弾丸の行方
9月初投稿です。
一通りの練習をこなした後、俺はその場に倒れこむ。キツかったが何とかやり遂げた。
正直『気』というのに関してはまだよく分からないが、じっとしてるよりはこうやって修行してる方が自分のためになるような気がする。体を動かすことは気分転換にもつながるし。
「やるなぁ…!タフなんだね。」
リミエラもまた俺と同じメニューをこなし、息が上がっていた。俺たちは大の字に寝転んだまま空を見上げる。
「綺麗な星空…。」
崩壊した世界でも夜空だけは美しい。昼間の赤黒い太陽が浮かんでいる時間帯より心が穏やかになる。
元いた世界よりずっと綺麗な星空を見ながら物思いにふけっているとリミエラが横に来る。その手には俺のアサルトライフルが握られている。
「休んでるとこ悪いね。次の修行だ。」
これで終わりじゃないのか…。それに俺のアサルトライフルで何をするつもりだ?もしかして使い方も分かっているとか?
「これで私を撃ってくれないか?」
何を言っているんだ…?そんなことしたら無傷じゃすまない。下手すりゃ死んでしまう。何の意味があってそんなことをするのか?俺は焦って尋ねる。
「分かってる。これが危ない武器だってのも。眼鏡をかけた女の人に色々教わったのさ。私の恩人。」
聞けば彼女は昔、俺と同じアサルトライフル持ちの異世界人に助けられたことがあるみたいだ。世界崩壊直後のすごく治安が悪かった時のことらしい。その人は数日してすぐに他の土地へ行ってしまったとか…。
「私さ。すごく感動したんだよ。こんな世界でもさ、他人を助けようとしてる人がいるんだって。
でもそれと同時にさ、怖くもなった。これからは力のあるものに有利な世界が訪れるんじゃないかって。助けに来てくれた人も銃がなければ死んでたかもしれないわけだからさ。」
中々興味深い。特に異世界人の話だ。各地を転々とし、帝国の追っ手から逃れ続けていることを聞くとどうやら世界崩壊の被害を受けた側の人間のようだ。是非会ってみたい。
「で…修業つってもどうすんのよ?」
彼女は俺に銃を押し付けると少し離れた場所で両手を広げる。
「来い!」
…ダメだ。不安すぎる!リミエラが強いことは知っているし、銃の性質をある程度理解していることも知っている。だけど、敵でもない生身の人間を撃つことにはためらいがある!
結局、その後何十分もかけて彼女を説得するも、全く話を聞いてくれない。困り果てていると彼女が妥協案を出してきた。
「じゃあさ、あの木に向かって撃ってよ。それならいいでしょ?」
彼女は一本の木を指差す。まぁ、人に向かってじゃなければ…。俺もその案に従う。
ドットサイトを覗き込み、狙いを定めて銃弾を放つ。一連の動きを正確に、素早く。
玉は見事に…あれ…?
確かに発砲音はしたはずだ。
だが銃痕はなく、そこにはリミエラが立っていた。
「ふふ…どうよ!」
目の前には弾丸を持ったドヤ顔のリミエラ。
片目にはあの時のように光が宿っていた。
彼女は次の木を指差す。俺はさっきと同じように銃弾を放つ。
その後も何十発の銃弾を撃ち続けたが結局弾丸が木に当たることはなかった。
「ふー…疲れた。」
彼女は両手いっぱいに抱えた銃弾を自慢げに見せてくる。すごいな…これも気の力というやつなのだろうか…銃弾を防げるほどの力…。
是非教えて欲しい。期待に目を輝かせて彼女を見る。しかし、彼女の顔から先程の明るい表情は消えていた。
「…何か来る。」
見つめる先、遠くの空は赤く光り、再び戦いの日々が始まることを予感させた。
これも…気の力じゃな?




