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白夜の大樹  作者: わらびもち
3/3

最初の手

「それじゃあ、依頼をどうクリアして行くか整理しましょうか」


一般層の広場でアイスクリームを呑気に食べながらエルフの少女、ヴェールはそう言った。

傍から見れば甲冑の男の隣にエルフの少女が並ぶという絵面だが、幸いにも一般層という立地、それと広場であるため、ある意味周囲の監視の目が光っている所から通報されるという状況にはならなかった。


「依頼の詳細だが…ふむ、野盗は貧民層の旧住宅街の様な場所を移動しながら特定されないようにアジトを移している。これがわかっているのに何故誰も動かなかったかは些か疑問だが…」


それを言ったきり甲冑の男、ナグリは口を閉じる。何か良くない事に巻き込まれるのではないかもしれないという考えを必死に考えないようにするのに必死だった。


「簡単な事じゃないですか。私たち「貧民層」の人達は消耗品みたいなもんですからね〜。いなくなっても何も問題ない人達に、グレーゾーンの依頼を渡すってのはよくある事だと思いますよ」


疑問を更に増やす様にヴェールは続ける。実際、この考えは妥当性があり、これまでにも貧民層への依頼は基本的に無茶ぶりだらけだった。

さらにヴェールは続ける。


「まぁ何かあるのは確定じゃないですかね?今回の依頼だって、手を打とうと思えばもっと早くに打てた筈の依頼なのに、わざわざ一般層に被害が出始めたら漸く依頼として出たって感じの依頼ですからねぇ」


「お前の言うことはごもっともだが…ギルドを疑うよりも先に依頼を達成する方法でも考えたらどうだ?まぁ不安になるような発言をした俺にも非はあるがな」


実際、ナグリからしてみれば裏になにかあるのは百も承知。要は、それが自分の生活を脅かす脅威か否か程度の心配だった。

逆に、ヴェールからしてみればギルドを疑うのも無理はない。基本的に野盗を取り締まるのはこの国の警備隊かなんかが動くはずで、普段通りの依頼ではないという所から面白がって受けたのがこの依頼の始まりだ。

そのため、お互いがお互いに疑問と不安、そして依頼の裏がわからないという危険な匂いを察知しているも、お互いにお互いの隠している想いは誤魔化すしかなかった。


「そうですね、依頼を達成する方法ですか…正直、襲われた人達に直接聞くってのもいいんですけど…」


「それじゃあ盗られたモンが分かるだけだ」


「そうなんですよねぇ…それなら、なんかで釣って、そっから追跡するしかないんじゃないですかね」


「……野盗は住処を移動してるんだよな」


「そうですね。基本的に、足がつかない様に様々な所へぴょんぴょんと動いてるようですね」


「………」


何かを考えるナグリ。必死に案を考えている様子を見ながら、ヴェールはというと眠たそうに小さく欠伸をするだけであった。


「囮作戦だと、囮作戦であるとバレたら詰みだ。ヴェール。お前足は早いか?」


「?…足ですか?まぁ早いとは思いますよ?貧民層にはトラブルも絶えないんでそういうのからは逃げてましたし」


「ならいい。『俺はこれから無能な護衛役』だ。言ってる事、分かるか?」


ヴェールは何かにピンときたような顔をする。


「あ〜なるほど!そういう事ですね!追跡と特定は任せてください!」


「話が早くて助かる。さて、この作戦をするにはまず、被害にあった飲食店なりを回って事情を説明しなくてはならん」


「万が一、『眠りこけてドジりまくってる護衛役してるナグリさん』が怪我したらどうするんです?」


「ドジはしないようにする…がわからん。確証は持てんからな」


「それだったら、万が一に備えて薬屋さんでも頼ったらどうですか?応戦して切り傷が増えたら痛いですし」


「薬屋?」


そう、ナグリはあまり冒険には出ない。甲冑を身にまとっていながら、ギルドにはあまり顔を出さず、現実的な依頼を受け、何か納得したように依頼を完遂するタイプの人間だった。そんな人間が、薬屋の存在を知らないというのは至極真っ当な事である。


