The Runaway
この時期は過ごしやすくて過ごしやすいです。
倒れた帝国兵を確保した後、俺たちは街の様子を伺う。街の人たちがざわついている。ジャスミンのやつ、これは相当派手にやったな…。
「帝国兵が街の人を脅していてな…つい手が出てしまった…」
ジャスミンから事のいきさつを聞く。彼女が街の人から話を聞いたところ、レブタリアは中立国ではあるものの帝国領から近いこともあり、帝国側につくよう幾度も忠告を受けていたようだ。しかし、帝国は強大な力を持っている。レブタリアが帝国に与すれば、脅しをかけられ自国で生み出した利益を独占される恐れがあった。それ故レブタリアは帝国の忠告に従わなかった。
「いつまでたっても思い通りにいかない帝国はこの街を占領しようと企んでいるようだ。崩壊前なら各国から非難を受けることは必至だろうが、無秩序な崩壊後の世界で、新兵器による軍事拡張も合わさった今、レブタリアを始め多くの中立国を脅かしている。」
説明の途中で帝国兵が目をさます。しばらくもがいていたが、声を出せず、仲間も呼べない状況に観念したのか徐々に大人しくなっていった。
「起きたか。お前には聞きたいことがいくつかある。ここで騒がれたら困るから、場所を変える。ついて来い。」
俺たちは帝国兵を連れ、人気の少ない裏通りに入る。この光景だけ見てると、完全に悪人だ。一人の帝国兵に対して集団で路地裏に連れ込み、尋問をしようとしているのだから。
「…じゃあ、沈黙魔法を解くね。」
帝国兵が喋れないのはマーレの沈黙魔法によるものだった。呼吸はできるから死ぬことはない。だけど声はだせない。魔法というのは便利なものだ。
「たっ、助けてくれ!」
それが帝国兵の第一声だった。まあ、無理もない。いきなり拉致られて縛られて、睨まれたら誰だってこうなる。佐官クラスならともかく、階級の低い一般兵だ。尋問なんてされたことないだろうし、されるとも思わなかっただろう。
「別に殺そうとかそういうことは思っていない。この街の状況を教えてくれないか。」
リミエラが優しい口調で話しかける。安心したのか、帝国兵は少しずつ落ち着き始める。
* * *
40分ほどたっただろうか。大体の状況は把握できた。おおむね街の人の話どおりだ。この帝国兵は街の人に帝国の恐ろしさを植え付けるため、派遣された兵士の一人。他にも数人だが、交渉という名の脅し、暴行をするための一般兵が遣わされているようだ。
「…恐怖で民を支配する。卑怯なやり方だ。」
ジャスミンは帝国兵に憤っていた。王国襲撃の時から、帝国のやり方は気に入らない。
「だけど、ずいぶんあっさり話したね。大丈夫なのかな?」
シズクは不思議そうに様子を伺っている。
…確かに随分あっさり話したな。もっと手こずるかと思っていた。帝国兵からは怯えるどころか、どことなく余裕そうな雰囲気すら伺える。
「…どうせお前たちは無事ではすまない。」
唐突に帝国兵が呟く。その口調は尋問を始めた時とは別人のようだった。
「今日は月に一度の士官クラスが街に訪れる日だ。お前たちが長々と俺に構っている間に、どうやらおいでなすったようだぞ。」
耳をすますと、なにやら騒がしい。街の人たちの怯える声。悲鳴。どうやら本当に士官の一人が来てしまったようだ。
俺たちは顔を見合わせる。とりあえず、撤退するにせよ、攻勢をかけるにせよ後手に回るのはまずい。ここは帝国領の近くだ。長期戦になればなるほど増援を呼ばれ不利になる。
「…退こう。」
少しの話し合いの末、俺たちの出した答えは撤退だった。こちらは人数がいるとはいえ、帝国兵の戦力はその比ではない。もしここでの戦いがうまくいっても、追われ続ければ身体が持たない。レブタリア周辺は異世界人の捜索をやめ、他地域の捜索に力を入れる。
「そうと決まれば急ごう。声の感じからして、こっちに来てる。」
エルフの二人は耳が良い。俺たちは捕らえた帝国兵を騒がないように魔法で眠らせると、騒ぎの方向とは逆方向へと走り出した。
士官クラスと一言でいっても街を滅ぼす人もいるし、まともな交渉をする人もいます。




