生きている『人間』、生きていない『ニンゲン』
「『突』ッ!!」
蒼が繰り出したその技は、いや、『奥義』は今私が使っている体術の物だ。
この体術は恩師の魔女が教えてくれた体術だ。さらにあの奥義は五段階ある奥義の中の二段目の奥義だ。恩師の魔女は三段目までは使えたようだが、私はその奥義を使えない。私は戦闘の才能がないという言い訳でごまかしてきたが、あれを見たらすべて吹き飛んでしまった。あの洗練された動きは恩師の魔女のそれをはるかに超えていた。
「おい!そっちにも来てるぞ!」
叫ぶ蒼のおかげで我に返る。そういえば今は戦闘中だった。
「分かってるわよ!『打』ッ!」
私が使える奥義の一つ。段位は一段目だ。
「『震爆』ッ!!」
蒼
が放ったそれを私は知らない。恐らく四段以上の技なんだろう。恩師の魔女でさえ使えなかった技をこうもやすやすと・・・
いや、この動きは違う。血の滲むような努力の末手に入れた技に見える。
垂直に打撃を加え振動でバランスを崩し、足で薙ぎ払い、浮いている敵にきっちりと打撃を食らわせる。
かなりの範囲を範囲攻撃しているがその技に一瞬の隙もない。
「これは努力の違いかしら・・・」
この戦闘が終わったら弟子にでもしてもらおう。
「終わった・・・。あー疲れたー!あと一年は動きたくないわー。」
私はくたくたになりながら地面に寝そべり、そんな弱音を吐く蒼に喝を入れる。
「何よだらしないわね!私ならこの十倍はいけるわ!!」
「成程立ってから話そうか。」
うん。ツッコミがいると会話は弾むようだ。
「それにしても、あんたの体術って何よ。私のと凄く似ているんだけど。」
すでに八割ほどわかっている質問をする。
「似てるっていうか、おんなじ奴だと思うよ。俺が作ったわけじゃないから断言できないけどな。・・・というかさっきの戦闘でこの体術の事はあらかた思い出したな。」
「それは良かったじゃない。この調子だと刺激を与えていけば記憶が戻っていくみたいだし・・・ッ!!いやだめだ。記憶が戻ったらまずい。」
頭によぎった不安要素が意識するどんどん大きくなる。
「何がまずいんだ!?」
いきなり取り乱した私を心配して声をかけてくる。
「本名が分かったら『蒼』が用済みになるッ・・・」
蹴られた。蹴り上げられた。お腹を蹴り上げられてしまった。
「早く本名知りたいな。誰か教えてくれないかな。」
すました顔でそんなことを言う蒼。というか絵面的には大人が子供を蹴っているように見える。
ちょっと過激なツッコミだったような気がしてきたが本人はあまり気にしていないようだ。
「それにしても、こんだけ『ニンゲン』が押し寄せてくるとちょっと不気味ね」
私が何気なく呟いた一言に蒼が過剰に反応した。
「『人間』?あれは人間なのか?」
「何言っているの?ニンゲンについて何か知っているって事?あの魔女に聞いてもニンゲンの名前の由来さえ教えてくれなかったんだけど。」
この男は本当に何者なんだろう。私が知りえないことがすぐに分かってしまう。ただ、こんなに蒼が取り乱すなんて何かあるんだろうということは分かった。
蒼は真っ青な顔でこう言った。
「俺たちも『人間』って言うんだぞ?」