「知らないんですか?一応ギルド直属の薬師さんがいて、その人が店開いてるんですよ?」


ギルド直属の薬屋なんてものは初めて聞いたナグリは、少しだけ考えた後、何かを思い付いたように話し出した。


「分かった。とりあえずその薬師とやらを頼ろう。ギルドの依頼なら断りはしないだろうしな」


「決まりですねぇ、じゃあ行きましょう!」




コンコンと薬屋の戸を叩く。薬屋はギルドがある通りの少し離れた場所で、街の外に出る人達が外に出るがてら寄れるように配慮された場所にある。

勿論、ギルドの依頼で大勢がこの薬屋を頼る時もあるが、2人が到着した時はギルドの依頼も入ってなかったのか、閑古鳥が鳴くレベルの人の来なさであった。


「ん〜?おぉ、お客さんやん、いらっしゃい」


少し驚いたようにナグリとヴェールを見ている薬屋の店主は緑色のセミロングの髪に眼鏡をかけている少し身長の小さい少女だった。


「ギルドの者だが、依頼で少し薬が必要でな」


「?…今ギルドでなんか依頼あったんか?…まぁええわ。そんで、薬っちゅうてもどういう薬が欲しいんや?」


「えっと、無難に傷薬が欲しいですね…後なんか必要なもんありましたっけ?」


ヴェールはナグリを見やるとナグリは薬屋の店主を見つめ


「痺れさせる薬、あるか?」


「麻痺毒でもやるんか?……ええけど、魔物相手専用になるで?」


「魔物相手じゃあないんですよねぇ………あっ」


殆ど反射的に答えてしまったヴェール。今まで依頼の内容が魔物退治だと思っていた薬屋の店主は余計に怪しい目で2人を見る。


「あんなぁ、あんたらギルドの依頼言うてるけど、うちが今日朝ギルドの掲示板見た時はなんもなかったで…?麻痺毒人に打つなんざロクな事やないやろ?」


「うっ…えっとですね…その…」


助けを求めるようにヴェールはナグリの方を見る。ナグリは少し息を吸い込んで覚悟を決めたように薬屋の店主を見た。


「少しきな臭い依頼でな。ヴェール…コイツが取ってきた依頼なんだが、どうにもおかしな点が多くてな。依頼自体は野盗退治だ」


「野盗退治なぁ…野盗の噂自体は立ってるけども、どうもきな臭いっていう理由はなんや?」


「ここからは予測だ、だがちょっと考えれば直ぐ解決する依頼故に、おかしな点って奴が多い。まず1つ、依頼の内容に関してだが、アジトがほぼ特定出来ている事。2つ目、警備隊が全く動く素振りもないこと。3つ目、これはさっき知ったが、朝の段階では依頼になかったこと。この3つだ」


薬屋の店主は考えた。確かに、この国は貧民層、一般層、富裕層の3つに分かれているが、貧民層であっても、警備隊自体は街の治安維持の為に動くのが基本で、わざと野放しにされている可能性がある事。そして、ギルドの依頼は基本的に朝更新されるが、更新されるタイミングが遅かった事。それらを統合して考えると、この野盗は只の野盗で終われば幸せで、最悪、国絡みの何かが起きている可能性があるという事は理解できる。


「………わかったで。『何も無ければ』それでええんや、念の為麻痺毒を持ってくとええ」


「すまないな。この話はこれっきりでいい。無理に足は突っ込む必要はないと思うしな」


「……待ちぃ」


「?」


「……何かあったら、うちに教えてくれんか?それでうちの薬代チャラにしたる」


願ってもない申し受けだが、ナグリからすると、知らない一般人を巻き込んでいる気しかしなかった。しかし、罪悪感がある程度あれど、目の前にいる薬屋の店主の少女は真実を知りたがっていた。

何も無ければそれでいい。そう気持ちを抑え、ナグリはこの申し受けを受ける事にした。


「わかった。それで手を打とう。俺の名はナグリ。んで、コイツはーーー」


「ヴェールです!」


「ナグリはんに、ヴェールはんな、ほなよろしくお願いします。うちはレジーナっちゅうもんや。見ての通りの薬屋や。ほい、約束の薬。無くさんようにせぇよ?」


「恩に着る。それじゃあな」


「傷薬もこんなに…!レジーナさん、ありがとうございます!」


「気を付けるんやで、二人とも!」



薬屋を出ると、夕方に差し掛かっていた。


「うっわぁ…結構経っちゃいましたねぇ。依頼期限は3日間程だったと思いますけど、出来れば早めに終わらせたいですね」


「ごもっともだ。薬も手に入れた、協力者も増えた。それなら次やる事は明確だろう」


ピッと親指を飲食店のある方に指すナグリ。


「聞き込みと『無能な護衛役』を求めてる店を探すぞ」


「りょーかいですっ」


2人は手分けして、店を回って被害に合ってないか、合ったなら護衛は必要ないかを聞いて回った。

主に集中的に狙われている飲食店に二人ともアタリを付けた時には、外は夜になっていた。


「ここですか〜よく使う店なんですよねぇ」


店の看板には''ドン・ペリニヨン''と書いてあるバー兼レストランといった所であった。

中に入ると、夜の時間というのもあり、ダンスパフォーマンスと、それに見とれる観客。仕事の疲れを癒すために酒を飲む客と様々な人達がいた。

2人はマスターらしき人物がいる付近のカウンター席に腰を掛けると、マスターはおもむろにレモン水を2人に差し出した。


「ありがとうございます。…えっと、マスターさん。今ギルドの依頼受けている最中なんですけども、野盗に食料庫を襲われる事とか、ありませんでしたか?」


その言葉にピンときたのか、マスターは2人を見ると


「……なるほど。大方把握しました。えぇ、最近ありましたね。食料庫を襲われ、ロクな手立ても出来ずどうしたらいいものかと…」


「そこでなんだがな、マスター」


「はい、なんでしょう?」


ナグリの方を徐に見るドン・ペリニヨンの店主。何かを期待するように、そして、次の言葉を待っているようにナグリを見つめる。


「俺に提案があるんだが、いいか?」


ここまで読んで頂きありがとうございます。


では、さっくりとこの今いる国、『ライラック王国』の解説を。


ライラック王国では、主に貧民層、一般層、富裕層に分かれ、それぞれの人達が暮らしています。

貧民層は国に税を納めない者達や、他の国からの移民等がたどり着きやすい場所です。

勿論、ただそれだけでは国にとってデメリットでしかないのですが、ギルドは貧民層の人達に無茶な依頼を押し付けたたり、貧民層での暮らしを認める代わりに王国周辺に現れる魔物退治等を警備隊共々とやらせる事で、税の代わりとしています。


また、ライラック王国では電気は通っていませんが、水道は通っていて、蛇口を捻れば水が出ます。ただ、浄水器はないので、直接飲むことあまりできません。ただし、貧民層は水を買うことも厳しい人はその限りではありません。


因みに、ライラック王国では基本的な施設は大体あります。病院やギルド、レストラン、バー等。


本編では、ヴェールが貧民層。ナグリは一般層に所属しています。


次は少し登場人物についても触れます。


ここまで拙い文章を読んで頂き、ありがとうございます。

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