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神統記(テオゴニア) 作者:るうるう

小楽園

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段落下げはやっているのですが、作業しているアプリからコピペするときに消えてしまうようです。
修正します。





 エダ村の墓所は、その地下道を潜った先に隠されている。
 モロク家が村を放棄する決定を下してから、大急ぎで造った墓所隠しである。そうたいしたものでもなくて、10ユルほど細い地下道を行くと、真四角の石でできた墓石が暗闇のなかに現れる。

 「…まあこいつは地下って言うより、半地下だよな」

 墓所の位置がわかってしまうと、その隠蔽工作があまりにも手抜きで驚いてしまうことだろう。拝所の跡地にはなぜか丸く土を盛った『小山』があり、その中に土地神の墓所がある。
 いちおう石造りの拝所の一部が倒壊したていで大きな瓦礫をかぶせてあるのだけれども、ごまかしとしてどのくらい機能しているのかははなはだ疑問ではあった。

 「特に変なのが入り込んだ跡はなさそうだな。…おまえらも荒らされたところを見つけたらすぐに報告してくれ」
 「何人か村のまわりを見回れ。選抜戦でギリだったやつらはそのまま見張りに立ってろ……ほかのは掃除の準備だ」

 用心のために班長のフリンが先に地下道に入っていき、安全を確認してから白姫様が手桶を持って潜り込んでいく。姫様のすぐ後を誰がいくか無言の攻防があったことは言うまでもない。

 「カイ、ついてきて」
 「………」

 空気を読める男として、最後尾での待機をしていたカイであったが、結局ぺこぺこと頭を下げながらの順番飛ばしとなってしまう。白姫様本人には特別扱いをしているつもりが微塵もないというこの状況は、 ただただ嫉みを買うだけで得るものが何もないときている。モゲロ、と言われたが何がモゲるんだ。
ぞろぞろと墓所へと入った掃除組は、白姫様の祈りが終るのを待って、それぞれに手にした荒布で墓石を磨き始める。
 白姫様はかなり真剣に墓掃除に取り組んでいる。とくに碑文のくぼみを念入りに清めているようで、もしかしたら加護の衰えの原因を、碑文の汚れに求めているのかもしれない。
むろんそのあたりのことなどまるで知らないカイは、ただ白姫様を手伝おうと碑文のある側に歩を進め……うじゃうじゃと集まっていたほかの男たちに脂ぎった視線に機敏に回れ右をする。
 墓石を磨きながら、カイは『エダの神』の碑文や紋様を興味深く観察している。墓石そのものの大きさは、谷のそれと変わらない。碑文はもちろんまったく違うのだけれども、神代文字と呼ばれるその難解な文字を読めるのは、都のほうにしかいない神学者か、僧院の高僧ぐらいなのでいまここでは調べようがなかった。

 (…だいぶ弱ってるな)

 拭き上げながら、カイはそう感じる。
 触れるその手のひらから伝わってくる感覚的なものがある。
 熱の波紋というか、存在のさざなみのようなものが石の奥から感じられるのだ。これはカイが『加護持ち』になったからこそ得られた感覚なのかもしれない。
 碑文に指を這わすと、その一文字の意味が漠然と思い浮かんだ。
 その小さな個々のイメージが、横に滑らせることで言葉としての意味を成した。

 (われエィダレン、隷属せり)

 ぱちん、と、頭の中で泡がはじけたような感覚がある。
 カイはほとんど意識することなく、まるで誘われるようにその上の一文にも指を這わした。

 (従うはラグダラトゥカの神なり)

 それは、契約のしるしだった。
 目を見開いたカイはしばらく身動きも出来ずに固まっていたが、碑文がまだ上に続いていることを見て取り、震える指先をそこへと持っていく。
 そして横へと滑らせていった。

 (ラグダラトゥカは、バアルリトリガ神群に列す…)

 エダの土地神はラグの土地神に従い、ラグの土地神はバアルなにがしという別の神に従属している……そのような内容であることが理解できる。
 その碑文は白姫様たちがいる面の真裏にある。
 カイは谷の墓所のことを鮮明に思い出しつつ、碑文の真裏には記述など何もなかったと結論付ける。もしかしたら見落としているだけなのかもしれなかったが、こんなにも判りやすく、たくさん刻まれてはいなかったことだけは断言できる。
 何で急に神代文字が読めたのかはわからないのだが、ともかく大発見である。
 興奮するままに正面の碑文も読んでやろうと、掃除する振りをしてそちらへと回っていったのだが…。

