デイ・ドリーム・ビリーバー
初の投稿です。
「止まれ!止まれぇ!あ、マズい!よけてよけて!」
聞き覚えのある声だ。俺はとっさの判断で体を動かすが遅かった。
振り向いた瞬間、俺の顔を箒が直撃する。
「ぐふっ!」
「きゃっ!」
仰向けになって倒れる俺の上に、箒の主がのしかかる。
「あはは・・・またダメでした。」
「マーレ・・・!お前、どうしてここに?」
少し日焼けした肌、三角帽から覗く長い耳、なにより魔法使いにあるまじき下手な箒さばき。
これらの特徴が当てはまるのはマーレしかいなかった。
「権丈院!久しぶり、元気にしてた?」
のしかかったまま、久々の再会を喜ぶ彼女。
「俺は元気だよ。とりあえずどいてくれないかな?」
相手が女の子だから、重いということを口に出すのはやめておいた。
ただ、こいつ見た目によらず結構体重がある。苦しい。
「私はあのあとね、自分探しの旅に出たんだ。失った記憶を埋めるためにね。」
どいて。とりあえずその話は俺の上でなくてもできる話だろう。
苦しい。気のせいか?マーレの体重がどんどん増えていっている気がする。
「でも・・・。だか・・・、助・・・。いつか・・・。」
意識が朦朧としてきた。俺はマーレにつぶされて死ぬのか?
どんな死に方だ。ホント、死っていうのはいつ訪れるか分からない。特にこの異世界では。
「ぜっはぁ!」
死を覚悟したその瞬間、俺は現実に引き戻される。
「夢か・・・。」
体中汗まみれだ。とんでもない夢だった。
マーレと久々に会えたと思ったら殺されかけるとは・・・。
少しして気づいたのは、ベッドの下で寝かせておいた田辺犬がいつのまにか俺の上で寝ていることだった。
意味の分からない悪夢はこいつのせいか。重いからどいてくれ。
俺は田辺犬を放り投げる。奴は驚いて目を覚ましたようだ。
隣のベッドを見ると飯山はまだ寝ていた。それもそうか。
まだ外が薄暗い。朝早い時間帯であることが分かる。
「ふふ、お前、食べすぎなんだぜ?ちゃんと明日の分はとっておかないとダメなんだぜ。」
ニヤニヤしながら寝言をつぶやく飯山。こいつはさぞかしいい夢を見ているに違いない。
起こすのも可哀想だし、もうすこし寝かせておいてやるか。
俺は眠気覚ましに、田辺犬を連れて朝の町を散歩することにした。
「ふぁーぁ・・・。」
眠・・・。昼間は賑わっていた王都もこの時間帯はほとんど人がいない。
ときどき見かけるのは走り込みをしている騎士たち。朝早くからご苦労なことだ。
「あれ、権丈院君?おはようございます。早起きですね。」
後ろから声をかけられる。声の主はフリッツだった。こいつも朝の鍛錬か?大変だな。
「おはようフリッツ。朝早くからお疲れさま。」
「いえいえ、騎士たるものいつ国の危機が訪れても対処できるよう、常に自分を高めておく必要がありますから。」
マジメだなぁ・・・。聖人君子とはこういうやつのことを言うのだろう。
挨拶ついでに俺は気になっていたことを聞くことにした。
「そういえばさ、この世界では魔法によって姿を変えられることとかあるのか?」
「・・・?唐突ですね。
まぁ、ありますよ。上級の変化魔法は自分だけでなく他者を対象とすることが可能です。」
「そういうので姿を変えられた場合って、どの病院に行くのが正解なんだ?」
「特殊魔法にかかってしまった場合、病院ではなく教会に行くのが正しいですね。変化、幻惑、巨大化、縮小化などがこれに当てはまります。」
なるほど、通りで病院では相手にしてもらえないわけだ。
よし、今日は騎士団を見学した後、田辺犬を元の姿に戻してやろう!
田辺犬も目を輝かせている。待っていろ!お前が元の姿に戻れる時は近いぞ!
「ありがとう!フリッツ!」
問題は解決した。とりあえず俺は部屋に戻ってもう一度寝よう。今日は忙しくなるぞ!
颯爽と去っていく権丈院を見て、フリッツは首をかしげる。
「犬・・・?変化魔法・・・?いや、まさかな。」
彼は考えるのをやめ、鍛錬に集中することにした。
意外!それは教会ッ!




