月は無慈悲な夜の女王
初投稿であることをここに誓います。
「ちょ、ま・・・。ぜぇ。ぜぇ。」
早くも息切れしている飯山を放っておいて、俺たちは先へ進む。
匍匐前進なんてしてるから無駄に体力を使うのだ。自業自得だ。
「森林で敵に見つからないように移動するためには、匍匐前進で進むしかない!」
と提案した元気な姿はどこへいったのやら。
しかし、今までは戦車で移動していたから分からなかったが、里から魔法学校までは結構な距離がある。そのうえ、森は木々が生い茂り、道も複雑で走りづらい。
何度も躓きかける俺。
山田さんは全く疲れた様子も見せず、木々の間をすごいスピードで駆け抜けていく。
戦車の運転技術といい・・・交渉術といい・・・ずば抜けた運動神経といい・・・。
山田さんはいったい何者なんだ・・・。
「山田さん・・・ちょ。そろそろ・・・止ま。速・・・。」
「あぁ、ごめん!ちょっとペースが速かったね。」
まだまだ余裕そうな山田さんになんとか追いつく。数分後には息切れした飯山と田辺犬も追いついた。
「まだ着かないのか・・・。遠い。」
「少し休憩しようか。」
山田さんの提案に俺達もうなずく。
空を見上げると偽物の月。森は静寂に包まれていた。
「あの影みたいな魔物が全く出てこないのが不気味だな・・・。」
道中、俺たちは森に棲む生き物も、魔法使いも、影の姿も見ていない。
もしかしたら影は里の方に向かったのか?
「なぁ、もしあいつらの所に影が向かっていたらよ。マズくないか・・・?」
狼狽える飯山。
「落ち着け。あいつらなら大丈夫だ。集団でいるし、土地勘もある。なによりあの弓術の腕前なら影なんかにやられたりはしない。それより、マズいのは俺たちの方だ。」
俺は一呼吸して話を続ける。
「俺たちは今回、戦車なしで戦わなきゃいけない。聖騎士みたいな超人がいるわけでもなければ、ちょうどいいタイミングで助けが来るなんてこともない。俺たち三人で魔法学校まで行かなきゃいけないんだよ。影に襲われれば、どうなるか分からない。冷静になれ。」
自分への戒めの意味も込めて、飯山を説得する。
前回は生身で戦っても無事でいられたが、あれは奇跡のようなものだ。
三人という少人数で動かねばならない以上、一人一人が緊張感を持って動く必要がある。
「すまん・・・。そうだよな。あいつらなら大丈夫か。」
飯山はエルフのことになると気持ちが昂る。
だが、まずは自分の事を考えなければならない。
「・・・そろそろ行こうか。」
俺達は再び魔法学校に向かって走り始めた。
* * *
「おかしい・・・静かすぎる。」
里のエルフたちは困惑していた。森が結界に包まれてからどれくらいたっただろうか。
普段は里を襲う影たちも今日は全く姿を見せない。
「私、行って来てもいい?」
マーレが意を決して老年のエルフに尋ねる。
「しかし・・・。」
「大丈夫。少し森の様子を見てくるだけだから。待ってるだけは嫌なの。」
マーレは知りたかった。今、この森で何が起こっているのか。これから何が起ころうとしているのか。
「私も行く。もう昔のように・・・。森が壊れていくのをただ見ているのは御免だ。」
シズクもマーレについていくことを決める。
二人は里を抜け、森の様子を確かめに向かうことにした。
魔法学校から戦車で結構走ったので、かなりの距離があると思います。
フルマラソンぐらいはあるんじゃないですかね。たどり着けるのか・・・。




