ワイバーン事件①
「ふぅん、そんなことがあったのねぇ」
その時からかな、ソレイユがサエに――。
「ちょっと、フィーナさん!」
「流石は所長、ここぞとばかりに職員を弄っていきますね!」
エル、弄っているんじゃない。少しからかっているだけだよ。
「しょうもないことしていないで、次の話しでもしなさいよ」
おや、どうしたんだい。
「事件の真相も気になるけれど、貴女たちの調査の様子とか、サエとX氏の事とか、そっちも気になってしょうがないのよ」
「サエさんのことならソレイユさんがいっぱい話してくれますよ!」
「ちょっとエルちゃん?!」
ははは、まぁ皆、落ち着きなよ。
エルもそこまでにしておきなさい。ソレイユ、すまなかったね。
「それで、次はどの事件について話してくれるのかしら?」
「次でしたら……ペット探しでしょうか?」
「ソレイユさんとサエさんとラミカさんはペット探しが得意ですから!」
確かに君とサエのペット探しについて話してもいいけれど、次に話すのは、アーサーについてさ。
アルト、覚えているかい?
「えぇ、私が貴女に依頼した事件ね」
その通り。
私の大切な相棒にして家族たるアーサー。
その出会いと、後に起きる事件について話していくとしよう。
「連なる……あぁ、そう言う事ね」
「エル、ちょっとお茶菓子のお代わりを準備してきます!」
「それならもう用意したから、大丈夫だよ」
そう言う訳だ、エル。君もそのまま座っているといい。
さて、それじゃあまずは、君が我が探偵事務所に足を運んだ日から始めようか。
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ソレイユが事務所に来てからしばらく経ち、事務所での生活や仕事に慣れてきた頃。
サエとソレイユが子猫の救助依頼を無事に解決してきたすぐ後に、君がやってきた。
「それで、今日は一体どうしたんだい?」
「アルフィーナ、貴女に探偵して欲しい事があるの」
「ふむ? 最近、珍しい事件は起きていないと思うけれど、何か気になることがあったのかい?」
「本を読むのをやめてこっちを見なさいよ、まったく」
「すまない。それじゃあ、話を聞かせてもらおうか」
ソレイユがお茶を淹れて、サエと一緒に私の後ろに立ったところで、君はこういった。
「最近、連続傷害事件が起きているのは知っているわね?」
「あぁ。街に迷い込んだ低級魔鳥の仕業だと各新聞が騒いでいるアレだろ?」
「そう、それよ」
数日の間に起きていた、連続通り魔事件。
夜、通行人が、突然やってきた大きな魔鳥らしき生物に体を引っかかれ、噛み付かれる等して怪我を負っていた。幸い大怪我を負った者や死者は出ていなかったが、少なくない被害に警察が冒険者・ハンターギルドと共同で、夜間警備の強化を決定したほどだ。
さらに、街周辺の牧場や村で、羊やヤギが巨大な鳥のような生物に連れ去られていく姿が目撃されている、不可解な家畜盗難事件も相次いでいた。
「警察は、この二つの事件の犯人……犯魔鳥と言うべきかしら。同じ生物だと推測しているのだけれど、貴女はどう思う?」
「ふむ、恐らく同じだろうと思っているよ。ただ、羊やヤギを抱えて飛び去っていくような魔鳥が、人間を傷つけはすれど食い殺したりしないというのが引っかかるところだけれどね。召喚を用いた、復讐という線もあるけれども……」
「それは私たちも考えたわ。でも、被害者は犯罪歴なしの人ばかりだったし、特に誰かの恨みを買っている訳でもなかったわ。牧場の方も、後ろめたい事情はなかった」
「召喚者による犯行の線は薄そうだね。
それで、警察はハンターや冒険者に追跡と討伐を頼んだんだろう? 近いうちに捕まるんじゃないのかい?」
「それが、かなり頭のいい魔鳥みたい。警察、ハンター、冒険者が街や牧場を見張っている中で、その死角を見つけて犯行に及ぶのよ。たまに、巡回中の者が攻撃された事もあったわ」
「そりゃあ酷いな。だが、君たちだって、ただでやられたわけじゃないんだろ? 目撃証言から犯人像を描けたんじゃあないのかい」
「これと決まった訳じゃないけれどね。目撃情報を精査して、二つまで姿が絞り込んだわ。これよ」
君が見せてくれた犯人像のスケッチは、その当時の私にとって、とても奇妙かつ不可解で、恐ろしく、しかし好奇心が沸き立つものだった。
蝙蝠のような翼の生えた鳥や、ドラゴンの頭をした鳥。まるで神話やお伽噺に出てくる怪物だ。
「これは、トカゲ……ではないね」
「鳥なのに蝙蝠なんですか?」
「二つとも想像図でしかないわ。実際の姿を見た、という人の証言によると、ドラゴンの頭を持っているらしいんだけれども」
私とソレイユ、君が首を傾げている構図は、捜査の難航を現しているようだった。
けれども、サエの一言が全てをひっくり返したんだ。
「あの、これって『ワイバーン』じゃないんですか?」
そう、この時に初めて、ワイバーンという単語と、生物カテゴリーが誕生したんだ。
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18時ごろにもう一話、投稿します。