生命ある者へ
43回目の初投稿です。
控えていた騎士たちが、すぐに結界を壊すために動き出す。その数何十、いや何百人か。
「俺たちも手伝おう!」
俺の提案に、二人も頷く。
俺たちは観客席を抜け、闘技場を目指す。
だが、逃げ惑う人々に邪魔されてうまく前に進めない。
「こっちだ!」
人混みを抜け、なんとか入り口にたどり着く。
この扉を開ければ、闘技場にでる。
「せーのっ!」
俺たちは重い扉を開け、やっと結界の前までたどり着いた。
しかしその異様な光景に目を疑う。
誰もいない…。
さっきまで必死に結界を壊していた騎士達はどこにもおらず、闘技場の中央にはミミと傷だらけのフリッツ。そして、二人を囲むようにして機械兵だけが並んでいた。
俺たちは各々武器を構え、ミミを睨む。
「また会いましたね!うふふふふふふ!」
機械兵達が一斉にこちらを向く、その目はどれも赤く。異様な雰囲気を放っていた。
「いい。いいから。そんなの相手にしなくても。ごめんなさい。皆さん。せっかく来てくれたのに、もうお別れです!」
ミミがニタリと笑い、指を鳴らす。
その瞬間、俺たちの目の前に広がっていたのは見覚えのある街。王都だった。よく見れば周りには何百人もの騎士達。ジャスミンの姿もあった。
「ジャスミン!いったい何が起こっている!?」
「やられた…奴の空間転移魔法だ…!」
空間転移魔法。
特定の空間を物質ごと移動させる魔法。
発動には複雑な術式が必要だが、熟練の魔法使いには一つの動作だけで効果を発動させる者もいる。
「対策はないのか!?」
「無理だ…普段なら打ち消せるだろうが、奴は結界のなかにいて、魔力が著しく高まっている…。近づけばまた飛ばされてしまう!」
今にも泣き出しそうな顔をしたジャスミンが答える。
早くしないとフリッツが…!
俺はフリッツを助けたかった。あいつは親切で、誰からも愛されるような立派な騎士だ。
…こんなところで死んでいいわけがない!
「ジャスミン、その空間転移魔法はどんなものでも転移できるのか?」
「いや、重さや大きさに限度はある…。だが、機械兵が奪われた今…奴に対抗できる兵器など…」
俺たちは顔を合わせ頷く。
「ジャスミン、来い!フリッツを助けにいくぞ!」
「戦車を使う?無茶だ!王宮までは距離がある!」
「いいからいいから!山田さん!フルスロットルでお願いします!」
困惑するジャスミンを無理やり押し込め、俺たちは配置につく。
「行くよ!ちゃんと座っていてね!」
ガスタービンが轟々と排気音をあげる。
戦車はゆっくりと走り出し、あっという間に加速した。
「…ッ!速い!これなら!」
ジャスミンの顔に明るい表情が戻る。
俺たちはあっという間に城の入り口まで戻ってきた。だが、物事はそう簡単には進まない。
「機械兵だ!来るぞ!」
あらかじめ戻って来ることを予想していたのだろうか。機械兵があらゆる場所に配置されていた。
「ぐっ!」
奴らの小銃は大したことない。ただ、左手に備え付けられたブレードは戦車に当たるたびに火花が散った。
「なんだよあれ!硬すぎだろ!」
「あれは希少な鉱石でできたブレードに魔力を込めたものだ。岩をも軽々砕く。当たるなよ!」
戦車砲じゃ数には対処できない!
俺は機関銃を使い、機械兵を薙ぎはらう。
ジャスミンは身を乗り出し、魔法を打ち続ける。
「次はどっちに行けばいい?」
「そこを右だ!」
戦車は物凄いスピードのまま角を曲がる。
山田さんの運転技術って地味に凄いよな…。
「壁が…。」
「壊してもいい!責任は私が取る!だから…フリッツの元へ!私はもう大切な人を失いたくない!」
戦車は壁を壊し、機械兵を踏み潰しながら闘技場へ向かう。
* * *
「この術式、完成するまで暇なんですよぉ…。」
髪をいじりながら、ミミはつまらなそうに呟く。
闘技場にはどす黒い色をした魔法陣。その範囲は闘技場全体に広がっていた。
「ねぇ、フリッツさん。私達の仲間になりません?そうすれば助けてあげますよぉ?」
「…断る。」
「なんでですかぁ?最近のあなた、つまらないですよぉ?私はニーナが死ぬ前の、もっと性格の悪いあなたの方が好きでしたけどねぇ?」
こいつはいったいどこまで知っている?
いつからこの国を狙っていた?
いつから俺たちと一緒にこの国で暮らしていた?
「ね?どうです?誰も助けに来ませんし、仲間になりません?アナタの才能。こんなところで腐らせるのは惜しいんですよぉ。」
「あなたはこの世界を憎んでいる。大切なものを奪ったこの世界に復讐したいはずです。違いますかぁ?」
奴の言葉は二つの間違いがある。
一つ目に、俺はこの世界を憎んじゃいない。ニーナの死は悲しかったが、俺の人生はそれが全てじゃない。今は大切な人を守るために、自分に嘘をつかずに生きている。
…二つ目に、俺は生き方を変えてから人に好かれるようになった。自分の生きたいように生きているだけなのに、周りに人が集まってくる。
轟音。壁が崩れ、戦車が現れる。
次の瞬間には結界は消え、聞き覚えのあるやかましい声。
「フリッツ!助けに来たぞ!無事か!」
来るのが遅すぎる。人が死にかかっているというのにうるさいやつだ。だが、俺は安心していた。奴らなら、俺を助けに来てくれると信じていた。
「悪いが、俺はお前たちの仲間にはならない。俺はまだ、こいつらみたいなやつらを守るために、聖騎士を続けなくちゃいけないからな…!」
タイトル詐欺にも程がある。
戦車無双です。しょうがないね。