非現実の街で
夏の終わりを想いながら執筆しました。
「ちょっと複雑だけどね、抜け道があるんだよ。」
クリノスが得意げに話し始める。
「この町の一番大きな屋敷の地下。そこから外につながる抜け道がある。屋敷の主人はギルドの元オーナーだし、話せば協力してくれると思うよ。」
おお、意外と物事はスムーズに進みそうだ。解決策が分かったなら一刻も早く行動に移したい。
「ただね、問題が二つあるんだ。」
彼女は俺たちを手招きし、辺りの様子を伺う。
「一つ目はね、昨日からやけに街中に帝国兵、それと黒服が増えたこと…。
多分だけど…君たちを探してるんじゃないかな…?」
ジャスミンが窓から外の様子を伺う。
「確かに…多い。顔は割れてるだろうし…迂闊には動けないかもしれないな…。」
帝国側の対応の早さには驚いた。俺たちがそれだけ警戒されているということか…?
昨日の間に街を出るべきだったかもしれない…。
「もう一つは…まぁ、屋敷に着いてからでいいかな。」
クリノスはそう呟くと、俺の方に近寄ってくる。
「ところでさぁ、君異世界人だよね…?」
ち、近い…。相変わらず女性への免疫がない俺はおどおどしながらジャスミンの方に助けを求める。
しかし、彼女は商人風の男と話を始めこちらに気づく様子もない。
「顔を見せてもらってもいい?」
急接近からのボディタッチで思わず身を引くが、逃がしてもらえずじっとこっちを見つめてくるクリノス。直視できるわけもなく目を逸らす。
「ん。どうやら私の探してた人じゃなさそう。」
やっと解放してもらえた。いまだに心臓の鼓動が早い。
「まぁ、あの人たちは4人で行動してたし…当然か。」
少し寂しげな様子の彼女に俺は気になったことを質問する。
「あの、もしかして探し人って…。」
「ん?君みたいな異世界人だよ。私の村を救ってくれた恩人さ。」
4人組の異世界人…?聞いたこともない。この世界にはいったい何人の異世界人がいる…?
彼女に詳細を聞こうとしたところで肩をたたかれる。
「話をしているところすまないが、これに着替えてもらってもいいか?」
振り返ると村娘のような恰好をしたジャスミンがそこにいた。手には商人の服を抱えている。
* * *
「不自然じゃないかな…?」
クリノスと二人で屋敷を目指す。一斉に4人が廃屋から出てくるのは不自然だろうと2組に分け、俺たちは変装し別々のルートから屋敷を目指す。街中は昨日いなかったはずの帝国兵が至る所にいた。横を通り過ぎるたびに嫌な汗が滲む。
「堂々としてなよ。そんなびくびくしてないでさ。
ほら、屋敷が見えてきたよ。頑張れ!」
クリノスに腰のあたりを叩かれる。なんか俺の周りってこういう女性ばっかりだな…。
もう少しこう…おしとやかな女性はいないものか…。
「…止まって。」
屋敷まであと少しの所でクリノスが俺を止める。
屋敷の前には昨日の不気味な少年…と。
「どうする…。あいつはなんとなくだけどマズい感じがする。
……ねぇ、聞いてる?」
……忘れるわけがない。俺がフリッツが…どれだけ彼女の姿を見たかったか。どれだけ会いたかったか。
「ニーナ…?」
あの日と変わらない。ニーナの姿がそこにはあった。
ジャスさんは俺君の後ろで普通に着替えてました。人目とか気にしないタイプ。




