街は影に覆われる
誕生日
無理だ…
既に心はズタズタ。俺に一人で情報収集なんて不可能だったんだ。
いや俺だって異世界に来て変わった。
野球部だった頃のトラウマも騎士団の訓練に比べればなんてことはないと思えるようになったし、ジャスミンやフリッツ、他の騎士団たちと共に過ごしコミュニケーション能力が付いた。
が、見知らぬ土地の見知らぬ人に積極的に話しかけるなんて俺にはハードルが高い!
しかたない。
俺はもっと別の方法をとることにした。
「ふむ…ラヴェリアファミリーか…」
物陰に隠れて先までいた建物…昔のギルドを見ていた。
つまり、張り込みだ。
「黒服が常に見張ってるな……」
黒服たちは見るからにやばい雰囲気だ。
やばい薬とか人身売買とかしてそうだな…いやこれはきっとしてる。
さてさてこいつらが何をしているのか。今この街はどうなっているのか。じっくり観察してやろう…
俺はなんかわくわくしてきた。
こういうの少しやってみたかったんだ。真正面からの戦闘も嫌いじゃないが。
その時、黒服たちに動きがあった。
建物の前に馬車が止まったのだ。
「誰だ…?あの大男は?」
大男…まさにその通り、でかい。獣人族か?
周りの黒服よりも高級そうな黒い服を着ている。
明らかにランクの高い奴だ。幹部か?ボスか?
「!?まだだれか乗っているな……」
俺は馬車を注視する。
その人影はゆっくりと馬車から降りた。
小柄な少年?一見ただの子供だが…
この服装…こいつは!
「おい!貴様!そこで何をしている!!」
× × ×
「聖騎士団の方!?ここでその名はあまり出さない方が賢明ですぞ」
小柄な商人風の男はジャスミンを物陰に誘導した。
ジャスミンは首を傾げついて行く。
この国は王国とは友好的な関係であるはずだ。
なにもこんな隠れてこそこそする必要などないはずだ。
商人風の男…彼は王国の人間だ。国々を歩いて行商をしているが王国騎士団のスパイのような役目も担っている。異変後の世界情勢調査の為に彼のような人間が世界中にいる。
彼はこの国に数年いるはずだ。なにがあったのか知っていると目を付けていた。
「ここなら大丈夫でしょう」
「どうしたんだ?ギルドは怪しげな連中に占拠されているし…」
ジャスミンは街を見回す。
どこか町全体が暗いような気がする。
男は物陰から周りを見てなにかを探っている。
「あいつ…あの黒服わかります?あれ、見覚えがあるはずです」
男に言われジャスミンは黒服を見る。
ラヴェリアファミリーじゃない。黒服は黒服でもあれは軍服だ。
あれは、帝国軍だ。
「帝国の秘密警察です」
「なにがおきたか読めてきたぞ…」
街の状態は彼の話と今までの道中でおおよそ察することができた。
しかし、情報はまだ全然少ない。
「ラヴェリアファミリーについてはより詳しい人間を探しておきますぞ。ただ一つ言えるのはあいつらはまっとうな奴らじゃないってことです。どんな汚いことでもする連中です」
「肝に銘じておく」
より多くの情報が欲しい。
なぜここに帝国軍がいるのか。
帝国軍とラヴェリアファミリーにどんなつながりがあるのか。
気になる点は多い。
「彼以外もあたっておくか」
ジャスミンはそう思い街の中心へ向かおうとする。
その時だった。
「いや、まって!俺は関係ないっす」
黒服に引きずられる男…あれは見覚えがある。
「マサトシ……何をやっているんだ奴は……」
商人風の男、名をジャニー・レオポルです。年齢43歳。王国の諜報員の一人です。戦闘力はゼロです。




