貴方の、その先へ
最近眠い。
雨は止んだ。雲は晴れて朝日が地上を照らす。
俺は家の外に出た。壁には薄く黒い雨の跡が残っている。この辺の雨にもあの爆炎の塵が混じっていたようだった。
俺も他の2人もだいぶ浴びた……実際どの程度の物かはわからないが体に影響が出てもおかしくないはずだ。
「雅敏、じーちゃんが……」
俺はリミエラとともに家に戻った。
リグガルスさんは上体を起こして窓の外を見ていた。
意識は戻ったようだ。
「……すまなかったな。危険な目に合わせた。まさか奴が来るとは思わなかった…」
リグガルスさんは申し訳なさそうにしていた。
リミエラは彼に駆け寄る。
「無理はしないで。ただの傷じゃないんだから」
「いや、話さなければならない。
帝国のことを…儂のことを……」
俺はリグガルスさんの気迫に押された。
「儂はかつて帝国の兵士だった。異変の起こる前のことだが…あのころの帝国…ルーイン帝国はまだ普通の国だった。今ほど侵略に勤しんでいたわけじゃなかった。すべてはあの異変のせいだった。帝国は変わったのだ」
彼の目には悲しみの色が浮かんでいた。
「リグガルスさんが帝国の兵士……」
「今は違う!奴らとは違う!今の奴らは化け物だ。力と恐怖で世界を支配しようとしている。それをゲームのように楽しんでいる……彼らの目的は単純。己の持つ力を周りに見せたいだけ。
ギリルもそうだ。昔はともに鍛錬した。しかし、奴は力に飲み込まれた。異変で…あまりにも多くを失い過ぎた……」
リグガルスさんは呼吸を整えた。
リミエラが背中をさする。
やはり相当無理しているようだ。
「大丈夫です。無理しないでください」
「ありがとう。だが、伝えなければならない」
リグガルスさんは立ち上がった。
リミエラが止めようとするが気迫だけでそれを制した。
物凄い威圧感…帝国の士官と戦っていた時と同じ気迫…
「悠長に話す時間はないようだな」
リグガルスさんは傍に置いてあった剣を手に取った。
制止することもできなかった。
できたのはただ彼の話を聞くことだけ……
「雅敏、お前は強くなれる。誰よりも友を仲間を大切にできるお前ならな。だからこそ、忘れるな。お前は脆い。それを補えるのはお前自身だけではない。
リミエラよ、彼を頼んだ。稽古を頼むぞ」
俺たちはリグガルスさんを追って家を出る。
家の前に立ち剣を構えるリグガルス。
その視線の先には帝国の黒い軍服に身を包んだ兵士が数十人…こちらへ向かってきている。
「行け。ここから先だれもお前たちを追うものはいない。だから振り返るな」
それが、俺がリグガルスさんを見た最後だった。
眠いのは何も最近のことではなかった。




