黒の領域
タイトルを考える時が一番悩みます。
「来た…!」
屋敷の窓から外を眺めていたシズクが俺たちに帝国兵が来たことを伝える。
屋敷の中には俺と、リミエラと、ジャスミン。それと戦闘には参加しないが耳と目を活かして様子を伺うシズク。他のメンバーはもしもの時に備えて外で待機している。
失敗は許されない。先日レブタリアで帝国兵を尋問したことも、すでにバレているだろう。今回取り逃せば居場所がバレる。間違いなく帝国側は俺たちを仕留めに来る。
すぐに帝国兵を片付け、装備を奪い変装する。怪しまれないように日がたたないうちに帝国内に侵入し、情報だけ手に入れて去る。
考えるのは簡単だが実行するのは難しい…。
一つ一つを確実にこなす必要がある。
そんなことを考えていると廊下を歩く音が聞こえてきた。聞いた情報通り3人の帝国兵が、屋敷に入り一直線に町長の部屋に向かっているようだ。俺たちはその隣の部屋で息を潜めていた。
「町長、予定通り鉄の取引に来た。いないのか?」
ノックをする音が聞こえる。しかし返事はない。当然だ。町長は俺達と一緒にこちらの部屋にいる。
帝国兵は即座に捕まえる予定だが、抵抗され町長を人質に取られたら作戦は失敗する。
「町長!入るぞ!」
荒々しくドアを開ける音がする。よし、予定通りだ。奴らは誰もいない部屋に入っていく。
「行くぞ。」
近接戦闘が得意なジャスミンを先頭に俺たちは一斉に隣の部屋から出る。
不意を突いた背後からの奇襲。三人が別々の帝国兵を相手する。ちょうど三対三だ。
勝負は一瞬だった。士官クラスならまだしも、有利な状況下で一般兵を相手にすれば結果は見えている。
「放せ…!お前たちは一体…。」
レブタリアにいた帝国兵と比べると落ち着いているが、それでも表情からは焦りの色が見て取れた。
俺達は気にも留めず、淡々と帝国兵たちの装備を外していく。
「帝国について知っていることを話してくれないか?」
リミエラが帝国兵に尋ねる。彼らは悪態をつくこともせず黙っている。
少し待ったがその様子は変わりそうにない。
「大した忠誠心だ。」
ジャスミンが苦々しい顔でそう呟いた後、部屋に入ってきたマーレを手招きする。
情報を吐くつもりがないならこれ以上の尋問は時間の無駄だ。
レブタリアの時と同じように帝国兵を全員眠りにつかせる。
マーレに聞いたところ3日ほど眠り続けるらしい。
「記憶処理も一応しておいたけど…そっちはあまり自信ないから…期待しないでほしい。あと、体内エネルギーの消費を抑えてあるから眠ってる途中に死ぬことはないと思うよ。」
本当はどこか出られない場所に閉じ込めておきたいがこの街にそう言った施設はない。
町長と話し合い、屋敷の一室に寝かせておくことにした。
* * *
「とりあえず一つ目の作戦は成功だな。」
帝国に向かう途中、兵士から奪った装備を身に着けながら俺はそう呟く。
予想通り三人分は手に入ったがこの服を誰が使うかが問題だ。
「ジャスミンは多くの帝国兵から知られてる。変装でごまかしきれるか怪しいだろ…。」
話し合いの結果、帝国内に潜入するのは俺とリミエラ、そして柊になった。
「すまないリミエラ、危険な目に合わせてしまって…。」
ジャスミンが頭を下げるがリミエラは微笑みながら首を横に振る。
「ううん。いいの。私も知りたいから…おじいちゃんが…私たちがこんな目に合わなきゃいけない理由を。」
その言葉からは強い決意が感じられた。
「お前は大丈夫なのか…?」
ナレガが心配そうに柊に尋ねる。
「仕方ないじゃん。ジャスミンさんは顔バレしてるし。ナレガはその格好じゃ目立つし、マーレとシズクは耳で怪しまれるだろうし…皆を危険な目に合わせたくないから。私がやるよ。」
各々が着替えを終え、帝国の装いに身を包む。柊には少し大きかったようだがナレガに丈を調整してもらったみたいだ。
「極力戦いは避けたいと思う。残りのメンバーは帝国から少し離れたところで待機していてくれ。」
日が沈みつつある時間帯。俺たち三人は緊張の趣で帝国領土内にいた。
直属の上司がまともな人である兵士は忠誠心が高いです。
しかし、帝国である程度の地位についている人は大体がまともじゃないです。




