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白夜の大樹  作者: わらびもち
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はじまり

「はぁ…誰か組んでくれないでしょうか…」


そう、ギルドと呼ばれる仕事を見つける場所で、喧騒の中で小さく呟いた少女は、かなり困っている様子だった。少女が手に取る紙には、''野盗退治''と書かれていた。

少女は、俗に言うエルフと呼ばれる種族で、長い耳に、銀髪、そして、赤い目をしていた。ただ一つ、そのような外見にも関わらず、みすぼらしい格好をしている事が、少女が困っている原因の1つであった。


少女のいる国、ライラック王国は、富裕層、一般層、貧民層の3層からなっており、貧民層といえば、国としては、人としての権利すら持っていないが、何も起こさないのであれば生存は許されるというグレーゾーンなエリアであり、住民税も納めていないため、一般層や富裕層の民衆には忌避の目で見られ、基本的には犯罪者と何ら変わらない扱いを受ける事が多い。


だからこそ、少女にとって、今一緒に仕事をしてくれる人を探すというのはなかなかにハードルが高いものだった。


「あ、あのう…」


弱々しく尋ねる少女の声は、どこか怯えているようにも見える。

直後、テーブルに座っている1人の男が少女のみすぼらしい格好を見るなり


「ごみ溜めの連中がこのギルドまで上がってきてんじゃねぇよ!」


恐ろしい剣幕で詰め寄っる男に少女は


「あ、あはは…すいません…すいません…」


上っ面の様な笑顔を貼り付け、出来るだイメージダウンしないように務めるだけであった。


そんな時だった。


「おい」


そう低い声で響いた音の主は、テーブルの隣に座っていた鎧を来た大男だった。


「は、はい?なんか癪に障る様なことしちゃいましたか…?それだったら申し訳ないです…」


「違う」


「えっと…?では………?」


「………それ、見せてみろ」


男が指したのは、''野盗退治''と書いてある紙だった。


「一緒に受けてくれるんですか!?」


一気にテンションの上がる少女、それとは反対に


「声がデカい、まだ受けると決まったわけじゃない」


と冷静な大男。

暫く何かを考えていた後


「お前、1人でこれをやるのか」


「そうです!明日の食事すら満足に取れないもので、流石にやばいなーって思って、私みたいなのでも受けられるようなお仕事を下さいって言ったらこれを貰ったんです!」


笑顔でとんでもない事を言う少女。明日の食事すらままならないというのは、自分が貧民層の出である事を暗に明かすと同時に、この依頼は貧民層を言わば、''捨て駒''の様に扱う依頼である事が暗に大男には理解出来た。


「お前………なるほどな、わかった、俺もその依頼受けよう」


「えっ?ホントですか!?」


「お前が驚いてどうする。お前、俺が紙を見た時から俺が受けると思い込んでただろうが」


「まさか本当に受けてくれると思ってなかったですから…」


「……ただし、俺からも条件だ」


「はい!私にできる条件なら大丈夫ですよ!」


「………なら、まずその馬鹿でかい声。目立ちすぎだ。それと、貧民層である事はできるだけ隠せ。いいな?……んで、名前、なんて言うんだ」


「ヴェールです」


「ヴェールか、俺はナグリ、特に覚えなくてもいい、今から行くぞ?」


こくりと少女が頷くのを確認した男は、徐ろに席を立ち、少女の手を引いた。受付嬢の所まで歩いた。


「これ、受けされてもらう。パーティは俺らで。そんでな、この子の新しい服、1着でいい、借りれないか?」


「ええっとですねぇ…ギルドマスターに聞きますので少々お待ちを…」


受付嬢は少々特殊な自体に面食らったのか慌ててギルドマスターを呼びに行った。ナグリは恐らく、一個人の判断で終わらせていい判断ではない事をした事を自覚したが、すぐに冷静になった。


「お待たせしました。ギルドマスターのココナと申します。申し出は理解しましたが…こちらで新しい服を取り揃えるのは…」


「なるほどな、わかった、他を当たる」


「申し訳ありません」


「いい、行くぞヴェール」


「はい!」


そうして、ヴェールと呼ばれたエルフと、ナグリと呼ばれた大男の依頼が始まった。







「まずはお前の服、その1発で貧民層である事がわかる服をなんとかするぞ」


「なんでまたそんな事を?」


キョトンとした表情のヴェール。イマイチ、ナグリが言いたいことが理解出来てないみたいであった。


「お前な…さっきも言ったが、下手に目立つ事はしたくない。だがお前の服装を見てみろ」


「……!なるほど」


「気付いたか…お前の服装はここ一般層じゃ目立ちすぎだ。……だが、生憎と服装なんぞとはてんで縁がなくてな。ましてや女物ときたら余計にわからん。貧民層とかにアテはあるか?」


