磯釣り
朝一番、釣りスキルで出した船で沖合いの磯に向かう。スキルを持たない人にはこれでもチート、ずるいと言われる。これだけで魚が釣れる訳では無いが、このスキルが魚が釣れやすい場所に私を運んでくれるのも間違い無い。沖の釣りなんてポイントを選び放題だ。魔力で動くので魔力が切れると遭難するが。
磯についた私は早速小さい布の椅子を召喚して腰掛け、のべ竿と仕掛けを取りだし、撒き餌を召喚、投げる。
磯の香りと風の強さが心地良い。ライフジャケットが有っても若干怖いが、今は釣れてくる魚に思いが向いて心が踊っているので、むしろ酒の肴のネタになるとさえ思っている。
釣りガールは良い酒が飲める最高の仕事だ。
さて、磯釣りで一番厄介なのは餌取りである。
河豚やカワハギの子供が餌を率先してつついてくるのだ。彼らは口が極めて小さいので針に掛からないのが厄介なところで。餌だけを食い逃げされる。
磯の寄せ餌釣りのセオリーはいくつか有るが、この餌取りへの対処は大切な要素である。
ぶっちゃけ無視だ。いないところを釣る。
磯釣りで大切な要素は「棚を選ぶ」事だろう。棚とは水深の深さのことで、棚が違うとそこにいる魚が違うのだ。魚たちはまるで法律が存在するようにそれぞれの棚を選ぶ。季節や気温、海流などの条件で変わる棚、釣れる棚を狙うのが釣りのゲーム性の一つだな。
池や湖の釣りではオイカワやワカサギ等を釣る時には棚を気にしないといけない。浮き釣りでは必ず考えないと駄目な要素だ。
浅い棚ではサヨリなんかも釣れてくるし、巡回してきた青物(鯖や鯵)が釣れてきたりするのがアミ海老を投げ込むこの釣り方、撒き餌釣りである。臭いは気にしてはいけない。
むしろこの海老の腐った臭いで魚が寄ってくるんだしな。
潮目は満ち始めで最高、撒き餌を撒いたところに餌を放り込む。棚は深いところから探って行く。魚が回ってくるのを待つ間に浮き仕掛けで浅い棚を狙ってサヨリを釣っても良い。
磯釣りと言うのは釣れる魚が多いので逆に手段を選ばなくてはならなかったり、……面白いのである。
そもそも釣り人はルアーフィッシングか餌釣りで大別される事もある。それくらい餌で釣れる傾向が違うのだ。
例えばボートでクロカジキを釣るのに餌釣りは適さないだろう。餌が波で針から剥がれてしまうからだ。もちろん泳がせ釣りと言って生きた魚を餌にして、泳がせて誘う釣り方もあるが。
もちろん餌釣りはルアー釣りより香りなどの要素で釣れやすい。
対象の魚種や釣り場の状態で餌かルアーか、餌ならどの餌かルアーならどのルアーか、それを使うのに最高の装備はどれか、と脳味噌を捏ねる。これが釣りなのである。
餌取りの小魚の渦が起こる。まあ撒き餌をすれば必ず起こる現象だ。その下の棚に黒い大きな魚の影が渦巻いている。グレかチヌか。まあ魔物魚かも知れん。
餌取りと言えど小魚はこいつらに食われる可能性がある。刺の有るカワハギの稚魚も毒の有る河豚の稚魚も、魔物魚にとれば、餌だ。撒き餌になってくれるんなら有り難いことだ。ふふふ。
と、一際デカイ黒い鯛の魔物魚が私の針に食らい付いた。ここからが私の戦いだ。
魔物魚の強烈な引きに思わず竿を取り落としそうになったが、即竿を起こし、竿のしなりで魚の力を奪い、泳ぐ方向を変える。慎重になるべきかも知れないが、体力をあまり奪わない方が美味いからな。
竿を起こし、一息に釣り上げる。重い!
身体強化魔法が有るものの、流石に五キロはありそうな魔物チヌだ。体重が変わるスキルではないのでバランスを崩すと水の中。何度か振り回されながらも魚を捕獲用の網、タモアミで捕まえる。
氷一杯のクーラーに放り込んで熟成だ。夜には美味い酒が飲めそうである。
魚の可食部位は平均で五十パーセントほどである。二キロも食えないので釣果としては上々であろう。
さて、アテは確保したので鯵を狙おう。大物の鯵はご馳走である。
少し深いポイントで外海からの海流が入ってくるポイントを目指す。良い地形だな、この土地は。どんな魚でも釣れてきそうだ。
鯵もやはり撒き餌で釣るのが良いが、ここはルアー釣りを楽しみたい。大きめのジグ、鉄板のようなルアーを投げ込む。
メタルジグは重いルアーであり、遠投が利くのがポイントだ。当然竿はスピニングロッドである。私は基本、食うために釣るので、わざわざベイトリールを使ってテクニックを上げようとかは思わない。
ベイトの説明は面倒臭いな。まあ、横巻きがスピニング、立て巻きがベイトや両軸リールなどである。細かい説明は徐々にしていけば良いだろう。
さて、ジグを早巻きで引いていると、たまに追いかけてくる魚が見える。スピードをロッドワークで落としてみて、更に早巻きで逃げる魚を演出してやると、一際大きい魔物魚が食らい付いた!
ヤバい! めちゃくちゃ引きが強い!
鯵などの青物は一直線に引いてくるので突貫力が有ると言うか、かなり引きの強い魚である。鯛のような持久戦ではなく、勝負は一瞬で決まる。針が外れないことを祈るしかない。
ぐるうり、と旋回したそれの頭をタモで捕らえる。タモアミを使わないと大型の魚は釣り上げるのが非常に難しい。鉤を使って引き上げても良いくらいだ。
タモアミは大きな輪が棹先に付いた網で、鉤は棹先に丸い鉤が付いているのでそれでエラなどを引っ掛けて持ち上げる。今回はタモさんで行く。タモさんタモさん。
よしよし、これも十キロは行かないが、大きな魔物魚、恐らくシマアジだ。今日の仕事はまだ朝のうちだが終了で良かろう。しばらく遊べそうだ。
釣りに行かれる方は暑いのでお気を付けて。台風の高波も危険です。一部の魚は荒れてる方が釣れますけどね。