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解答編

 思考の泥沼に片足を突っ込んでいることを自覚した西浦警部補は、頬を軽く叩き気合を入れ直す。


「これが金無のダイイングメッセージと仮定しよう。だとすれば、不可解な点がある。何故、奴はわざわざ隣の部屋に移動したかということだ。メールで犯人を伝えたいのなら、ぶら下げられていた部屋で十分だったはず。なぜ、この部屋に移動する必要があったのか」


「空き部屋から、英会話教室の部屋に移動した訳ですか……あ、メールの英語が絡んでいるとかどうです! hだから……だから……エッチな人が犯人!」


「お前なぁ、エッチな人ってあいまいな表現をしても犯人に結び付かないだろうが」


「じゃあ、英会話教室は関係ないのでしょうか」


「いや、その着眼点は間違えてないと思うぞ。英語が絡むと仮定して、それにメールの内容を当てはめると……犯人はSuspectだったか。この文字列を入れ替えて……」


「あのー、死ぬ直前で出血中にそこまで凝った内容のダイイングメッセージ残せるでしょうか?」


 もっともな指摘に西浦警部補は黙り込んでしまう。

 長時間思考を必要とするような、パズル的要素があるダイイングメッセージは残すのが難しい。パッと思いつくような複雑ではない何か。それを読み取ろうと必死に頭を悩ませる。


「メールは犯人が入力して、それを金無は消去することもせずに、そのまま放置した」


「はい、開いて中身を確認した形跡はありますので。ですがメールで何かを伝えようとしていたのなら、この内容を見たら消して自分で入力し直しませんか?」


「そこだ。金無はメールを確認して、消すのではなくこれを利用しようと思ったのではないか? 消して新たに入力をすれば犯人が怪しんでしまい、ダイイングメッセージが消されてしまう。そこで、メールを消さなくても伝わるように考えた。それに出血多量でメールをまともに打てたのかも怪しい」


「消さなくても伝わる……すみません、馬鹿なもので全く思いつきません」


「つまり、メールの内容が大切なのではなく、メールそのものが重要だった。山川海にメールを送る。これを利用して、ダイイングメッセージを思いついた」


「じゃあ、犯人は山川海」


「いや、そうじゃない。ここで奴が死の直前に取った不可解な行動が意味を成す。英会話教室への移動。出血により目がかすみ指もまともに動かなかっただろう。そんな金無は朦朧とする意識の中、辛うじて歩くのが限界だったはずだ。そこまでして、英語が絡んでいるとの情報を我々に与えたかった」


 そこまで話すと、西浦警部補は室内を歩き始める。顎に手を当て、残った左手は腰に当てたまま、ゆっくりと円を描くように。


「物事はもっと単純で明快だったのだよ。メールを送った相手は山川海。金無が彼女だと周りに伝えていた相手だ。そして、名前に海。彼女、海。これを英語にするとなんだ」


「ガールフレンド、シーですか」


「いや、彼女の意味を恋人ではなく、単純に彼女という言葉で考えると」


「She シーですね。あっ、シーとシー!」


「そうだ、彼女である海にメール。シーメール、she mail、同じ発音でshemaleという単語がある」


「シーメール……ってなんですか?」


「なんだ、知らんのか。シーメールというのは日本でいうところの女性になった男性や、女装した男性を指す、アメリカでの俗語だ」


「ああああっ、ってことは、犯人はニューハーフの杉本静!」


「そういうことだな。英会話教室というのは、日本の授業では教えないネイティブな俗語も教えるそうだ。それも踏まえてのことだろう。それにメールを打ったのが犯人だと仮定すると、他の二人の名前を唯一知っているのは……杉本だけだ」


 その後、杉本静に推理を伝え問い詰めると、あっさりと自供。証拠のないただの推理なのだが、被疑者は初めから罪を認めるつもりだったのかもしれない。

 犯行理由は自分といずれ一緒になると言っていたのに、他に本命がいることを知り感情を抑えきれなかった、とのことだった。

 殺害方法についてなのだが……殺害現場である二階がその時間誰もいないことを知り、話し合いが終わった時間を見計らって呼び出し、再び口論となる。元プロボクサーである杉本が放った渾身のパンチが金無を失神させる。

 首吊りに見せかけようとして持ってきていたロープを首ではなく体に結んだのは、憎み切れなかったからだそうだ。包丁で金無を刺し、そしてロープにほんの少しだけ切れ目を入れておく。

 ――運が良ければ、金無が生き延びられるように……。

 メールについては、本命である山川海を犯人に仕立て上げるために打ち込んだのも杉本で、そのメールを利用して金無がダイイングメッセージを残したことを伝えると、


「最後まで、あの人のことを理解できていなかったのね……」


 大粒の涙をこぼしながら静かに崩れ落ちた。


「痴情のもつれって怖いですね」


「そうだな。それが男女であれ同性であれ、愛が深いほど裏切られた時の憎悪は、激しく燃え上がるものだ。そして、憎悪の炎は相手だけじゃなく自分をも燃やし尽くす」


「三股野郎なんかの為に殺人を犯したと考えると、やりきれませんよ」


「それでも、罪は罪だ」


「ですよね。あ、そうだ。実は初めから杉本が犯人じゃないかと、僕は思っていたんですよ!」


 重い空気を吹き飛ばすような、能天気で明るい声の笹谷刑事に視線を向け、西浦警部補が苦笑いを浮かべる。


「ほう、その根拠はなんだ」


「殺された被害者の名前が金無玉吉じゃないですか。金が無い玉吉。つまり、きんた――」


 西浦警部補は笹谷刑事の言葉を途中で遮るように拳を頭に叩きつける。


「最低だな、お前は」


「軽いジョークじゃないですか。ちょっと、ちょっと、待ってくださいよー」





初めての推理小説いかがだったでしょうか。

な、納得いただけましたか? もう少し説得力を持たせる展開にすべきだったかもしれませんが、私にはこれが精一杯でした。強引でしたかね……。

ヒントと状況説明が少なくて申し訳ありません。


犯人は杉本静。そして大事なのは『犯人はh』というメールを打ったのは犯人である杉本だということです。金無はそれを見て、メールを変更したら杉本が戻ってきた場合、見抜かれる可能性がある。そう考えて文面を変えずに、英会話教室に移動しただけ。

あとがきは皆さんのコメント見てから追加しているのですが、杉本が犯人だという答えを導き出すのに、思ったよりも多くの道筋があることに驚きました。

ヒントが足りなかったのとあいまいな表現ではなく、もっと答えを絞れるようにするべきだったと反省しています。


やはり、正解して欲しかったので、ヒント編を追加しましたがどうでしょうか。


実際書いてみて思ったことは、謎解きとつじつま合わせが面倒だということです。

推理小説作家の先生は偉大ですね……。


ポイントはダイイングメッセージの意味がシーメールを指していることです。

ということで正解者は(敬称略)ガラ、ひゅうた、いおうじま、Lix、PLの五名様とさせていただきます。

正解者の五名様は、この小説のコメント欄に書いて欲しい小説の、内容や設定を記入してください。抽選で一名様を選び、その内容の短編を書かせてもらいます。


みなさん、ご参加ありがとうございました!

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