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49みんなが居た、という思い出を。

「おっはよーございまーす!」


バン、と勢いよく寝室の扉が開かれる。

昨日と同じく象牙色の髪を揺らしながら、王太子殿下直轄のメイド・オルガ・グレンジャーが現れた。


「お、おはよう、ございます」

「フリア様、お着替えのーお手伝いにー参りましたよ!」

「えっ、えっ!? あ、いや、あの……!?」

「さーさーどーぞっ!」

「ちょ、ま、なっ……」


さも当然とばかりにクローゼットを開け放ち、その中に詰め込まれているモノ達の中から数枚選んで近付いてくる。

制止の声をかけようとするも、咄嗟のことで詰まってしまう。

そうこうしている間に有無を言わさぬ素早さで、あっという間に着せ替え人形かのごとく衣装替えをされてしまった。


「あのー……、着替えくらい、一人でできますので……」


――むしろ、させてください。


「いーえ! わたしはー、フリア様のーお世話を命じられていますのでー! 引きませんよー?」

「……は、ぁ……」


――これは、早急に王太子殿下に面会を申し出ねば。

私の心の平穏のために。



「ではー朝食を用意していますのでー――――」

「フリアさまっ、こちらにいらっしゃいましたのね!」

「――アメーリエ様――!?」


オルガに手を引かれ寝室を出ようとしていると、再度寝室の扉がけたたましく開かれ現れたのはアメーリエ嬢。


――寝室の扉壊れたりしないかしら……

壊れないまでも、建て付けが悪くなっている可能性は否めない。


「フリアさま、わたくしやっと見つけましたのよ! フリアさまにわたくしの言を証明する物を!」

「えーとー、フリア様は病み上がりですのでー、またの機会にしていただけませんかー? アメーリエ様」


「えっ!? どうして!? どうしてオルガがここに居るのよ!? 貴女、ユリエル様お付きのメイドじゃないの!?」

「はいー。ユリエル様直轄のメイド・オルガ・グレンジャーですよー!」





――あぁ誰か、止めてくれ。

私はあの二人の中に入っていく勇気は無い。

絶対に、話が通じない自信がある。






「どうしてユリエル様のメイドが、フリアさまのお屋敷に居るのよ!?」

「ユリエル様にー、命じられたからですよー!」

「ちょ、フリアさまっ!? いったいどういう事ですの!? まさか、わたくしを差し置いて抜け駆けですの!?」






――どうしよう、話に付いていけない。

言葉を全く交わしていないのに勝手に矛先を向けられるし、そのうえ言いがかりまで。


――もう、ほんと、誰か助けて。








「――――、何を、している……?」

「あ、グレン! いいところに――――」


「あーーーっ!! ゆ……、グレン様ぁぁぁっ! 淑女の寝室に押し入るとはぁぁぁ、何事ですかぁぁぁぁっ!!!?」

「きゃぁぁぁあああ、痴漢! 暴漢! 変態! ……破廉恥ですわぁぁぁぁぁあああっ!!」

「はっ!? ……お、俺はっ――」


「「ひとまず排除ですわっ!!」」

「――って、話を聞けぇぇぇえええ!」





「――――、あ、は、は……」


――救世主が、退治された。



いや、むしろあの二人を取り除いてくれたと言う点においては、やはり救世主、か。



あちらの部屋でなにやら激しい音が聞こえてくるが、いくらグレンでも女性に手を上げたりはしないだろう。

逆に令嬢に手を上げられたところで、令嬢は基本的には非力であるのでそこまでダメージは受けないと思いたい。


……アメーリエ嬢は、非力であると、思う。

――オルガ・グレンジャーは……どうか知らないが。





「フリアっ、この二人をっ、なんとか、しろぉぉおおおっ!!」


「――だって、ほら……私、“一人でここから動けない魔術”が掛かっているらしいので」


――にっこり。

聞こえてきた叫び声に対して、聞こえるか知らないがとりあえず返事をする。




――残念ね……。

魔術さえ掛けられていなければ、助けにいくかもしれないのに。


――あぁ、今日もいい天気ねぇ。


視線を外へと向けると、朝日がとても心地いい。



ずいぶんと早い時間ではあるのに、あの人達は元気ねぇ。

響く喧噪、けたたましい物音。

外はこんなにも静かで爽やか、平和だというのに己の屋敷には暴風雨が吹き荒れているようだ。

――現実逃避。

取り残された私にできるのは、これくらいしかないわよね?








