果てしなき世界
3度寝したので初投稿です。
飯山を乗せ、戦車は村へと走る。
「明かりがついてる!」
あれだけ派手に戦ったのだ、獣人たちも戦いの行方を見守っていたのだろう。
この戦いは俺たちの名をこの世界に知らしめる、素晴らしい戦いだった。
俺達は気分が高揚していた。一人も欠けることなく黒龍を倒したことに。
俺達の戦略はこの世界でも通用する。この戦車と各々の武器があれば。
その夜、俺たちは獣人たちから熱烈な歓迎を受けた。
僻地にある獣人族の村では長い間聖騎士が来ず、夜には外に出ることができなかった。
そんな苦しみを一晩で開放してしまったのがあなたたちだと。
三日三晩の宴の末、俺たちは次の目的地を目指すことに決めた。
「もういっちゃうの・・・?」
獣人族の少女、リリーが俺たちのことを寂しそうな目で見つめる。
彼女はこの数日間で俺達、ではなく山田さんになついていた。
「また必ず帰ってくるから。」
山田さんは泣き出しそうなリリーの頭を撫で、抱きしめる。
俺達は村の皆から色んなものをもらった。食料や武器、服に書物。
戦車は磨き上げられ、フロントにはいつの間にかペインティングがされていた。
獣人族の「必勝祈願」だとか・・・。
とにかく、車内に入りきらない量の餞別をもらい、俺たちを乗せた戦車は再び走り出す。
初めてきた時とは大違いの、盛大な見送り。
「ありがとう!」
俺たちの別れの挨拶は、今度こそ彼らの耳に届いただろう。
「いや、もうこれは敵なしでしょう。」
「異世界っていうのも案外イケるな!」
「いやいや、勝って兜の緒を締めよということわざもあるぐらいだし。」
「山田さんもう少しスピード落として・・・酔う。」
車内はこれ以上ないぐらいに盛り上がっていた。偉業を達成した達成感。
感謝されたことへの充実感。そして新たな旅立ちへの期待感。
車内は食べかすが散乱し、読みかけの書籍が散らばっていた。
まるで元いた世界の自分の部屋みたいだ。
山田さんはもちろんそれを許してくれなかった。
「車内で物を食うな!」
「本は元あった場所に戻せ!」
「武器はいつでも出せる場所にしまっておけ!」
そんな山田さんの姿を、俺は自分の母親に重ねていた。
俺がこっちの世界に来て何日がたっただろう。
寂しい気持ちはあった。父と母は、俺が学校に行かなくなった後も見捨てることなく構ってくれた。
優しい二人の元へ、帰りたいと思うこともあった。
「権丈院、どうしたの?ホームシックか?」
「無理もないな。こっちに来てから結構な日数がたっているし。」
でも、今はそれ以上にこの異世界にワクワクしていた。
きっと一人だったら寂しさに押しつぶされて、こんな気持ちにはならなかっただろう。
でも俺には頼れる仲間がいる。この世界で人助けをするのも悪くない。
「いや、全然寂しくないし?むしろこれからの冒険にワクワクしてるし?」
少し強がって、俺はそう答える。半分は本心だ。
異世界からもいつか帰れるだろう。俺は楽観的に考えることにした。
俺たちの都合に関係なく、運命は決まる。だったら成り行きに身を任せれば良い。
4人を乗せた戦車は走り続ける、次の目的地を目指して。
食べかすだらけの車内、くさそう。