たった一つの真実の伝え方
寝ることに越したことはない。
唖然とした表情の俺を、山田さんがのぞき込む。
「これは元の世界の君だよ。だって、突然いなくなったら埋め合わせが大変だからさ。」
彼女は楽しそうにそう告げる。こいつは…元の世界の俺?じゃあ俺は?
しばらくモニターを眺めていると一日、二日と時が流れていくのが分かる。
時は流れているのに、画面の向こうの様子は一向に変わらない。
部屋にこもってゲームをする映像だけが流れている。
「記憶にないかい?君がこの世界に来る前の様子さ。」
俺はこんなに怠惰な人間だったか…?
記憶が曖昧でうまく思い出せない。
「処理がきつすぎたか…?あれほど乱用はするなって厳しく言ったのに…」
山田さんが隣で何か言っている。だが、耳にうまく入ってこない。
自分が何者なのか…どうしてここにいるのか。俺は本格的に分からなくなっていた。
「本当のことを…話してください。」
精一杯絞り出した言葉。それでも山田さんは何も変わらない。どこか気持ちに余裕があるような。
俺のことを軽く見ているような感じだ。
今はその余裕が…怖い…。この人はどこまで隠している…?
「本当のことを話せば、君は味方でいてくれるかい?」
俺のことをまっすぐ見据えたまま、彼女はそう尋ねる。
「…分かりません。」
俺の返事に納得したのかどうかは分からないが、彼女は何度か頷いた後、再び俺を手招きする。
再びエレベーターへ。今度は下へ下へと降りていく。
数分が経っただろうか。少しの浮遊感を味わった後、今度は暗く、長い廊下のような場所をひたすら歩く。
「君たちと旅をしている時間があったじゃないか。覚えているかい?」
不意に山田さんが俺に質問する。それは…覚えている。
だが、返事をする前に遮られる。
「まぁ、ここにくればいずれ分かることだったね。座りなよ。」
次に案内されたのは図書館…?のような空間。汚れ一つない白い壁と高い本棚に囲まれどこか息苦しい。
モニターに囲まれた近代的な空間とは真逆…数冊の本が辺りに浮いている光景はまた別の異様さを醸し出している。
「君の探している情報はここにある。全てね。」
椅子に腰かけた山田さんが一冊の本を投げてよこす。
本はゆっくりと弧を描いた後、俺の手の中に納まる。
「まずは私たちが何者なのか…そこからだよね。信頼してもらえないことには、話は始まらない。」
「読んでごらん。理解できる部分だけでいい。私も口で説明するには難しいんだ…この組織はね。」
選択肢なんてない。今は少しでも情報が欲しい。
俺はゆっくりと本の表紙を開いた。
権丈院君が元いた世界には代わりの権丈院君がいるので安心。




