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13初めての邂逅。



「ユリエル様、市に行きましょう」

「――――、は?」


ゆっくりと三拍。

その時をもってしても、返す言葉が見つからない。




妃候補が揃ってから約ひと月が経つ。



謁見後、引っ切りなしに寄せられる手紙や贈り物などを適当に捌きながら、そろそろ落ち着いてくれないものかと頭を悩ませているところに、先の言葉。




「外出ですよ。が・い・しゅ・つ。ユリエル様、最近は部屋に籠もりきりでしょう。たまには外に出て気分転換いたしましょう」

「俺は、そんなに暇ではない」


執務室の扉を開け放つなり、突拍子も無い事を言い出したテオに、冷ややかな視線を向ける。



「陛下からの許可は得ております。さぁ、こちらの服に着替えましょう」

冷たい視線など気にもとめず、テオは持っていた鞄から服を広げ、こちらに歩いてくる。



今年26になる魔術師団副団長、テオ・フォーセル。


彼と、もう一人の若き秀才とは、彼等が幼き頃より面識があり、己もそこそこ面倒を見ていた自覚があるので、慕われていると自負している。



しかし、成人を迎え、立場が明確になった今も、公の場で無ければ昔となんら変わりの無い関係が続いている。


「……、はぁ。おまえは、言い出したら聞かない奴だったよな。昔から」

「えぇ。こんなわたしを変わらず側に置いてくださること、感謝しておりますよ。ユリエル様」



テキパキと支度を済ませながら、渡される衣装を身に纏う。


どこからどう見ても、王宮の一般魔術師にしか見えない。

市に行くと言っていたのだから、もっと街に溶け込むものを渡されるものだと思っていた。




「あぁ、それと。その姿は目立つので、変えてくださいね」

「あぁ、わかっている」




雪のように白い髪と、輝く黄金の瞳。


その姿を持つ者は、今この国には二人だけ。


現国王と、その子息、王太子のみだ。


どんなに装いを変えたところで、その特徴的な外見を見れば、それが何を意味するか幼子でも理解する。


言われ無くともわかっている、と、テオを一睨みしてから瞬き一つで姿を変える。



漆黒の髪に淡い金色の瞳。


母から譲り受けた人の姿。


現人神が人の姿を持つことを知る者はこの国で極少数。


人の姿で“ユリエルだ”と名乗ったところで“不敬罪”でお縄になるのがオチである。




「で、何が目的で市に?」

「最後の花嫁候補。王宮内でなければ、会っても問題は無いでしょう?」

「……は?」


――妃候補が外出、だと?