「あー…そうですねぇ、一応…?」


「なんでそこで疑問形なんだ…」


「あんまり顔を合わせてくれないんですよねぇ…」


「まぁいい、知り合いならソイツの所に行くぞ」


「えっと…?私服買うお金ないですよ…?」


「…………しょうがねぇ。今回だけだ」


「…!ありがとうございます!」


「さっさと行くぞ、俺は貧民層についてはてんで分からん。案内頼むぞ」


「りょーかいです!」


ヴェールは得意気に貧民層を案内していく、道すがら、入口付近の時計屋を指差し、ここが時計を売っている所である説明をしたり、貧民層には、闇医者、呉服屋が他にもある事を説明した。


「で、今回行くのがその呉服屋なんですよ」


「なるほどな、ただ、道筋を逸れるなよ、俺らは''野党退治''がメインだ」


「そうですね〜道すがら確認しながら行きましょう」


今回の依頼は''野盗退治''。その名の通り、野盗を退治する依頼だ。

野盗と言っても、貧民層を住処にしており、度々一般層に現れては、物を盗るなどしている集団の事だ。

貧民層の状態が野盗含む犯罪者の温床の為、こういった理由からも貧民層は一般層や富裕層から嫌われる原因の1つであった。

今回の野盗は貧民層の倒壊して、雨風がギリギリ凌げるくらいの建物が何ヶ所かあるエリアに重点的に出没するため、そこを叩くといった依頼だった。


「物騒ですよねぇ、物盗りなんて」


「人は、生きようと思えば大概なんでも出来るもんだ、物盗りだけで終わってるだけ、かわいいもんだと思え」


「そんなもんですかねぇ………おっ、着きました!ここですここです!」


ヴェールは上手いこと民家と溶け込んでいる一角を指して、ナグリを引っ張っていく。


「いらっしゃーい…って、ヴェールさんっスか」


「こんにちはです!ニコラスさん!」


ニコラスと呼ばれた男は2人をお客と見て、中に入るように案内した。


「それでですね、私の服が欲しくって…」


「……うーんと、呉服屋としてボクは勿論売りますけども、まずその方は?」


「ナグリだ、今はコイツと組んでギルドの依頼をしている。今回、ギルドの依頼でヴェールの服が必要になってな」


「なるほどっス。なら気軽に見て欲しいっス。ウチの服は女性物だったら大体フリーサイズってなってるっスから、お直しの必要もないっスよ」


「じゃあ、えっと………」


何かを物色し始めるヴェール。しかし、15分、30分と待っても中々決めあぐねていた。


「………これ、いいかなぁ」


小さい声で呟いたヴェールの手に握られていたのはウエストの所でリボンが着いているワンピースだった。


「……それじゃあ動きにくくないか?」


「そ、そんな事ないですよ!私基本的に戦闘はナイフ投げなんで!」


「まぁ、お前がいいならそれでいいが」


「えっと…このウエストリボンカットソーワンピースだけで大丈夫っスか?」


「は、はい!大丈夫です!幾らでしょうか!」


ニコラスは少し悩んだ後


「そうっスねぇ…お金はいいっスよ」


「ええ!?なんでですか?悪いですよ!」


「そう思うんだったら、ナグリさん…でしたっけ?」


「あぁ、そうだが」


「この人に感謝して欲しいっス。ヴェールさん。貧民層にいるからわかると思うっスけど、貧民層にいる人は基本的に服にまで金を回してる余裕がないっスよね?だから、そこも加味して考えるとヴェールさんに今この服を払うだけの経済力があるとは思えないっス。それじゃあ誰が払うかって言ったら…」


徐ろににニコラスはナグリを見て


「ナグリさんっスよね?」


「そうなるな。だが、俺は…」


「払っても構わない。っスか?まぁ商売的にはそれが1番なんスけどね。その、ボクからのヴェールさんへのプレゼントみたいなもんっスよ」


「いいんですか!?ありがとうございます!」


ニコラスは満更でもない表情で


「いいんスよ。それじゃあ、依頼、頑張って下さいっスね」


「はい!」


笑顔で手を振るヴェールを横目に見ながら、ナグリはこれからどう野盗共を炙り出すか考えていた。


亀更新ですが書いていきます。

世界観や細かい文化等はこれから後書きで補足させて頂くので何卒よろしくお願いします。

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