死の森を抜けて
取材旅行おわり!素晴らしい旅行でした。
昔の俺ならどうだったかな。
森を走りながら俺は考える。
異世界に来る前の俺なら諦めていたかもしれない。投げ出したかもしれない。
……過去のことなんてどうでもいい。
あったかもしれないことを考えても仕方ない。
頑張る自分に酔ってる暇はないんだ。
足を止めることはできない。
後ろから迫って来るのは数千の虫の群れだ。空飛び迫って来るやつらはその全長は俺より大きい。
大きな顎をガチガチと鳴らす虫の群れ。重低音の羽音は何千と重なりまるで波の様だ。
俺は接近してきた1匹の虫を即座に斬り伏せた。見た目ほど硬くないのが救いか…
が、少し油断した。
足元から虫が現れたのだ。牙が俺の足を掠めた。
「くっ……」
バランスを崩すと両目の時の様にいかない。地面に手をつけなんとかバランスを立て直す。
目に追えない……
敵の数が多過ぎるのだ。そして不規則。人間の筋肉の動きとは違う動き。そして3次元の攻撃。
俺は咄嗟に近づく三匹にピストル弾を浴びせ射ち倒すとまた駆け出した。
昔ならば1匹1発だった。しかし、今はうまく遠近感がつかめない。慣れが必要だ。
なるほど修行だ。
しかしこれでは……
「ひぃ!死ぬものかぁ!」
俺は必死に走り続けた。
「なんでわざわざこんなとこまで?」
リミエラは擦り傷と泥と木の葉まみれの俺を見て首を傾げていた。
まぁ、無理もないな。
「俺の銃……あ、いや、持ち物!持ち物を返してくれないか?」
するとリミエラはなるほどと頷いた。
そして棚から俺のアサルトライフルを持ってきた。
「これね!いや、これはちょうどいいものでね。気の練習にはもってこいなんだよ!」
「それ、何か知ってるのか?」
「まぁね」
笑って言うが何故彼女が銃を知っている?
何かある…俺はそう感じた。
「さぁ帰るよ!また森を通ってね!」
リミエラは俺の肩を叩く。
……マジかよ。
再びリグガルスさんのところに戻って来るころには夜になっていた。
夕方の森は徐々に暗くなっていき正直怖かった。虫もいるしな。
「なかなかやるね!思った以上だよ!」
リミエラが褒めてくれた。
ありがとよ。
「じゃあ今から『気』の訓練をするよ!」
ま、マジかよ。今全力で森を抜けて来たとこだぞ…力なんて残ってるわけ……
彼女にそんな言葉は通じなかった。
俺の地獄の様な修行ははじまったのだ。
命に感謝を!




