学の都へ
旅行に行きたい。取材旅行に。
どれくらい走っただろうか。昨日の疲れが取れていないにも関わらず、俺たちはひたすら走り続けた。言葉も交わさず、ただただ帝国から逃げるように。
「…待って。少し…休もう…。」
リミエラの言葉で俺は足を止める。辺りを見ると一面の緑。長い森を抜け、俺たちは草原にいた。陽は落ちかけ、再び夜が訪れようとしている。
俺たちは草の上に寝転がる。昨日もこうやって夜空を見上げたっけ…。たった1日の間で状況は大きく変わってしまったが…。
リミエラの方を見る。彼女は泣きもせず、笑いもせず静かに夜空を眺めていた。俺は…かける言葉が見つからなかった。
少しの静寂の後、リミエラが立ち上がる。
「雅敏。私たちのこれからだけど…。ここから一番近い地方都市。レブタリアに行こうと思う。」
その声はまっすぐで、少しの迷いも感じさせなかった。俺よりずっと辛いはずの彼女が、俺よりずっと物事を冷静に考えている。
帝国と対峙するといつも思い知らされる。己の弱さ。それは戦闘能力だけではない。この世界を生きていくための心のあり方。精神的な強さ。元いた世界では絶対に考えることのない死との対峙…。
「分かった…。俺はこの辺りの地形は詳しくない。案内してくれないか。」
色々と考えることは多いが立ち止まっている暇はない。帝国の勢力が拡大してる現状、リグガルスの爺さんが俺たちを逃したことも既に伝わっている可能性は大いにある。そうなれば再び追っ手が向けられるだろう。
俺たちは少しの休憩の後、レブタリアに向かって歩き出した。
* * *
地方都市レブタリア。街の大きさは王都や、カレーダルトほどではないが新興都市として様々な産業が発展し、観光資源も豊かな都市だ。また、多くの教育機関を抱え世界中に優秀な人材を輩出している学都でもある。
王都とも帝国とも関わりはあったようだが、世界崩壊後は帝国からは離れ独自の発展を進めているようだった。
新型兵器が使われ、黒い雨が降った日から一週間程が経っていたが身体に悪い症状は出ていない。疲れはあるが数日休めば治るだろう。
「疲れたね…。とりあえず休みたい。」
リミエラがふらつきながら俺に寄りかかる。
普段なら動揺するところだが、俺も同じように疲れているため休むことしか頭になかった。
俺たちは宿屋に入る。しかし、どこも人が多い。観光客で賑わうこの都市では宿を取るのも一苦労だ。結局俺たちは小さなゲストハウスのような共同宿舎で休むことになった。
「…疲れたな。」
部屋に入り、即座に宿のベッドで横になる。上下で二段に分かれた二段構造の小部屋。この時代でもこういう施設があるんだなと感心する。
心地よい眠気に誘われ意識が薄れてきたところで聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「む、このような施設は初めて見た。王都にもあるのだろうか…。」
数人の女性同士の会話。だがそのうち一人は確かにジャスミンの声だった。
最近修行パートとかで堅苦しかったので。こういう感じで。




