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推理編

 とある都会の雑居ビルの一室で殺人事件が起こった。


「ここか笹谷刑事」


「はっ、西浦警部補」


 一般人が入らないように封鎖された殺人現場へやってきた一人の男がいた。

 ハンチング帽子を被り無精ひげが生えた五十半ばで、くたびれたスーツが妙に似合っている。

 西浦警部補はシートのかかった遺体の前で一度手を合わせてから、そっとめくった。


「こいつが被害者か……南無南無」


 脇にロープが結ばれた茶髪の若い男が、床の上で生気のない顔を晒していた。


「はい、被害者は金無 玉吉です。天井からロープでぶら下げられていたようで、腹部と足に刺し傷があります。凶器となった包丁はトイレで発見されましたが、指紋や証拠となるものは見つかっておりません。死因は出血性ショック死のようです」


「地面に降ろされているようだが、元々は天井付近の梁からぶら下げられていたのか?」


「いえ、第一発見者の証言によりますと、見た時は地面に寝ていたようです」


「つまり、刺されたのはぶら下げられた後か? それとも前か?」


「鑑識によりますと、気を失った状態でロープを結ばれ天井にぶら下げられたようです。その後刺され、暫くしてロープが切れて地面に落ちた。そして、発見されたのではないかと」


 西浦警部補は「そうか」と呟くと、ぐるっと辺りを見回す。結構大きな部屋にパイプ椅子と長机が並んでいるのだが、その全てが部屋の後ろに寄せられている。


「ここはどういった目的の部屋なんだ?」


「この雑居ビルは三階建てで、塾や習い事で使用されているようです。一階はスポーツジム、三階は事務所。そして、この二階は塾や華道といった趣味教養を目的として借りられていたようです」


「今日はこの部屋で何があったんだ?」


「本来は英会話教室があったようなのですが、こんなことがありましたので、臨時休業していますね」


 殺人現場で授業したいやつはいないな、と西浦警部補は頭を振り、小さく息を吐く。

 外と廊下に面する壁には大きな窓が取り付けられているが、どちらにも分厚いカーテンがかかっていて、外部から中を覗き見るのは不可能だと判断した。


「鍵の方はどうなんだ?」


「かかっていませんでした」


「密室ではないのか」


「はい、誰でも自由に出入り可能でした」


 人の出入りが自由となると容疑者を絞るのは面倒だなと、西浦警部補はハンチング帽を外すと最近薄くなってきた髪を、忌々し気にボリボリと掻く。


「ただ、おかしな点がありまして」


 手元の書類に視線を落として首を傾げている笹谷刑事に、鋭い視線を向けた。


「なんだ、言ってみろ」


「被害者は隣の空き教室で吊るされていたようなのです。しばらくして縛っていたロープが運よく体重で切れたみたいですよ。その後に血を止めようとした形跡もなく、助けを呼ぶわけでもなく、廊下を通ってこの教室まで来た、と報告書に書いてあります」


「足にかなり深い傷を負っているのに歩いて……刺殺されたにしては血の量が少ないのはそのためか。だが、何故だ。犯人から逃げるために空き部屋にきたのか? それとも、犯人に移動させられたのか」


「本人の血の付いた靴裏の跡がありますので、自力で歩いたようです。犯人らしき人物の足跡や、それを拭いた痕跡もありませんので、犯人に運ばれた可能性はないかと」


「しかし、それだと……まあ、それは後回しだ。被疑者は上がっているのか?」


「はい。現場近くで言い争っているのを目撃された被疑者が三名います」


「三名もいるのか」


「はい、死亡推定時刻の一時間から数十分前にもめていたそうです。それも、全員バラバラに。三人とも恋人関係だったのですが、三股をかけているのがバレて、時間をおいて三人に言い訳していたとの証言があります」