妃候補は基本的に一年間、王宮の敷地から出ることはできないはず。



まぁ、自身が候補探しに乗り気ではないため、“基本的に”好きにしてもらって構わないとは通達しているが。







「では。外に出たら、いつものようにお願いしますよ?」

「ふ、わかっているさ、テオ様?」

「――じゃぁ、行こうか。グレン」










そうして連れてこられた市は、人が溢れ、所狭しとものが並べられている。


国が栄えると共に、人の往来は増え、それに伴い物品も行き来する。


月に一度、隣国・オズボーンとの橋が架かる今日は、売る方も買う方も気合いが入っているように見える。


かつては年に一度だった“橋架”も、王と王太子が共に力を合わせることができるようになった昨今では、月に一度となり、人々の往来や交流が頻繁になされるようになった。






「ちょっと、ジェラルドのところに行ってきますよ」


そう言い残して、植物を販売している露店へ向かうテオを眺めながら、椅子に座り溜息を一つ。




――別に、妃候補に会いたいなど、思ってもいなかったのに。




態々、場を設けようとしてくれたのであろう二人には、申し訳ないとは思うのだが。


暫く店先で話していた二人だが、お目当ての人物が買い物を終えたのか、店の奥へと目を向ける。





そして、何か話したあと、三人揃ってこちらへやって来る。




――真紅の髪に漆黒の瞳。


テーブルを挟んで座る女は、テオ達と話しながらもこちらを気に掛けているのか、チラチラと視線を寄越してくる。




――魔力持ちでは、無いのか。




向けられる瞳を躱しながら、そんなことを考える。





真紅の髪を受け継いでいるから、先代の後を継いだのだろう。


魔力を持っていないのならば、魔獣とは渡りあえまい。


お飾りの当主となってバイアーノ公爵家を次代へと繋ぐ役目なのだろう。






「グレンだ」


もう、いい加減、申し訳なさそうに向けられる視線にうんざりして、手短に自己紹介を済ます。


テオから勝手に人見知りという設定を押しつけられたがどうでもいい。





三人で進む会話。



その内容を聞くともなしに聞いていた。


ふと、疑問に思い、口を開く。





「で。フリアは?」

「え?」


突然、話に割り込んだからか、一瞬呆けたような表情をしたが、それを瞬き一つの間に取り繕う。



矢継ぎ早にいくつか質問を投げかけたが、訝しがることもなくスラスラと答えが返ってくる。


「ふーん、そう……」




最後に、そう言って顔を背けたが、特に気分を害した風でもないようだ。


――テオとジェラルドは焦っていたが。





その後、再び三人の会話に花が咲く。


それを再度聞き流しながら、先程のことを思い返して口元が緩む。




魔剣を創造できるのに、扱えぬ。

しかし、魔獣を屠ることはできる、と。


そして、“どこであっても使用できる魔術”。


瞳の色は気になるが、おそらくそれも魔術で変えているのだろう。




その証拠に、ジェラルドの瞳が、常のサファイアブルーから漆黒へと変わっている。


――面白い。





そして、再び彼女を視界に捉えようと視線を向けたとき、既にそこに目的の人物は居なかった。



代わりに、不自然に大気が震える。

そして、一拍後。


凄まじい瘴気の風が吹く。


「きゃぁぁぁぁっつ!!」

「ま、魔獣だ!」

「ど、どうしてっ!?」

「お、おい!大丈夫か!?しっかりしろ!」




立ちこめる瘴気。


恐怖に逃げ惑う人々。


瘴気によって薙ぎ倒された露店の木材によって、怪我をした者も少なからず居るようだ。






「テオ、ジェラルド!」

「いけません、ユリエル様。今、この場で御身を現すのは」

「だが!」


人間の姿では、思うように神力が扱えない。

しかし、従者二人は揃って動くべきでは無いと制止する。




「ご心配には及びませんよ。王都の兵も魔獣討伐の心得はあります。それに」

「王都にだってバイアーノ公爵家はありますしねぇ。……しかも」

「「今、この場には、フリア様がいらっしゃいますから」」




――魔獣討伐を生業とする一族。

その、当主。



真紅の髪を持ち、黄金の瞳をもって、その他の追従を許さない、魔獣にとって“最凶”の存在。








「ジェラルド様、もしもの事があってはいけないので、術を解きますね。」

「あぁ、頼む。」


気付かぬうちに側に来ていた人物に視線を向けると、緋色の瞳に囚われる。


「……、大丈夫ですよ、グレン様。テオ様とジェラルド様がいらっしゃいます」


もし、治癒の魔術を使用できるのであれば、負傷者をお願いします。




そう言って彼女は背を向ける。





ふわり、風を纏い地上を離れる彼女に向けて一陣の風が吹く。








「--揃ったようね」

「はい。屋敷の者は全員」


彼女と同じように風を纏う複数人の集団。

彼等が王都の屋敷に住まうバイアーノ領の民なのだろう。




「では、始めましょう」


フリアが手を翳すと、集まった者達の手に“魔剣”が現れる。

それを駆使し、彼等は魔獣と空中戦を開始する。









「すごい。あれだけの魔剣を一人で生成するなんて……!」


空駆ける彼等の数はおおよそ二十名。

それぞれの手に、様々な形の魔剣が握られている。


おそらく、一人一人に合った形状なのだろう。





テオが感嘆の声を漏らす。

ジェラルドも興奮気味に戦いを眺めている。


「……テオ、俺たちは俺たちの役目を果たすぞ」

「えぇ、そうですね」


先程の騒ぎで、怪我を負った人々に治癒の魔術を施す。

騒ぎに反して、負傷者が少ないのは不幸中の幸いといったところだろう。


「あとは民の避難か……」


久しぶりの外出が、思わぬ重労働になってしまったと溜息を吐きながらも、むしろここに居てよかったのかもしれないと思い直すこととする。


――民が苦しむ姿は、見たくは無いから、な。


――人間に、手を差し伸べるのは、”月神の教え”だ。



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