懐逅
取材旅行に出発しました。アサ無に活かしてみせます。
協力する…?オーナーが帝国に…?
そしたら俺たちはどうしたらいい?
この街はたくさんの帝国兵がいる。
そして俺たちの顔は割れている。
俺はとっさの勢いで扉を開く。
「何者だ…?」
オーナーが俺の方を見て尋ねる。
「佐藤正敏と申します。王国から来ました。」
オーナーが驚いた顔を見せるが他の二人は動じる様子もなく、黙って俺の方を見ている。
「失礼します!」
少し遅れてクリノスが部屋に入る。
「クリノスか…今日は随分と客人が多いな…。」
「オーナー、少しお話ししたいことがあります。」
不審な面持ちで彼女はオーナーを見つめる。
辺りに緊張感が漂っている。
「我々は席を外しましょう。」
帝国兵の少年がニーナを連れ、外に出ようとする。俺は必死でそれを追いかける。
クリノスはそれを呆れた様子で見つめていた。
「あいつは本当に…。申し訳ありません。オーナー。」
三人が退出し、静かになった応接室。
しかし、緊張が解れることはない。
* * *
「待てよ!待てって…!」
俺は焦っていた。二人に逃げられないように…。
ここで見失ったら今度こそニーナがいなくなってしまう気がして…。
二人が振り返る。こうしてみると二人ともとても帝国兵には見えない。どこにでもいる…普通の人って雰囲気…。ニーナも…あの頃から何も変わっていない。
「む。おい、マサトシ。ここにいた…か…?」
廊下の奥からジャスミン達が歩いてくる。その表情は見るまでもなかった。彼女もまた、ニーナを見て言葉を失う。
廊下には帝国の二人を囲むようにして俺とジャスミンが対峙する。これなら逃げられることはない。
ニーナに詰め寄る。抵抗はなし…か。なんだか不気味だ。だが、もう気持ちを抑えることはできない。俺は彼女の肩を掴む。
「…ッ!?」
しかし、触れた瞬間手を離す。
冷たい。人間の体温とは思えない冷たさに唖然とする俺を見ながら、ニーナは微笑みかける。
「マサトシさん。お久しぶりです。元気にしてましたか?」
この口調。間違いなくニーナだ。俺のことも知っている…。だけど、死んだ眼で俺を見つめる彼女は…本物に限りなく近い贋作のような…。
「お前は…一体何者だ。ニーナに何をした…。」
ジャスミンが帝国兵の少年に問い詰める。
「私は…帝国の兵士。名はエルクと申します。
彼女に関しては私もよく分からないのです。何しろ私がこのような状態にした訳ではないので。」
エルクと名乗った帝国兵は顔色一つ変えず、淡々と質問に答える。その瞳はニーナと同じように濁っており、同じ人間とは思えない。
「ふざけるな!ニーナが…帝国兵になる訳がない!」
俺は怒りの感情を言葉にしてぶつける。催眠か?洗脳か?なんにせよ彼女が自分から帝国兵になるなんて…ありえない。
「…そう申されましても。現にここにいるのは彼女の意思ですから。私には分からないのです。」
俺は再び声をあげようとする。しかし、体の自由が…効かない…。声が…出ない…?
「申し訳ありません。予定がありますので、失礼させていただきます。」
眼を凝らすとエルクの周りには細かい粉のようなものが待っていた。不覚だ…奴の攻撃に気付けなかったなんて…。
ジャスミンの方に目をやると、霧のようなもので粉を防いでいるのが見えた。だが、相当な負担がかかるようでその場から動けずにいる。
「ではでは…。またお会いしましょう。」
「さようなら。また二人に会えてよかったです。」
二人は交互にそう告げると、粉が舞い続ける廊下を静かに歩いて行った。意識が遠くなる…二人の姿を眼で追うのがやっとだ…。
* * *
「おい、大丈夫か!?」
しばらくした後、ジャスミンが魔法を解き駆け寄ってくる。俺はかろうじて意識を保っていた。
「俺のことは…いい…二人を…。」
そう口にするのがやっとだ。ジャスミンが心配そうな目で俺を見つめている。
あぁ…俺はまた、足手まといになってしまったのだ。ニーナと別れたあの日のことを思い出す。あの頃から俺は何が変わった…?
だからなんで佐官クラスは一人で動こうとするの…?その秘密は次回明らかに…?




