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06初めましてとその反応。



「ようこそ王宮へ。」

「どうぞ、お通りください。」


目の前にはそびえ立つ壁。


石のような素材でできた壁は、一つひとつに防御の魔術が掛けられているようで、天変地異が起ころうと、きっとこのまま立ち続けるのであろう。


門番が門に触れると、音も無く横にずれていく。

これもきっと何かの魔術なんだろうな、と興味深く見入ってしまう。


「これでお妃様候補は全員お揃いになりました」

「私が最後だったのね。時間をとらせてしまって申し訳ないわ」



王宮の敷地に入ったというのに、建物は遙か向こう側に見えるだけ。

目の前に広がるのは唯々緑生い茂る見事な庭園。


庭園を進んでいくと、至る所に道が整備されており、さながら迷路のようだ。





「お妃様候補の皆様には、後宮に入っていただくのですが、一人に対して敷地と屋敷が与えられます」

「“後宮”と呼ばれる建物が散在している、ということかしら?」

「えぇ、そうなります。フリア様は最後のご到着でしたので、建物の中では一番“奈落の谷”に近い場所となってしまいますが、きちんと警備兵も配置されておりますので、ご心配なく」





案内役の兵士が申し訳なさそうに説明してくれるが、私にとっては何処であろうと関係は無い。

むしろ、王宮から離れる場所ほどちょうどいい。











「――失礼ですが、お妃様候補の方ですか?」

「えぇ、そうですが。」


暫く歩いていると、向こう側から鎧の色が違う兵士らしき人が私たちを呼び止めた。


「ジェラルド様、なにかあったのですか?」

「あぁ、実はな……」




案内役の兵士とジェラルドと呼ばれた兵士はなにやら難しい顔で話し込んでしまった。


この先が私に割り当てられているらしい区画ということなのだが……。

ここまで来て、先に進めない何かがあったのだろうか。






「フリア様、申し訳ありませんが、一旦王宮の方でお部屋をご用意させていただきますので……」

「なにか、拙いことでも?」


ジェラルドと呼ばれた兵士は事のあらましをざっと説明してくれた。





ジェラルドによると。



昨夜から未明に掛けて、最後のお妃様候補に割り当てられた区画から火の手が上がり、屋敷などその他諸々が灰になってしまったそう。


今現在、魔術師が魔術を以て再建に勤しんでいるが、まだ外装しかできておらず、とてもじゃないけど住める状態ではないらしい。


そこで、あと数日は王宮で部屋を用意するので、屋敷が完成するまでそこで過ごして欲しい。


とのこと。







わざわざ王宮に部屋を借りなくとも、王都に自分の屋敷があるのだから、そこから出直してくるのでもいいのだが……。


それは、王宮側としては受け入れられない提案だそうで。



曰く。



「せっかくお迎えしたお妃様候補を不手際で王宮の外に追いやるようなことがあっては今後に支障が出る」


らしい。





しかし、こちらとしても、わざわざ王宮に借り暮らしは勘弁して欲しい。


いつ、何時、何が起こるかわからないので。




「でしたら、再建中の屋敷をみせてくださらないかしら?」

「いえ、ですが……」

「私にも魔術の心得はありますので、お手伝いできることもあるかと思うのです」


そう提案すると、二人は目を見開く。





「フリア様は、魔術が使えるのですか!」


と。


それもそうか。



このシェーグレン国で魔力を持つ者は極端に少ない。


私は名しか名乗っていないし、見た目は派手だが、魔力持ちの印である“金の瞳”をたたえているわけでは無い。



一見するとただの赤髪・黒目のちょっと派手な外見の血筋、くらいにしか思われないのであろう。





「えぇと……。名乗るのが遅れて申し訳ありません。私、フリア・バイアーノと申します。最南端を賜っておりますので、魔術に関しては微力なりともお役に立てるのではないか、と」


「ば、バイアーノ………そうか、その髪色、見覚えがあると思っていたが……。もしや、ファム様の御息女か?」

「母を御存知で?」



これでもか、と口をあんぐりと開けながらこちらを凝視する案内役の兵士と、目をまん丸にして問いかけてくるジェラルドという兵士。


「も、もちろんです。ファム・バイアーノ公爵様と言えば、たった一人で“奈落の谷”の真上に結界付の橋を架ける程の魔力を有し、人外ではないかとも噂された最強の方ではありませんか」

「そ、そうなのですね。」



――母よ、貴女は一体どこを目指していたのか。



とりあえず今は母がどこを目指していたのかはおいておくことにする。






再建途中というのであれば、ある程度は私が好きに改造・改築可能なのではないか。


既に用意されている物を破壊してすり替えるのが少し心苦しく思っていたので、突然の火災は私にとってはちょうどよかったのかもしれない。



「ここが、私の区画なのですね?」

「はい。ご覧の通り、未だ人が住める状態ではありません」




「とてもステキな場所ね。作りがいがありそうで」


私の言葉にジェラルドは困惑した表情を見せる。


それもそうだろう。ほぼ更地状態の場所が住処だといわれて、喜ぶ者は少数だろう。いや、皆無かもしれない。




しかし、私はその少数派であるわけで…




「――作業中の皆様。申し訳ありませんが、作業の手を止め、こちらまで離れていただけませんか!?」

「「「「!?」」」」

「……、皆、一旦こちらに移動してくれ。」


突如飛び込んできた声に、作業中の魔術師達は一斉にこちらを振り返って固まったが、ジェラルドの一言でしかたがないとばかりにわらわらと集まってきた。





「ジェラルド、我ら魔術師団の威信にかけて、迅速に屋敷の再建を行っているのだが?」


「あぁ、それは重々承知している。しかしだな、到着したお妃様候補に挨拶もなしとなっては、さらなる非礼になると思わないか?」




作業中の魔術師の中で、最も地位が高いであろう人がジェラルドへと苦言を呈している。


しかし、言われた方の当人は全く気にする様子は無く、むしろどこか楽しげに言い訳めいた事を言う。





「おまっ、お妃様候補を王宮へ誘導するためにこの場を離れたのでは無かったのか!?」

「まぁ、そうカリカリするなよ、テオ。ここに来るのがお妃様候補の希望だったのだから、しょうが無いだろう?」

「いや、しかし!」

「あ、あの。ジェラルド様の言う通り、私のわがままで連れてきていただいたので……。あまり、ジェラルド様を責めないでいただきたいのですが……」



温度差のある言い合いに、そろそろ終止符を。


テオ、と呼ばれたその人は、会話に割って入った私を一瞥して、目を瞠る。





「その髪色! ……それに、その、瞳の色…。魔術で漆黒に見せているよね? 瞳の色を変えるその技量……。それに、漆黒の奥にある、色は…。もしかして、バイアーノ公爵様の血縁者?」

「あ、はい。お初にお目にかかります。私、フリア・バイアーノと申します」

「な、なんて、奇跡……」




テオと呼ばれたその人をはじめとした、その他魔術師のローブを身に纏った人たちは、なぜか尊敬のまなざしでこちらを凝視する。


視線の熱が熱すぎて炎の魔術で攻撃されているのではないかと錯覚しそうになる。



お願いだから、そんなに穴が空くほど見つめてこないでほしい。





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