闇の中を導くもの
カルボナーラパスタ
坑道には危険が多い。落石や崩落の危険もあるし有毒なガスが地中から出てくるかもしれない。日が届かない暗闇が支配する世界…そこは人間が作った人間には適さない環境。
俺はある程度理解している。この戦いはモンスター以前に慣れないこの坑道という過酷な環境が敵となる。
「クリア。前進する」
最前列を行く俺はアサルトライフルを通路の奥に向ける。
銃につけられたタクティカルライトが暗闇を照らす。軍用なだけあってかなり遠くまで照らせる。しかし、照らされたその先に続くのは暗い通路のみ。
「すごいな……その光は。魔法ではないのだろ?」
「あぁ、しかし照らせる範囲は俺の前方だけだ。後ろは頼むぞ」
後ろの光源はマーレが担当している。ジャスミンは通った坑道の松明に魔法で灯りをつけていく。
「だいたい入り口から100mきた。怪物の襲撃が多かった場所はまだ400m先だ」
「まだまだだな……だが気を抜くなよ……この暗闇の中いつ襲いかかってきてもおかしくない……」
そうだ。
坑道は一本道に見えて横道がある。また空気口が天井にところどころある。そんな横道は崩落を防ぐために作られた木の支柱が邪魔をして近づくまで存在がわからない。地図はあるが正直不慣れであっているかどうか……
気を抜いて奇襲を喰らえばただでは済まない。ライフルも役立つかどうか。銃剣の方が使う機会に恵まれるかもしれない。
俺は銃の先に着いた銃剣を見つめた。鋭く光を放つ銃剣は元の世界の、FPS世界の物ではない。ナレガから買ったものだ。もとの世界の物と比べても遜色ない。
「見えないと怖いか?」
ふとリミエラが俺に声をかけてきた。
「そりゃ怖いさ。どこからくるかわからないと戦いようがないし」
「雅敏、忘れてない?気の力。見えなくても感じることはできる」
いや……忘れてはいないんだけど…気の力といわれても漠然としているというか…
リミエラはそんな俺の内面を見透かしたかのように俺に問う。
「いままでの修行の成果を試すにはもってこいの場だと思うけど。ピンチを乗り越える時こそ人は成長できる」
気の力…俺の見えなくなった片目の代わり。誰かに頼らなくてもいいだけの力を。
思い出せ。夜他のみんなが寝静まった時していた修行を。見ることに頼らない。見ることに縛られない。見ること以上に感じる。
周りの気配……炎で揺らめく坑道の空気、7人の息遣い、金属音、冷たい静かな暗闇……その中で確かに感じる魔力の気配。五感以外で確かに感じることができる。
暗闇の奥に潜むナニカを俺は捉えた。
「いる。50メートル先の横道に。何かいる。大きいな。2メートルくらいある。冷たくて気持ち悪い」
「ご名答。相当強力な魔力を持っているよ。でも魔法生物じゃない。より無造作で残虐な生命体。私も正確にはわからないけどレギーオかもしれない……」
皆に緊張が走る。
レギーオ?聞いたことのない名前だ。
俺にはそれがどの程度危険なのかわからなかったが何となく察することはできた。
さてはここの怪物……相当ヤバいな?
コルトリ鉄鉱山
トンプトン一の鉱山で鉄の他に銅や貴金属も産出している。地下は540m。広さは3キロに及ぶ。300人以上の炭鉱夫たちが働いているこの鉱山はトンプトンの生命線なのだ。




