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「うおおおおおおおおおおおお!!すごい!!すごい!!すごい!!」


僕は放心状態から抜け出し自分の置かれた状況を再認識し僕の心は強烈な感動と興奮に襲われていた。

その感情はフェリーの甲板での興奮を遥かに超えるものだ。

僕は夢中になって一眼レフのカメラを使って何枚も何枚も写真を撮影した。


「ちょ、ちょっと先輩!落ち着いてくださいってば!」


興奮しすっかり沸騰しきった僕のアロハシャツを引っ張ってシーナが恥ずかしそうに僕止めようとする。

そんな僕達の光景を僕たちの目の前を行きかう街の獣人たちは変なものを見るような目や冷たい目で僕達を見つめた。


「もう!恥ずかしいですから割と真面目に止めてくださいよぉ!」


シーナが恥ずかしがりながら必死に言う。

必死に訴えるシーナの声で僕はようやく我に返った。


「あっ……」


僕は冷静になり周囲を見る。


「す、すいません……」


僕は周りの獣人たちの冷たい目線にこれはまずいお思い苦笑いを浮かべ頭を下げつい日本語で言ってしまった。


「日本語じゃ誰も分かりませんよぉ……」


シーナが疲れたように言う。

そしてシーナが右手の人差し指を一本立てて怒った様子で僕の方を向いてきた。

その表情を見て僕はこれからどうなるのか察する。


「もう!先輩!割と本気で迷惑ですから止めてください!写真を撮るのは良いですけど興奮しすぎです!もっと場所と節度をもって行動してください!」


「す、すいません……仰ると通りです……」


僕はシーナに頭を下げた。


「分かれば良いんですよ。分かれば……はぁ……なんだか今度は私がドッと疲れた気がしますよぉ……」


シーナは疲れた表情を見せる。


「あ、あのー、シーナさん」


「何ですか?」


「この後はどーするんでしょうか?」


僕は片手を小さく上げてシーナに聞く。

冷静に考えればこの後の日程などは僕には、まったく聞かされていないのだ。

そのあたりが少し冷静になった事で疑問に思った。


「あっそうでしたね。時間も無い事ですし行きましょうか」


シーナが思い出したように言う。


「え?どこに?」


「そりゃ、こんな時間ですし先輩も荷物とか置きたいでしょ?ホテルですよ。ホテル」


「ああ、確かに時間的に考えたらそうだな……」


僕は周囲を見渡す。

今はもう太陽が完全に沈みきっている。

街にもあちこち灯りが灯り道の各所に設置されている街灯にも火が灯されていた。

電気の光ではない薄い光が周囲を照らす。


「それじゃあ、行きましょうか」


「お、おう」


僕とシーナはそう言うと港沿いに道を歩き始めた。


新生アルメルクン共和国の首都アーリア。

アーリアは新生アルメルクン共和国最大の島であり州であり首都が存在する。この都市はグーグルアースで上空から見ると弧状に広がる港に沿うように建設されており三日月のような形をした都市だ。

三日月状に広がる都市圏の外部には緑が広がっている。

これはここに来る前に日本で情報を収集しているときにネットで入念に調べておいた情報だ。


僕はシーナの後を追いながら時折、写真を撮影し今は港に停泊している沢山の帆船を撮影していた。

フェリーの上でも思った事だが、これだけの数の帆船が停泊しているところなど世界広しといってもこの国だけであろう。

だが、なんとなくだが街の雰囲気は昔、イタリアのヴェネツィアに行った時に歩いた海沿いの道の雰囲気に良く似ていた気がした。

せっかく異世界の港を歩いているのに何故かあの時歩いたヴェネツィアの住宅街が懐かしく思えた。


「七海先輩、写真を撮るのは良いですけど撮るのに夢中になって逸れないでくださいよ?」


シーナが心配そうに声をかける。


「分かってるって」


僕はそう返事をした。

分かってるのは本当だ。

僕は写真を撮ってはいるが撮るたびにシーナと逸れないように気をつけていた。

正直言って僕を見る獣人たちの目線は冷たい。

まるで珍しい物でも見るかのようだったり嫌悪感のある目線で見ているものもいる。

こんなところでシーナとはぐれたらどうなるか正直分からなかった。


「それにしてもさ……」


「なんです?」


「夜なのにすごい賑わいだな。出店も多いし活気がある」


「ああ、ここは貿易の拠点であると同時に天下の新生アルメルクン共和国の首都ですからねぇ。賑わいがあって当然ですよ。日本で例えたら何処になるんでしょうかね?渋谷?秋葉原?うーん、どこだろ」


