透明のアウトライン
湿度やばし
不思議だ。
心が体を離れているようだ。
俺は俺自身を見ている。
これが俺か?
王都で倒れていたところを助けられた俺。
引きこもりな魔女と暮らしていた俺。
家事に助手にと彼女にこき使われていた俺。
あれ?おかしいな。
それだけじゃないはずだ。
楽しい今の記憶、今の俺の奥に霞む何かがある。遠ければ鮮明に、近ければ朧げに。
これは記憶?俺の記憶なのか?
学校……ゲーム……異世界……
ずっと昔の記憶。
ちょっとずつ何かが俺の頭に浮かぶ。しかし、新しくなればなるほど今の俺が邪魔をして見えない……
わからない……
まだ、俺はなんなのか思い出せない。
「ジニー、俺にはまだ君が必要だ」
俺は体を起こした。
瓶の中身を飲んだ途端に倒れたようだ。
俺は先の記憶を思い起こした。
学校、ゲーム、fps、ライフル、異世界ーーー
「痛っ!」
それより先は思い出せない。
だが、何かわかりそうな予感はする。
手がかりを探さないといけない。何かきっかけがあればきっと思い出せる。確信はないがそう思えた。
記憶の中で朧げな人間の輪郭。小さい人、大きい人……なにも見えない中、彼女だけはわかる。
ジニー……彼女に会う。それが第一歩だ。彼女こそが記憶の手がかり。そのことは置き手紙からも推測できる。
彼女は俺が何者かも知っている。
俺の過去も人間関係も知っている。
知っていて彼女は……
俺に3年間もそのことを黙っていたのか?
俺は居ても立っても居られなくなり部屋を飛び出した。
青空の広がる王都。あまりに広く、あまりに多くが存在する街。
ジニーとの暮らしである程度街並みは覚えている。しかし、不思議だ。懐かしい。そんな感情が俺の心にふと現れる。
ずっといた街なのに。
俺はこの街しか知らないのに。
言いようのない孤独感に襲われて俺は走った。行くあてもない。ジニーは何処にいるか見当もつかない。
ただ動かないのは怖かった。
少しでも何かに縋らないと俺は俺を見失う。
俺はなんだ?
俺は一体なんのために?
俺は違うのか?
今までの俺は俺じゃないのか?
「ジニー!!何処だ!?俺は一体誰だ?俺はなんなんだ?教えてくれ、ジニー!!」
* * *
普段となにも変わらない街だった。
王都ーーここはこの世界の中心とまで言われた大都市。
多くの人が普通の生活をしている。
笑い、泣き、怒り……
表情豊かなこの街は多くの人の暮らしを何千年も前から見つめてきた。
「私の故郷もこんな街だったらな」
大抵の人が半袖で出歩く中、黒い外套に身を包むジニー。明らかに浮いた格好だ。だが、本人もそして周りにいる彼女と同じような服を着た男達も他所の目を気にしない。
遠くに声がする。
知っている声。
「行こう。無知がどれだけ罪なのかを教える時だ」
ジニーは少しだけその歩調を緩めた。
言葉は自分の背を押すためだった。だが、それがむしろ足枷となる。
だが、彼女は振り向かなかった。
止まることもしなかった。
その目はただ前を見ていた。
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