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74とても小さな、切欠で。


漆黒があたりを覆う空間。

己が今、地面を踏みしめていることすらわからない。

感覚を全て持っていかれたような、不思議な空間。


何が起こったのか全くもって理解ができない。

殿下と話をしていて、気がついたらここに居る。

殿下に転移させられたわけではないだろうし、己で転移してきたわけでもない。

全くもって理解しかねるこの状況である。


「――ここ、は……?」


足下を照らそうと炎の魔術を発動するが、思い通りの火力がでない。

辛うじて足下を照らす程度に留まった炎は、今にも消えて無くなってしまいそうだ。


――魔力が補充されない…。

どういうことかしら…。


“この世界に瘴気の無い場所は、無い。”

そう思っていたのだが。


どうやら、この場所は“瘴気が存在しない”らしい。


消費した分の魔力が補充されない。

――無闇に消耗するべきでは無いわね…。

何が起きるか予想もできないこんな場所で身動きが取れなくなるなんて事態は避けたい。


炎を消し、暗闇に目が慣れるのを待ってから歩き出す。

暗闇に慣れるといっても、辺り一面漆黒に覆われていることになんら変わりはないのだが。


当てもなく暫く歩みを進めていると、前方にぼんやりと淡い光を放つ場所が現れた。

その光につられ、足を進めるにつれて徐々に何かが見えてくる。

初めはぼんやりとしか見えなかったその場所が徐々に鮮明になっていく。

漆黒の闇の中、一カ所だけ光を放つその場所。

そして、その光景に思わず駆ける。


「――…グレンっ…!?」


光の発生元。

その場所に、“遠方勤務”に出向いているはずの漆黒の青年が、壁に凭れ両手足を投げ出すかたちで力なく瞳を閉じて座している。


「――グレン? ……っグレン!」

「――――――」


呼びかけるも、反応は無い。


「っ、!?」


触れようと伸ばした手は、彼に触れる直前で不可視の壁に阻まれる。

その触れた手に走る痛みと、そこから消え去った魔力に目を瞠る。


―――触れれば魔力が消え去るなんて…!

魔力を生産できないこの空間で、魔力を消耗すれば枯渇する。

魔力の枯渇は、その力を活動力にしている者にとって致命的である。


――“…もし、俺が…。

魔力が足りなくて消えてしまいそうになったら、フリアは…どうする…?”


不意にグレンの言葉が頭を過ぎる。


閉じられたままの瞳。

力なく投げ出された手足。

ただ、呼吸のために上下するその胸の動きのみが、彼が生きていることを証明している。


――グレンは謂わば、“病み上がり”だった。

魔力が枯渇した状態から動ける状態まで回復したとは言え、まだ万全の状態ではなかったのかもしれない。


――ひょっとして、“消えている”のではなく彼が“吸収している”のだとしたら…?

己の魔力を補うために、外から与えられる魔力を溜めている最中なのだとしたら…



「―――、」

今一度、彼に向かって手を伸ばすも躊躇いがちに引き戻す。

――もし、殿下の二の舞になってしまったら…。

原因はわからないが、殿下があんなにも苦しんでいたのは“己の魔力を吸った”からだろう。

魔力が暴走して制御できない痛みとなって、殿下の体内で暴れまわったに違いない。


――そんな危険なことを


「――でも、…貴方が消えるのは、嫌なのだもの」

――たとえ、二度とその目に映ることが出来なくても、今、手を伸ばす事に後悔はないと言いきれる。


「…―――っ、!」

指先から、肘・肩へと、徐々に痛みが鋭くなる。

痛みの部位が広がるごとに、消え去る魔力も多くなる。


「――グレン、…グレン―――、いい加減、起きなさいよっ、グレンっ!!」


叫ぶように、その名を。

――まだ、足りないというのならっ…!