「三股か……お盛んなことだな。被疑者は今、何処にいるんだ」


「三階の事務所をお借りして、そこで待ってもらっています」


「詳しい話を聞く前に、三人の情報を貰えるか」


「はい、こちらになります」


 写真付きの資料を手渡された西浦警部補は目を通していく。


 ◆一人目、本田ほんだ 冬季ふゆき

 年齢二十五、大手企業で受付嬢をやっている。添えられた写真の見た目はショートカットで活発なイメージ。

 三年ほど被害者と付き合いがあり仲睦まじく見えたが、死亡推定時刻の二十分ほど前に近くの喫茶店で言い争う姿が目撃されている。


 ◆二人目、山川やまかわ うみ

 年齢二十一、スポーツジムのインストラクター。

 黒髪のポニーテールで日に焼けた褐色の肌をしている。

 交際期間半年。ジムに通っていた被害者と知り合い親密な関係となった。金無は周囲の友達に山川海が彼女だと伝えていた。本命らしい。

 死亡推定時刻の四十分ほど前に近くのファストフード店で被疑者が殴られていた。との多くの証言あり。


 ◆三人目、杉本すぎもと せい

 年齢二十七、キャバ嬢。

 艶やかで黒の長髪。夜の商売をしているだけあって、美人で色気もある。

 交際期間二年。被疑者は店の常連で月に二、三回互いの家で寝泊まりする仲らしい。死亡推定時刻の一時間前に大通りでもめていた。


「全員、殺害する動機があるわけか」


「はい。被疑者の一人、杉本静が被害者である金無の様子がおかしいと、興信所に頼み調べてもらった結果、三股が判明。その事実を今日の昼間に残り二人に電話で「あなたは三股かけられている」とだけ伝えたそうです。そして金無は全員から電話がかかってきて、その日のうちに二十分の間を開けて全員に会ったようです」


「死亡推定時刻に現場近くで目撃された者はいるのか?」


「それが……全員、雑居ビルの入り口付近で目撃されています。時刻はほぼ同時刻です。全員が犯行可能だった時間に」


「全員が犯行可能か。指紋や証拠になりそうな品は?」


「指紋は被害者の体にべったりと全員分あります。犯行に使われたロープには指紋が見当たりませんでした」


「そうか。だが、ロープを使って大人の男をぶら下げるとなると、女性の力では難しいぞ。これは一人ではなく共犯者がいたと……」


「あのー、それがですね。どうやら、全員一人でも持ち上げられそうなのですよ」


 申し訳なさそうに口を挟んだ笹谷刑事の発言に、西浦警部補は思わず眉をひそめた。


「どういうことだ」


「ええとですね、金無が小柄だというのもあるのですが、本田冬季は空手と柔道の有段者で、その力は男性をしのぐほどでして、ぶっちゃけ僕より力あるみたいです。そして、ジムのインストラクターをしている山川海は、ボディービルダーとして全日本の代表に選ばれたこともあるそうです」


「な、なるほど。それなら女の力でも男を引き上げられそうだな。だが、もう一人の杉本静はどうなんだ。かなり細身に見えるが」


「それが、杉本静はニューハーフです。それも元プロボクサーだそうです」


 西浦警部補は眉間にしわを寄せて黙り込んでいる。

 妙な沈黙が辺りを支配していたのだが、このままでは話が進まないと、大きく息を吐き出し口を開く。


「全員が金無に殺害動機があり、ロープで吊るし上げることも可能だった。目撃証言からして、誰もが犯行時に現場にいてもおかしくない。ふむぅ、面倒なことになったな」


「はい。あ、そうでした、気になることがありまして。金無は手に携帯電話を握っていたのですよ。メールを打っている最中に息絶えたようですが。今どきスマホじゃなくて携帯電話なんて珍しいですよね」


「それを早く言わんか。それで、誰に送るメールでなんと文字を入力していたんだ」


「送信相手は、山川海です。メール内容は『犯人はh』とあります」


「これは単純に考えるべきか、それとも……」


「それと、金無の携帯は拭き取られた跡があったそうです」


「犯人が携帯を操作した可能性もあるのか」


「ですが、血の付いた自分の手で携帯を開いた形跡があります。中身を確認した可能性は高いと思われますが、変な内容なら自分で消すぐらいはしそうですけど」


 追加情報が更に混乱を招き、二人は考え込んでしまっている。


「いかんな、こういった場合違う視点から物事を見るのも大切だ。金無はどういった人物だったのだ?」


「女好きで資産家の息子だそうです。ですが、派手な生活をするわけでもなく、読書家で特に推理小説が好きだったと、両親や友人が話していました。あと、親しい友人から聞いたのですが常日頃から金無が推理小説を読むたびに、こう口にしていたそうです「もし俺が殺人事件に巻き込まれたら、犯人に気づかれないように、ダイイングメッセージを必ず残してやる」と」


「となると、隣の部屋からこの部屋までやってきて、メールを打ったのはダイイングメッセージと考えるべきなのか?」



 ここで、問題です。

 金無のダイイングメッセージを解き、犯人を当ててください。名前の出ていない人が犯人という無茶なオチはありません。三人の被疑者の誰かです。

 解答編は三日後に投稿しますので、ダイイングメッセージの解読と犯人は誰か当ててください。殺害方法には触れなくて結構ですので。

 あなたの名推理を、この小説のコメント欄に記入してください。

 正解した方には『貴方が望む短編を私が書く』権利を進呈します。短編一万文字以内になりますが、ご希望の内容はどんなものであっても書いてみせます!(なろうの規定に反するものは除外します)

 詳しい説明はあらすじに記載していますので、一度目を通してくださると助かります。


 頑張ってダイイングメッセージを考えてはみましたが、過度な期待はしないでくださいね!


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