彼女が瞳を開くとき
一夏のアバンチュールです。
俺は王国で身につけた剣術でリグガルスさんを追い詰める…はずだった。しかし、いくら振っても剣はかすりもしない。
振るうたびに感じる違和感。片目が見えないことによるものだろうか。認めたくない。俺は無我夢中で剣を振る。
「ふむ…思っていたより動きづらいみたいだね。」
身体がふらつく。息が荒い。俺は動きを止める。
「……。」
俺の様子を見て彼もまた、剣を収める。
「少しすれば慣れる。焦ることはない。
君さえよければこれからも稽古をつけるが?」
俺は頭を下げ、頼み込む。
再び戦うために協力してくれるなら誰だっていい。この人が何故、誰もいなくなった帝国領で一人暮らしているのか、俺を助けてくれたのか。一度は死にかけた命だ。強くなれるのならその過程はもうどうだって構わない。
俺はそう思えるほど、自分の弱さが嫌でたまらなかった。
* * *
結局その日の稽古はリグガルスさんに傷ひとつつけることなく終わった。
俺は心身ともに疲れ果てた状態で小屋に戻る。
リグガルスさんはもっと良い部屋を紹介してくれると言ってくれたが、俺は断った。今日1日はこの部屋で考え事をしたい。俺が助けられた意味を、再び生きていく意味を…。
「あいつらは無事だろうか…。いや、きっと大丈夫なはずだ。」
自分に言い聞かせるように呟く。それより自分のことだ。このままじゃ俺はまた大切な人を失ってしまう。そうならないためにも、何とかして剣とアサルトライフルを使いこなせるように…。
「…あぁッ!」
何で俺はアサルトライフルのことを忘れていたんだ!あれが奪われたらマズい!帝国側には銃が使えるやつがいた。仕組みが分かれば銃なんて誰にでも使えてしまう!
俺は慌てて辺りを探す。ない!ない!ない!
荷物は一通りあるのにアサルトライフルだけがない!ピストルは…ある!
リグガルスの爺さんが持って行ったのか…?
とにかく聞いてみなければ…!
俺は腰に差したピストルの残弾を確かめた後、扉を開ける。
「…おわっ!」
目の前にいたのは赤い着物に身を包んだ女性。爺さんと同じ和服…手には料理を乗せたおぼんを持っている。
「夕食持ってきたんだけどさ…いる?」
少し迷ったが無下にするのも悪い気がして頷く。俺は再び部屋に戻る。
「えと…お前はリグガルスの爺さんとは…。」
「孫だよ。じーちゃんからあんたにさ、料理を運ぶよう言われた。」
彼女は胡座をかき、明るい声でそう答える。
なんというか、色々と無防備すぎて目のやりどころに困る。
「お前の爺さん、銃とか持っていなかったか?」
「銃…?」
あぁ、そうか。この世界の人たちは一部の奴を除いて銃を知らないのだった。俺はなるべく分かりやすく説明する。
しかし、彼女は依然として首を傾げたままだ。
やっぱり爺さんに直接聞くしかないか…。
「ご飯ありがとう!ごちそうさま!」
俺は飯を掻き込みその場を後にしようとする。しかし、彼女に肩を掴まれ止められる。
「待ちなよ。私はご飯を運ぶためだけにここにきたわけじゃない。夜の稽古を頼まれたのさ。」
夜の稽古…?何を言っているんだこいつは…。
頭の中が混乱する。駄目だ駄目だ!いやらしい想像をしている暇はない!銃を確認するのが先だ!俺は振り切って走り出す。
「あ、おい待て!」
彼女が制止する声を、はるか遠くに聞きながら走っていく。爺さんはどこにいる…?
「待てって!」
突如、目の前に先程の女性が現れる。
嘘だろ…。結構な速さで走っていたはずだが…追いついたのか?
「悪いな!お前を強くするために稽古をつけろってじーちゃんから頼まれてんだ。それが終わるまではどこにも行かせないよ!」
彼女は髪をかきあげ、隠れていた方の目で俺を見る。その目は赤く光り、残光が曲線を描いていた。
これは…気の力じゃな?