「――フリア? 何故、仲裁に来ない……?」

「――ほらぁ私ってば、“ここから一人では動けない魔術”掛けられちゃってるじゃない?」


突然背後に現れ、伸びてきた腕に動揺を隠しつつ答える。


――転移魔術は“座標を指定できる場所”にしか、動くことが出来ない。


座標を指定すると言うことは、その場所に行ったことがある。

または、その場所に立った事がある。と言うこと。



私は今、寝室のベッドに腰掛けている。

その、背後を取れるというのはいったい、どういう事なのだろう……



「―――ふぅん? ……俺が“フリアがほんとうに困る事”を、する男だと……?」

「――“実力行使もやむを得ない”という思考を持っている人だとは、思っているわよ?」


――この口振りから察するに、“一人で行動禁止の術”は半分以上は脅しだったらしい。



「――とりあえず屋敷に入ってくるところから、やり直してくれない?」

「――、」


肩と背中に掛かる重みがフッと消えた事に安堵しつつ、いつもの部屋へと向かう。






部屋は思ったよりは、乱れていなかった。



―――想像していたよりは、ね。


対象者が忽然と姿を消したために、狼狽える二人をとりあえず席に着かせ呼吸を整える。


――乱れた室内もそっと整える。




三拍分ゆっくりと空けた後、扉を叩く音がする。


「いらっしゃい、グレン」


――どうぞ入って。と、来訪者を部屋へと通す。


唖然としているアメーリエ嬢とは対照的に、オルガは心なしか呆れているようにも見える。



「――それで、アメーリエ様。お話と言うのは?」


全員が部屋に揃うと、オルガは用意していたであろう朝食を三人分並べた後、“用事があるのでー帰りますー!”と言い残して去って行った。


――まぁ、本業は殿下のメイドだし忙しいのでしょうね。



「先日、フリアさまの記憶とわたくしの記憶が異なりましたでしょう? それでわたくし、実家に問い合わせて、当時の絵を送ってもらいましたの」

「――あぁ、ありましたね、そんなことも」


――すっかり忘れていた。


正直、お互いの記憶にズレが生じていたところでそこまで深刻に考えてはいなかった、と言うのが本心。



「これですわ。これを見てもまだ、わたくしの記憶に間違いがあると言えますの?」



テーブルの上に広げられたのは大きめの絵が二つ。

背景から察するに、どちらもバイアーノの屋敷で描かれたものらしい。

見慣れた壁紙が背景を飾っている。




出した絵を指差し、アメーリエ嬢が話し出す。



「これはわたくしたちが生れる前の絵ですわ。御父様に伺ったところ、ファム様のお兄様とガロン様の母君がご結婚なさった時の記念に描かれたものだそうよ。――それで、こちらがその数年後。わたくしたちが生れた記念に描かれた物ですわ」


一枚目。

私達が生れる前に描かれたという絵には、真紅の髪に金の瞳をもつ母と茶髪に同色の瞳を持つ父。

アメーリエ嬢の父母、そして、朱の混じった茶色の髪に薄らと金色を宿した瞳を持つアレクさんと、ブロンドの髪に淡い金色を宿した瞳のネルさん。

そして、中央に描かれている二人。

真紅の髪に緋色の瞳を持つ線の細い男性と、朱の混じった茶色の髪に栗色の瞳で微笑む女性。



「――――ぁ……、」


――鼓動が、跳ねる。


視線をずらし、もう一枚の絵を確認する。



そこには、母と父。

アメーリエ嬢の父母。

アレクさんとネルさん。

中央には、それぞれの母の腕の中で眠る真紅の髪と茶色の髪の嬰児。


そして、母の隣に立つ女性と、その女性の腕に抱かれる幼児。

幼児は、朱の混じった茶色の髪に栗色の瞳。


二人とも示し合わせたように、同じ色。




「――ぁ、……ぁ、ぁ……」


ガタリ、立ち上がった拍子に椅子が音を立てる。


そのまま後退り、壁に背が付くと力なくずり落ちる。



「フリアさま、ほんとうに忘れてらしたのね? そんなに驚いてくださるなんて! これで、わたくしの記憶が正しかったと証明できましたわ!」


嬉しそうに、絵を仕舞うアメーリエ嬢。


「それでは、わたくしはお暇致します。――では、ご機嫌よう!」


用事は済んだとばかりに、さっさと退出の用意を始める。


そして、扉が閉まる間際とびきりの笑顔で告げる。


「――それでも不思議ですわ。フリアさまがアリシア様と、ガロン様を忘れていたなんて」




――ぱたん、扉がほんの少しの音をたてて、閉ざされる。








しばしの、静寂。





「――……フ、リア……?」


壁に背を預け、力なく床に座り込む彼女に声を掛ける。

その、呆然と見開かれたその瞳に映るものはなにもない。



ただ、その両の瞳から音も無く流れる雫が、頬を濡らす。


ぽたり、ぽたりと襟元を濡らすその雫を、落ちる前に指で掬いとる。




この距離まで近付いても、何の抵抗も反応も無い。




恐る恐る、腕を伸ばす。

彼女の指通りよい、真紅の髪に触れる。

そしてそのまま、彼女の額を己の肩口へと抱き寄せる。



「――フリア、……どう、した……?」


己に為されるがまま、力なく微動だにしない彼女に声をかける。


「――……、思い、だした、わ……」


抑揚の無い声で、彼女は呟く。


「――俺が聞いても、いい話?」


言葉は返ってこない。

ただ、一度頷きを返された。



――否定されない事がこんなにも、安心するなんて。





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