「魚とか果物とか料理?売ってる店が多いみたいだし豊洲市場とか?」


「あぁ~なるほど、それかもしれませんね」


「でも、なんていうかさ……」


僕は商店の様子や建物の明かり、街灯の明かりを見た。


「電気の明りとかが全然、無いんだな。街灯もガス灯だし。露天商の灯りもランプとかだ」


「さっすが七海先輩。夜景だけで気がつくとは……お察しの通り新生アルメルクンでは民間用の電気は普及してませんからね」


「そうなんだ……あってことはシーナがソーラーの充電器持って来いって言ったのは……」


「そういうことです。ソーラー無しじゃ電気は使えないんで」


「なるほどな」


僕は納得し深く頷いた。


「本当、その面でいうと不便なんですよねぇ~……って、あ、着きました」


「へ?」


シーナは喋っている途中で立ち止まった。

僕もそれで立ち止まる。

そして、シーナが見ている方向を見た。


「これが?」


「はい。ここが七海先輩がこれから宿泊するホテル・デーニッツです」


「す、すっげー名前だなおい……」


デーニッツというホテルの名前を聞いてボクはニヤっと笑う。


「それじゃあ、行きますか」


「だな」


そう言い合うと僕とシーナはこれから三週間、僕がお世話になるホテル・デーニッツへと入っていった。











ホテル・デーニッツは外見は黄色の蛍光色の建物だ。

建物は5階建て1階にはフロントとレストランがありそれより上の階が客室らしかった。

内装は発展途上国という先入観から最悪の状況を想像していたが想像以上にしっかりとしており現代のホテルとまでは言わないが雰囲気的には少し高級なイタリアンのレストランの内装の様な感じだ。

僕とシーナはフロントでチェックインを済ませると部屋のキーを受け取った。

ちなみにフロントでは両替ができるらしくこの時、僕は日本円17万円をフロントで新生アルメルクン共和国の通貨であるアルメルクンマルクに両替してもらった。

僕の部屋の番号は208号室。

つまり2階の部屋だ。


僕とシーナは階段を上り2階の208号室を探して部屋の扉を開ける。


「どうぞ、七海先輩」


シーナが208号室の扉を開ける。


「うん。ありがとう」


僕は部屋の中に入っていった。

2メートルか3メートル程の短い廊下を抜ける。


「おお……僕の住んでる部屋より綺麗かも」


僕は部屋に入った瞬間に部屋を見渡しそんな事を呟いた。

部屋は極普通の洋風の部屋だった。

窓際にダブルベットが置いてあり、そのベットの横には腰ぐらいの高さの棚がおいてありそこに置時計と一般的なホテルに置いてあるような電気スタンドが置かれ反対側の壁には丸い鏡がかけてある。