 「あなたたち、ちょっと狭いのだけど?」
 「…おまえら、散れ」

 猫背のフリンに手振りされて、過密状態でうごめいていた男たちが舌打ちしつつ散っていく。
 ただでさえ狭くて、熱気のたまりやすい場所である。汗臭い男たちがひとところに固まると体感だけでなく精神的にも相当に暑苦しい。
 男たちが散ってスペースにゆとりが出来ると、白姫様はあっさりと気持ちを切り替えて作業に没頭し始める。いい意味で白姫様は異性に対してあまり壁を作るタイプではなかった。
 カイは運よくスペースが開いたので、正面の碑文を掃除しながら触れて回る。

 (………)

 正面の碑文は、どこを触ってもまったく理解できなかった。
 一つ一つはなんとか意味を拾っても、それを繋げたときにイメージの連環がパチンとはじけて散り散りになってしまう。無意味としか思えない、まったく無秩序な文字群でしかなかった。
 『暗号文』みたいだなと、意識もせず感想をのぼらせる。
 あんごう、というのがどういうものなのかは具体的にはわからないのだが、本来の意味を伏せるための隠し言葉みたいなものなのだと解釈する。
 もっと時間にゆとりがあって、かつ人目がなければ、納得できるまで調べつくすのだけれども、おそらくそんなチャンスは訪れない。
 もしかしたら白姫様も碑文を読んでいるのではないかとちらりと思って、カイはそちらのほうを見たのだが、身をかがめて掃除している白姫様の胸元辺りとかがかなりおろそかになっているのに気付いて、慌てて目をそらした。
 そりゃ男たちも群がってくる。
 どうやってそのことを白姫様に伝えようか迷っていたカイであったが、その機会はやってくることはなかった。
 突然墓所の外から、見張りの兵たちの叫び声が起こったのだ

 「早く出ろ! 何か来る!」
 「墓所を隠せ!」

 全員が手にした掃除道具を放り投げ、墓所の中から這い出した。
 立ててあった石の蓋を落とし、数人が手早く土をかぶせていく。いち早く状況を見て取ったフリンが、白姫様に報告がてら許可を仰いだ。

 「ここで迎え撃ちます。灰猿人(マカク)どもです」

 エダ村周辺は、もう人族の支配する土地ではなかった。
村を放棄せねばならないほどに、亜人族の影響が濃くなった土地なのだ。むしろ他人の土地に無断で侵入しているのはカイたちであった。
 廃墟から程近い森のほうから、遠く鳴き声が響いてくる。それは灰猿人(マカク)たちが仲間を呼び集めている声だった。



 戦闘はすぐに始まり、ラグ村の形勢はすぐに悪くなった。
 ここはわれらの土地だ、人は出ていけ。そう灰猿人(マカク)たちが叫んでいる。言葉はわからなくてもみな雰囲気で察していた。
 なまじ『選抜戦』などをして兵士が混成になってしまっているので、班単位での集団戦がほとんど機能していない。フリンとその班員たちがどうにか互角以上に奮闘しているものの、ほかはすぐに蹴散らされ、抵抗もそこそこに逃げ惑っている。
 「姫様を連れて逃げろ」と指示された兵士3人が白姫様を逃がそうとしていたのだけれども、姫様自身が身を翻して敵に向っていってしまったものだから、守りの彼らも追いかけるしかない。
 灰猿人(マカク)相手に勇ましく名乗りを上げた姫様に、さっそく複数の灰猿人(マカク)たちが集まってきている。守りの兵たちが槍を構えて壁になったが、すでに腰が引けているので見ていて不安にしかならなかった。

 「…無理です、姫様!」
 「わたしだって『加護持ち』なのです! 灰猿人(マカク)が人よりもずっとすばしっこくて力が強くても、わたしなら…!」
 「戦うのはオレらの役割です、いいから下がっててください」
 「…わたしだって戦う訓練を」
 「…姫様!」

 兵士と言い争っている白姫様の背中から、灰猿人(マカク)の戦士クラスが飛び込んでくる。毛色の違う白姫様を捕まえようとしていたのか、素手で飛び掛ってきたその灰猿人(マカク)を、兵士らが機敏に槍で応戦しようとする。その突き出された槍のことごとくが、灰色の剛毛に弾かれて狙いを外した。
 勇ましいことを言っていた白姫様であったが、襲われた瞬間に身を竦ませて、あれだけ練習していた槍を内股で馬鹿みたいに振り回すことしか出来なかった。
 まずいと思ったときには、もうカイは動いていた。
 みなの注目が襲われている白姫様に集中しているのが幸いだった。カイの恐るべき繰り足が驚くべき加速を成してその灰猿人(マカク)戦士の背中に殺到したところを見ているものはいなかった。
 渾身の槍の一突きが、無防備にさらされていた灰猿人(マカク)戦士の背中に突き刺さっていた。
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