。
けれども、私が知っている限り、サエの指差す方角にある研究施設は一つだけだ。
「わかった。アーサーの事を報告したら、行ってみるとしよう」
こいつはキナ臭くなってきた。
その足で向かって行ってもよかったけれど、皆疲れていたし、装備も十分じゃなかったから、断念したよ。
しばらくして、私たちは街に戻ってきた。
サエが先にハンター協会へ行って、ワイバーン捕獲の旨を伝えると、中央広場に夜警に出ていた者は全員集まることになった。
アルトもあの時はいたから、覚えているだろう。
街灯に照らされて、大通りをのっしのっしと歩いてくるアーサーの偉容に、誰もが息をのみ、何だあれはと騒ぎ出した。
皆に、ワイバーンについてや、牧場での一件を話し、私がもらうことになった賞金は全員で山分けにして解散となった。
「この子はウチの従魔になったから、下手に手を出さないでくれよ? 炎を吐けるんだ」
道中でソレイユに回復してもらったアーサーが、最後に空へ向かって炎を吐いた。おかげで、ウチの事務所やアーサーだけじゃなくて、関係者にも手を出そうとする輩が出てこなくてよかったと思っているよ。
「いいかいアーサー。炎を勝手に吐いたりしちゃダメだ。理不尽な危害を加えようとする相手にだけ攻撃することを許可する」
「ぐるっ!」
アーサーの利口なところを見て、ハンター協会や冒険者ギルドがその場で従魔認定書を出してくれたのも助かった。
さて、これで一件落着、となったところで、アルト、私は君に相談を持ちかけたね。
「アルト、一緒に調査して欲しい。アーサーは恐らく、国軍の兵器開発部の生まれだ」
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その後、君と一緒に調査を進めた結果、私の予想通り、アーサーの出所は国軍の兵器開発部、その研究所の一つだと断定することができたわけだ。
「コネと運とサエの危険直行ルート予知を逆算して、どうにか上手く行ったって感じだったけれどね」
「サエさんがたまに出かけていたのは、そのお仕事があったからですか?」
そうさ。おかげで、数日で調査が終わったよ。
そう、何もかも、全部わかったのさ。
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