迷子のハーフエルフ⑦
「どうなっているんだ、これは……?」
フィーナさんが驚愕しているが、俺も何がどうなっているのかわからないため、答えられない。いつもみたいな、ご都合主義な力が働いたことだけは確かだ。
それよりも、やるべきことがある。
場を仕切っていたメイルさんに近づくと、彼女も俺たちに気が付いて、手を止めた。
「大丈夫ですか、助手さん」
「はい。ご迷惑をおかけしました。助けていただき、ありがとうございます」
「いいえ。……二人が無事で何よりです」
「無事……でしたけれど……」
女性ハーフエルフに付き添われて立ち上がったソレイユは、男性とは顔を合わせようとしない。それは、俺に対してもだ。
「あの子は、私たちにお任せください。もう決して、このような事は起こりません」
「お願いいたします」
「じゃあ、私たちはこれで失礼するよ」
「えぇ」
フィーナさんと俺は共同体の施設を出た。
地下でドンパチ騒ぎを起こしたのに、表通りは至って平穏で、そのギャップに形容しがたいシュールさを覚えた。
「ところで、拳銃はどうするんだい?」
「え?」
あぁ、そう言えば握ったままだった。このままだと誰かに見られてエラい騒ぎになる。施設に戻り、丁度上がってきたメイルさんに、拳銃は返しておいた。
「これは共同体のものではありません。後で警察へ渡しておきます」
「お願いします」
今度こそ用事は済んだ。帰ろうとして、メイルさんに呼び止められた。
「サエさん、でしたね。貴方はハーフエルフを、どう思いますか?」
どう思いますか、ねぇ。
フィーナさんのような人や、獣人、エルフ、ドワーフ、魔族……皆、あり方はそれぞれで、でもどこかで似たり寄ったりだ。そこにハーフも何も関係ない。
つまり、
「僕は、エルフやハーフエルフの事を良く知りません。けれど、ハーフエルフにも、いい人も、悪い人もいる。ごく普通の人間と変わらない。そう思います」
「そうですか……ありがとうございます」
メイルさんがどう受け取ったかは知らない。
俺は彼女に頭を下げると、待ってくれていたフィーナさんと一緒に事務所へと帰った。
帰所後、フィーナさんからどうやって地下室へ潜ったのかを聞かれたが、自分でも無我夢中でどうやったのかは覚えていないと誤魔化して難を逃れた。
代わりに、ハーフエルフの冒険者が隠遁の魔法を使っていた事を教えると、興味深そうに聞いてくれた。
なんでも、隠遁魔法は古代魔法の一種で、現在では使い手が限られている希少なものらしい。今回ソレイユを迎えに行った冒険者がどんな措置を受けるかは知らないが、その力を今度は世の為、人の為に使ってほしい。ハーフエルフと世界の懸け橋の一助になってくれると信じたい。
そして、日記を書く前に奴がまた唐突に教えてくれたことなんだが……俺が拳銃を撃った時に、相手の拳銃に弾が当たるように仕向けたのはコイツだったらしい。おかげで俺は殺人を犯さなくて済んだが、一体どういった風の吹き回しなのかと聞いたら、撃たれたことに怒った俺の感情が心地よかったから、と言う要領を得ない答えが返ってきた。
「今回は色々と助けられた。礼は言っとく。ありがとよ」
『別に助けた訳ではない。興が乗っただけだ』
こいつ、もしかしてツンデレなのかと疑ったが、奴らが死ぬ時ではなかったから、ということなのかもしれない。もうどっちでもいいが。
それよりも、ソレイユの事が心配だ。
もう会うことはないだろうし、もし街で見かけたとしても挨拶ができるかどうかってところだろう。
メイルさんはいい人のようだ。あの人なら、ハーフエルフと世間の関係を改善し、ソレイユの心の傷も癒してくれるに違いない。
俺じゃ逆効果になっちまうだろうからな、そんな風に思ったら、アイツがまた唐突に言葉を発した。
『お前は神か?』
「は?」
『結果的にお前はあの娘を救った。後はお前が気にしたところで、あの娘の将来はあの娘自身が決めることだ』
「そりゃそうなんだがよ……」
『自惚れるな。お前は神でも英雄でもない。ゆめゆめ忘れるな、拾った命を無駄にせぬように』
まさか、こいつから説教を受けるとは考えていなかった。本当に正論しか吐かないし、腹は立つが全部的を得ているため、頷くしかできなかった。
それにしても、拾った命か。
今日、俺はソレイユに命を助けられた。フィーナさんに事情を話したら、銃弾を防いだ黄金色のベールは、ソレイユが張ってくれた魔力障壁で間違いないらしい。
礼をいくら言っても足りないし、出来る事なら恩返しをしたいが、怖がらせてしまうだろうから、明日にでもギルドへ行って、共同体の窓口へ言伝を頼むつもりだ。
彼女の未来が明るい事を切に願っている。
さて、今日の出来事はこんなところか。明日は色々とアルトさんに話しをしなくちゃいけなくなるだろうし、早く寝るとしよう。
お読みいただき、ありがとうございます。
次回からはアルフィーナ視点に戻ります。