老人と街
人は成長する。だからこれはきっと彼らの成長譚なんだ。
俺が再び目を開けると部屋には眩い太陽の光が差し込んでいた。
改めてみるとこの部屋……ボロボロだ。
太陽光は壁の亀裂や天井の穴から差し込むものだった。
「目が覚めたか」
不意に声がした。
俺が周りを見ると1人の男が立っていた。
白い髭をたくわえた壮年の男だ。しかし、その風貌にはどこかただならぬものといった雰囲気がある。
しかし何か異質だ。
着物を着てるし刀を差している……どこか和風だ。この世界では異質に見える。
「みんなはどこに?」
俺が口にした疑問。
それを聞き、老人は顎髭を触りながら思考していた。
「この状況下で聞くことはそれか…いや、いい。他にもあるだろうがね、聞きたいことは。ひとつひとつ解決しよう」
老人は自分の近くの椅子を指差し座るように示した。
「ふむ。さて、まず名乗らせてもらおう。お互いを知ることは大切だと思わないかね?」
俺は返事も頷きもしなかった。
しかし、彼は笑顔で頷いた。
「儂はリグガルス。医者でもある。気楽に呼んで構わないぞ」
リグガルス。
聞いた事ない名だ。
「では君の最初の質問に答えよう」
リグガルスは俺の前の椅子に腰掛ける。
「君の友達は今別のところにいる。というのも、あのまま帝国の元に君を置いておくのもマズイと感じてな。仲間に関してだが助けられなかったと、そう言っておく」
助けられなかった?
その言葉が俺の胸に突き刺さった。
右目が火が灯ったように熱く痛むのを感じた。
「おっと、心配することはない。彼女は彼女で誰かが助けに来たようだ」
その言葉に俺は安堵した。
もしかしたら俺を落胆させないための嘘かもしれない。
しかし、それでも少しは安心できた。
安心することしかできなかった。
「ここは?ここはいったい?」
「うん。ここはカレーダルトからはだいぶ離れている。帝国領ミズバレード……昔はそこそこの街だった」
リグガルスは立ち上がると部屋を出ていった。
俺は慌てて後を追った。
置いてかれてはたまったものではない。
まだ足が痛むがとにかく歩いた。
外に出てその光景に唖然とした。
街はその面影を少し残し森の中に沈んでいた。空には木が枝を伸ばし、木漏れ日が街の跡を照らす。
「異変で滅びた?」
「そうだな…半分はあっていて半分はハズレだ。異変後も人はいた。しかし、今は儂1人だ」
確かに中には後から建てられたであろう新しい家もある。
しかし、どれも焼かれたり破壊されている。
この形跡は帝国軍に襲われた町々と同じ…
「リグガルスさんは何故1人でこの街に?」
「何故、か……望郷か、そんなところか。この街以外行くところもないからの」
俺たちは街を歩く。
異世界に来てから特に不思議な光景だった。街とそれを覆う森。不思議な魅力に包まれた廃墟。
しかし、リグガルスの顔は哀しげでどこか遠くを見ていた。
「君は王国の騎士だったね」
「あ、まぁ」
木の生えていないある程度大きな広場のようなところまで来て、リグガルスは不意に足を止めた。
「剣は?」
「得意ではないですか騎士としてそれなりには」
「ふむ……」
リグガルスは髭を触りながら少し考え、
「少し手合わせでもしてみるか?」
不意に地面に落ちていたものを拾い上げた。
それは木でできた剣だった。
老人はほいっとそれを俺に投げてきた。
剣はずっしりと重い。しかし、王国で使っていた鉄の剣よりかは軽い。
これくらいなら振れる。
「うん。きたまえ」
相手は老人。気をつけないと殺しかねない。
だが俺は思い知る。自分はもう昔の自分ではないことに。そして目の前の老人がただの老人ではないことに。
リュック汗が背中にたまる。




