エネミーライン
暑かったり涼しかったり
「案外あっさり抜けれたな」
俺たち5人は森を行く。街からかなり歩き、帝国領からはそこそこ離れたが安心はできない。
敵の姿を確認していないのは不安だ。士官クラスが来たことは間違いない。頭のネジが飛んだようなヤバい奴が送られてきたかもしれない。
「帝国にとってワタシたちなんて虫けら同然……士官も偶然街にいただけだろう。わざわざ私たちを追っては来ないはず」
リミエラの言うとおり、帝国にとって俺たちはちっぽけな存在だろうとは思う。
……本当にそう思ってくれていればいいのだが。
俺たちは森の中を進み続けた。
街で調べた地図によるとこの先は公国の街がいくつかあるはずだ。
そこについたらまた情報を収集しよう。何か有益な情報があるはずだ。
……だがまた何も手に入らなかったら。
この旅でまだ異世界人もフリッツの情報も手に入っていない。あまりにも情報収集が下手だ。これは改善すべきことだ。帝国に近づけばフリッツの情報も手に入るかと思ったが帝国は想像以上にその手を伸ばしていた。ならばいっそ……懐に潜り込むべきか。
夜。森の夜は油断ならない。
恐怖は追手だけではない。森にすむ怪物たち。こっちの世界には人間にはどうすることもできないレベルの化け物がひしめいている。
5人は集まって野営の準備をする。
見張りはシズクとリミエラがしている。エルフの五感の良さはこういう時に真価を発揮する。マーレは魔法でテントを作る。外見以上に中が広いテントはなかなかに感動する魔法だった。
みんな数十メートルの範囲内にいる。話すなら今だろう。
「みんな、話がある……」
俺はみんなが夕飯を食べる準備をする最中、話を切り出した。
皆作業の手を止めて俺の方を向く。
「なんだマサトシ」
「これからの予定…これからどこへ行くかだが、俺から一つ提案がある。俺たちはまだ何も得ていない。しかし、帝国は次々計画を実行に移している。このままでは帝国のしていることを見てるだけだ。だから、俺は帝国にさらに近づくべきだと思う」
俺の意見に真っ先に異を唱えたのはリミエラだった。
「帝国へ?こんな装備でいくというのか?無謀すぎる!死ににいくものだぞ!」
「私もそう思う。ここは他の街に行く方が」
シズクもリミエラに続く。マーレはどちらとも言わず話を聞いているようだ。何も考えがないというよりはまだ決め手がなく悩んでいるという感じか。
ジャスミンだけは俺の考えに首を縦に振った。
「帝国領内でも近くの村ならそう時間もかからずに行けるだろう。帝国領内でしか手に入らない情報がるかもしれない。敵の規模もたかが知れている。無茶ではない筈だ」
「いや、近くの街じゃない。地図では小さな街までは書かれていなかった。だからいっそ一番大きなところに行く……」
そう、それが俺の考え…敵の懐に一気に飛び込む。
向かう場所は一つ、帝国の中枢であろう場所――
「帝都に乗り込む」
これにはジャスミンも唖然としていた。他のみんなも呆然としている。
「勿論このままで乗り込むことはしない。最小限の武器、最小限の人数で商人に扮して帝国に侵入する。時間はかかるし資金も必要だ。だからすぐに帝国領に突入するわけじゃない」
「確かにそれならまだ行けそうだ。レブタリアでの話だと帝国はいま大量の鉄資材をかき集めている。鉄を売りに行く商人に化ければいい」
リミエラも少し関心を示したようだ。
だがジャスミンは眉をひそめた。
「だが、武器を持たずに行くのか?それではもし我々が王国の内通者…まして聖騎士だとばれた時戦えないぞ……」
「逃げればいいさ。戦う必要はまだない」
そうだ。逃げればいい。
今は戦う時じゃない。情報を得るとき……
敵のことを知らなくてはいけないんだ。
戦いはもうすぐそばまで来ている。俺はまだその距離感をつかめていなかった。
本当に戦いは近くに来ていた。
嫌な事からは逃げたい。でもだいたい逃げれない。




