そして灰になる
今年最後の投稿です。来年も、再来年も応援していただけると嬉しいです!
希望の象徴である王都。そこにはいつものように多くの民が、騎士が変わらない日常を過ごしていた。
彼らは王都が襲撃を受けることを知っていた。知らされていた。円卓の騎士には諜報に長ける者がいる。それにあれだけの巨大兵器だ、全てを隠し通すことなど無理に決まっている。
アーサー王は全ての民に各地に散り、生き長らえるよう言った。それでも数百、数千人の民が王都に残った。彼らは圧倒的な兵器を前に生きることを諦め、死を受け入れたのだろうか。それとも、最後の抵抗を、生まれてから今まで生きてきたこの地に残ることで、帝国には屈しないという意思を示したのであろうか。
この国の王、アーサーにはそれが分からなかった。だが、そんなことはもうどうでもよかった。彼の最後の役目は自らの力で兵器の衝撃を殺し、民を守ることだった。恐れることはない。優秀な円卓の騎士は各地に散り、いつか帝国を討つ剣になるだろう。それに、この国には自国を愛してくれる人がこんなにもいる。
せめて一人でも多くの命を…。
アーサーはそう願い、静かに剣を抜いた。
* * *
遠くで爆発音が聞こえた気がする…。
俺は飛び起きて辺りを見回す。
何が起こった…?リミエラと大佐…遥か上空からの景色はあっという間に色を変え、そのめまぐるしさに俺は気を失っていた。
「起きた…みたいですね…。」
ふと顔を上げると目の前には黒のローブを纏った少女。丸メガネをかけ、杖を持つ姿は魔法使いのようだった。
不意に、少女は杖の先を俺の方に向ける。俺は驚いて後ずさる。
「な、なんのつもりだよ!?」
少女は俺を見定めるように眺めた後、静かに杖を下ろす。
「あなたは王国の人ですか?それとも…帝国の人ですか?」
「お、俺は王国側の人間だ…!なぁ、どうなったか教えてくれ…ここはどこで?君は誰なんだ?」
「あなたは空から降ってきた。私はそれを助けたのです。」
この子が助けてくれたのか?でもどうやって?
「転移魔法です。あなたが地面につく直前に、安全な場所まで飛ばしたのです。」
「あ、ありがとう…!」
俺はすぐに頭を下げる。少女はニコリともせず、めんどくさそうに髪をいじっている。それでも彼女は命の恩人だ。
「もういいですよ。私の気まぐれですし、それより窓の外を見てください。」
言われるがままに外を見ると、いつのまにか雨が降っていた。黒い…雨…が?
「3日前、あなたが落ちてきた日ですね、アレバルザン王国に帝国が攻め入りました。空からの攻撃に、王国は成すすべもなく、新兵器によって全てを焼かれたそうですよ。」
彼女は虚ろな目をしたままそう語った。
急激な寒気と、吐き気に襲われ俺は蹲る。王国が…?何故?どうして?皆は?リミエラは…?
「吐くなら外でして下さいね。まぁ、この雨に当たればひとたまりもないですけど…。」
「皆…は?なぁ、俺の他に誰か見なかったか?」
少女は怪訝そうな顔をする。
「そういうとこ、あの人にそっくりです。まずは自分の心配をしたらどうですか?」
あの人…?いったい誰のことだ…?少女は俺に構わず話を続ける。
「わずか数日で、帝国は新兵器の威力を持って多くの国を支配下におきました。ここも今や、帝国の領土…。私たちは、特に王国の人間であるあなたは、帝国に見つかればどうなるか分かりません。」
「そこで、あなたには私が安全に逃げ延びるための道具になって欲しいのです。囮となり、盾となるような!」
俺の反応を伺う素振りも見せず、少女は畳み掛けるように喋り続ける。助けてくれたのはありがたいが、今は一刻も早く皆の状況を確かめたい…。
「ちなみに、拒否権はありません。断ればあなたはひどい目にあう。」
そう言い、少女が指を鳴らすと首のあたりに激痛がはしる。焼けるような痛みに悶えていると、少女が近づいてきた。その顔には嗜虐的な笑みが浮かんでいた。
「改めてよろしくお願いします…!私は王国の罪人…ミミと申します。」
駄目だ…痛みで意識が揺らぐ。目が覚めたら夢であって欲しい…。この少女も、失われた王都も…全てが…。
よ い お と し を !




