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ワイバーン事件②


「ワイ、バーン? 何だい、それは?」

「えっ」


 私が尋ね返した時のサエの顔ったら、「えっ、知らないの?」という感情が如実に出ていたね。目を丸くして、きょとんとしていた。


「えぇと、蝙蝠のような羽を持った、二本足の竜ですけれど……」

「ドラゴンの一種かい?」

「えぇ、まぁその分類だと思うんですが……あれ、知らないんですか?」


 知らなかった、あの場にいた誰も。それどころか、世界中の生物学者を当たったって、誰も知らなかっただろう。

 何せ、現世で生きるドラゴン種に、翼はないのだから。


「化石で発見されたドラゴン種では、君の言うような形の翼竜と呼ばれる存在がいたことはわかっているけれど、発見されている現存種に飛行能力を持つ者はいない」

「じゃあ、新種なのでは?」

「あり得ない話ではないけれど、冒険者やハンターだけでなく、魔族からもそう言った存在の目撃情報はなかった。もしも存在していたら、ただでさえドラゴン種だ。かなり危険だからね、必ず報告が入っている」

「そうなんですね」

「ねぇサエ、そのワイバーンについて、他に知っている事はないかしら?」


 サエが教えてくれたワイバーンの特徴は、空を自在に跳び、炎を吐く巨大なトカゲと言った様相だった。十分な脅威だ。上級ハンターと軍が協力して事に当たる必要があると判断できるくらいには。


「ありがとう、サエ。アルト、描けるかい?」

「えぇ。こんな感じかしら?」

「そこに、こう爪を加えて……こうですね」


 出来上がった絵を見たサエが、翼の関節に爪を加えて、犯魔鳥像が完成した。

 最初の想像図よりも恐ろしく、屈強そうな生物だ。


「わざわざ探偵する手間が省けたね。よし、ここからは張り込み調査と行こうか」

「待って、後は私たちか、軍やハンターたちに任せてもらえればいいわ」

「いやアルト。もしもサエの言う通りの生物だった場合、いくら軍やハンターが熟練者ぞろいだったとしても、苦戦は必至だし、下手をすれば死傷者が出る。相手の頭はカラスと同等かそれ以上だ。ここは、私たちに任せてはもらえないだろうか」

「貴女はいいとして……サエとソレイユは危険じゃないかしら?」

「二人とも大丈夫さ。自分の身は自分で守れる。凄い奴らなんだぜ?」

「それもそうね……そうしたら、夜警の一チームとして参加してもらいましょうか」

「いや、それもちょっと待ってほしいんだ。少し、気になることができてね」


 君をどうにか説き伏せて、私たちは三人だけでワイバーン退治に出掛けることにした。

 昼間のうちに準備を終わらせ、後は奴が現れる場所を知るだけだった。しかし、街に牧場と気ままに行き来し、細かい場所も変えているから、今夜の犯行現場がどこなのかを特定しづらい。下手をしたら、先に夜警たちが見つけてしまうかもしれない。

 君から教えてもらった犯行現場や時間帯を突き詰めて、私は三か所に絞ってみた。街の広場二か所と牧場だ。

 そうしたらサエの奴、私のマークした地図を指差して、牧場に出る可能性があると言い出した。


「また君の勘って奴かい?」

「そんなところです」


 この勘と言う奴が馬鹿にできない。私は二人に指示を出して荷物を背負い、夕方近くから牧場に張りこんだ。

 ソレイユの魔法で体臭をカモフラージュして、被害があった場所や羊たちの小屋も調べた。

 アルトが手をまわしてくれたおかげで、牧場周辺に警備はいなくて、とてもやりやすかったよ。


「人間を食べたことはないようだけれど、いつかは子どもが狙われるかもしれないね」

「僕も同感です」

「そんな、大変じゃないですかっ。絶対にここで捕まえましょう!」


 ソレイユも気合十分なところで、日もどっぷり暮れてきた。

 用具入れの小屋の影に隠れて、息を潜めて、じぃっと動かず待ち続けた。寒くなってきたらマントで身をくるんで、まだ現れないか、とそわそわした気分になってきた。

 そして、二時間くらいが経過しようとした頃、ソレイユが空を無言で見上げた。


 最初は何も見えなかったけれど、やがて夜空の向こうから、大きな影が飛んできた。月明かりに照らされたシルエットは、とても鮮烈だった。望遠鏡で確認してみると、その姿はまさに、完成した犯人像とほとんど同じだった。

 蝙蝠の羽に、太く強靭な二本足、そして胴体から伸びた長い首の先にあったのは、ドラゴンの頭部だ。


 あれだ、あれがワイバーンだ!

 興奮しながら、私は二人にハンドサインで準備するように伝えた。


 ワイバーンは上空を旋回し、手ごろな獲物がいないかを探している様子だった。牧場主が被害を恐れて羊やヤギの大多数を小屋に入れているが、それ以外は木の影などに身を隠させるようにしているため、中々見つけづらかったんだろう。

 けれど、鼻が利くのか、小屋近くの木の影に眠っている羊に目を付けたらしいワイバーンが、動きを変えた。これはすぐにでも急降下してくる、そんな感じだ。

 私はソレイユに、奴の犯行を阻止するようにハンドサインを送ったのと、奴が急降下してきたのはほぼ同時だった。


「えいっ!」


 ソレイユの掛け声と共に、魔法が放たれ、ワイバーンが地面に落下した。

 流石は大森林のエルフの者。私が遊び半分で教えた古代魔法の一つ、重力操作を使って、見事にワイバーンを撃墜した!


お読みいただき、ありがとうございます。


明日も十七時ごろに投稿する予定です。

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