片手で足りないというのなら、両の手を差し出すまで。


そう思い、一歩前へ踏み出す。


「―――フリア―――…?」

「――おはよう、グレン。―――よく、眠れたかしら…?」


ゆるゆると開いた瞳に向かって、挨拶を。

痛みと倦怠感を気取られぬよう、歯を食いしばったままの笑みは、なかなかに凄みのあるものになったのではないだろうか。

徐々に、ぼんやりとした瞳は意志を持ち始め、状況を理解すると一転、その瞳を見開いた。


「――触っちゃだめっ!!」

「―――っ…!」


トン、と突き出された掌が、鎖骨の辺りを捉え後方へと押しやられる。

その掌が触れた瞬間、さっきまでと比べられない程の魔力が霧散する。

その衝撃に耐える間もなく、体は地面に打ち付けられる。


「ちょっと、何するのよ、グレン!?」

「――ごめっ…そんな、つもりじゃ……」


起き上がり非難の声をあげると、可哀想なほど慌てふためくグレンの顔が。

常に不遜な態度の彼に似つかわしくないその表情に、ついつい笑みを溢してしまう。


「私はたいしたことないわ。――それより、どうしてこんなところに? と、いうか、ここは何処なのかしら」

「フリア、ここは危険だ。…だから、早くここから逃げて!」

「――どうやって来たかもわからないのに、帰るなんて無理よ。――グレンが帰りかたを知っているのなら、話は早いわ。一緒に帰りましょうよ」


歩み寄り手を差し出すも、応じる素振りを見せない。


「――俺は、無理だ…。帰れ、ない…」

「どうして? もう、動けるようになったのでしょう?」


意識は戻ったのだ。

私を突き放すだけの力も出せるし、動けるのだから問題は無いはずだ。

そう思いグレンを見詰めるも、俯いたままの彼は徐に左手の袖を捲る。


「――これがある限り、俺はここから出られない」

「―――腕輪? …なんだか、綺麗な色ねぇ――」

「っ、ダメ! 触らないで!!」


純白の腕輪に近付いただけで、強い拒絶を示される。


「これは、魔力を制御する腕輪、みたい。――だから、俺はここから出るだけの力をもっていない。――フリアが、魔力をくれなかったら、たぶん、目が覚めることはなかったと思う。……それくらい強い力が、この腕輪に込められている、から…。」

「――私の魔力量を甘く見ないで欲しいわね。グレン、貴方の手を取ってここから出るだけの魔力は残っているわよ?」


目の前で俯く青年に向かって声をかける。

少しうわずった語尾になってしまったが、不審に思われることはないだろう。


―――正直、今、この場所に立っているのも……

かなり、キツいのだけど……

しょんぼりしている彼を前にして、そんな弱音は吐けないわ。


早いとこ決着をつけなければいけないというのに、グレンは動かない。


「――俺が動くと、“向こう”も行動を起こす。――そうなってからでは、遅いから…--フリアは、帰って」

「―――え――?」


ふわり、優しい風が体を包む。


「ちょ、グレン! --貴方も一緒にっ!!」

「――ほら、…“殿下”が、呼んでる…」


顔を上げてこちらを見る彼の顔には、諦めの笑みが浮かんでいて…。


「っ! …グレンっ! --私、殿下から、“側室にならないか”って、誘われたけれど、断ったわ! ――待っているから! --私は、グレンを待ってるっ!!」

―――諦めるなんて、貴方らしくないわ。


想いを込めて、叫ぶ。

届いたかどうかは、わからない。

それでも。


「っ――――、そう、…」


視界が染まる前に見えた表情は、花が咲くような、笑顔だった。





―――!


――――っ!?


―――リア――!


「―――フリア嬢!!」

「―――殿下…」

「よかった、…突然、意識を無くしたから、どうしたのかと…」

「―――申し訳ありません。…少し、立眩みを起こしてしまったようで…ですがもう、心配には及びません」


ホッとした表情の殿下の支えから遠ざかり、ソファーに再び腰をおろす。


「――――、殿下、…それ、は…」


腕を下ろす間際、捲れた袖口から見える純白の腕輪に目を奪われる。


「――これかい? ――これはわたしが現人神(わたし)であるための“御守”のような物だよ」


そう言って、殿下は袖を下ろす。


「そう、なのですね…。余りにも綺麗だったもので…目を奪われてしまいました…」


駆ける鼓動が聞こえはしないかとハラハラしながら、平静を装う。


私が気を失っている間に、何があったのか殿下は知らない。

私が何事も無かったかのように振る舞えば、いくら現人神といえどひとの心は覗けまい。


その後、私に異常が無いことを確認し、暫く話してから殿下は帰って行った。


だれもいなくなった部屋で、一人呟く。


「―――わたしが、わたしであるための、御守…」


殿下の言葉が、耳から離れない。

あの言葉の、意味する答えとは…。


思考に浸りながら、また、夜が更ける。




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