床にはカラフルな絨毯だ。


ただ、唯一違うのはコンセントの類がどこにも見えなかった。


「七海先輩、こっちへ」


「ん?」


部屋の中央に立っていた僕に後ろからシーナが呼びかける。

僕はシーナの方に近寄った。


「ここがタンスです。服とか掛けたかったらかけてください。えっと、後はトイレとお風呂ですね」


シーナが部屋の入り口から見て右側の扉を開ける。


「お風呂です。お風呂はシャワーだけで浴槽は無いですけどね。トイレはこの部屋を出て左側の突き当たりにあります」


「りょーかい。あっ、あと、聞きたいんだけどさ、電気スタンドの明かりがついてたけどここは電気が来てるのか?」


「ええ、一応は来てますけどコンセントはありませんよ?ちなみに電気スタンドの灯りが使えるのは夜の6時から12時までなんで気をつけてください」


「分かった」


「それじゃあ、そろそろ夕食にしましょうか。レストラン関係もその時に説明しますね。私は外で待ってますんで荷物を置いたら来てください」


「OK」


僕はシーナにそう頷くと荷物を置きに部屋まで戻った。

一方のシーナは部屋から出て扉を閉める。


「ふぅ……」


自分ひとりとなった部屋の中で僕はため息をつく。

僕はドサッという音と共にリュックサックをベットの上に下ろした。

ようやく重いリュックサックから解放されたのだ。

そして、リュックサックから一応、貴重品のパスポートと財布を取り出しポケットに入れる。

海外においてパスポートは命の次に重要な貴重品だ。

可能な限り無くさない範囲で持ち歩く。

それが重要だ。


僕は準備が出来るとすぐにシーナの待つ廊下へと向かった。


「準備できましたね」


「ああ」


「じゃあ、行きましょうか」











「僕以外にも人の客がいたんだな」


1階のフロントのフロアの奥にあるレストランで僕とシーナは互いに向き合うように席についていた。

僕は席に着きながら周囲を軽く見る。

僕とシーナの周りには座席数に比べて数は少ないものの数名の客が居るようだった。

数えてみると黒人が3人、白人が6人、アジア風のスーツを着た初老の男が1人という感じだ。

だが、この客の中に自分と同じ位の年齢の外見の者は見受けられなかった。


「ここは外国人専用のホテルですからねぇ」


「なるほど」


「でも……」


シーナは体を前のめりにして小声で言った。


「この中でも単なる旅行目的で入国したのは多分、先輩が最初だと思いますよ」


シーナはニヤっと笑って言う。


「マジか……じゃあ、他の人は?」


「たぶん研究者でしょうね」


「すごいな……」


改めて自分が普通はあり得ない事をしているんだなという事を認識する。

まさにシーナ様々だと思った。

シーナに感謝だ。


すると、ウエイトレスが木のコップに入った水を2つ持ってきた。

ウエイトレスがコップをテーブルに置く。


「―――――――。――――――――――――」


ウエイトレスはポルトガル語で何かを言った。

そしてメニューと思われる物をテーブルに置く。


「な、何て?」


「いらっしゃいませ、こちらがメニューですって言ってます」


「そっか」


シーナは得意げな顔で僕をした。

アルメルクン語ならいざ知らずポルトガル語で言われると正直、僕は何を言っているのかさっぱりだ。

シーナが居なければかなりきつい。


ウエイトレスはそのまま下がっていった。


「何食べたいですか?基本はアルメルクン料理ですけど一応、イタリアンからポルトガル料理も置いてありますよ?」


「そうだな……とりあえず、そんなに高くない物が良いな……」


「まぁ、3週間もありますからね」


シーナも僕のお財布事情は何となくは分かっている。


「ちなみにアルメルクン料理ってどんなのがあるんだ?」


「そうですねぇ……」


シーナはメニューを開いて考える。


「焼き魚系とか貝系……あとは鶏肉ですかね。どうします?味付けは何らかんら言ってヨーロッパ系と変わらないですよ?」


「うーん、何となく鶏肉かな……僕は良くわかんないからシーナのお勧めで良いよ」


「それじゃあ……これでどうです?」


シーナはメニューを僕に向けた。

メニューには写真つきでポルトガル語で料理名が書いてある。

シーナはその内の一つを指差した。


「簡単に言っちゃえば鶏肉のスープです。けっこう野菜とかお芋もちゃんと入ってますしセットでパンもついてますから結構お得だと思いますよ。お値段はドドドンなんと13アルメルクンマルクです」


「13アルメルクンマルクって事は……約650円くらいか」


「そうですね」


「じゃあ、それにしようかな……シーナはどうするんだ?」


「私はポルトガル料理のバカリャウ・ア・ミニョータにします。先輩、飲み物は何にします?」


「カクテル系はあるか?」


「カシスオレンジで良いですか?」


「じゃあそれで」


「先輩、炭酸飲めないですもんねぇ~」


「お前も飲めないだろうが」


炭酸が飲めない事に対してニヤニヤ笑うシーナに僕はお前もだろと突っ込みを入れる。


「ギクッ!もう、先輩ったら、乙女の私には炭酸は刺激が強すぎるんですよ……じゃあ、私もカシスオレンジ……と言いたいですけど一応職務中なんでグァバジュースにしときます。デザートとかはもう良いですか?」


「ああ、今回はこれで良い。今回は長旅で疲れてるからな……食いすぎたら明日、トイレの住人になりそうだ」


「さっき乙女って言ったばっかりですよねぇ……じゃあ、注文しますね」


シーナはそう言うとウエイトレスに向かって小さく手を上げ呼ぶと相変わらず流暢なポルトガル語で料理を注文した。

その後、料理を食べ終えるまでの間、明日の予定についてシーナが持っていたコンパクトなサイズの地図を使って行き先について話したのだった。











「それじゃあ、七海先輩お休みです。明日は午前8時半に迎えに来ますんでその間は勝手に2階から出歩かないようにしてくださいね」


「うん。分かった。それじゃあ、また明日な」


食事を終え208号室の前に戻ってきた僕とシーナはそう挨拶を最後にするとそこで今日は別れ僕は誰かに監視されているであろう208号室のベットの上に寝転がった。

長旅の疲れが既に全身に出ていたのだ。


「はぁ……はしゃぎ過ぎたかも……」


僕はそう呟くと風呂は明日の朝で良いと思い、リュックサックの中からタブレットを取り出すと目覚ましを朝の6時にセットして今日は眠りにつく事にしたのだった。


こうして僕の三週間だけ異世界旅行の一日目は終わった。

 

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